妻と私の五十年戦争

あきのななぐさ

第1話 手紙1

「さて、あなたはこの手紙をいつ見つけたのでしょうか?」


 丁寧だが癖のあるその字体を、私が忘れるはずがなかった。いつの間にかやってきた三回忌を終え、半ば脅迫的にはじめなければならなかったその準備。それがなければ、私がこの手紙を目にすることはなかっただろう。


 客間の押し入れの中に置かれていたその手紙を――。


 客を迎え入れるわけもない私が、今さら客間に用事などあるわけがない。そもそも、あれから私は何もする気がなかった。いや、する気がないという気持ちよりも、そう考える気力すらなかった。たまに来る娘たちに『ゴミ屋敷』と怒られても、それを受け止める気持ちが私にはなかった。


――からっぽの私には、もう……。


 ただ、私の中にあるとすれば、このままひっそりと放置しておいてほしいという願いのようなものだろう。だが、それはかなわぬ夢と知る。私以外の時間が過ぎていたことで……。


――いつの間にか、孫が成人していたとは……。


 確かに、そういう話を三回忌の時に聞いたような気はする……。ただ、成人式という行事は、私にとってはテレビの中の出来事にすぎない。しかも、成人の日はとうに過ぎてしまっている。しかし、その孫娘が妻に『成人の報告をする』ために家に来るということで、いきなりそれは身近なものとなってしまっていた。


 孫と亡き妻との約束であるために――。


 ただ、私にとっては寝耳に水のその話。だが、娘によると、それは『妻が孫娘と交わしたもの』だったらしい……。妻に『成人の報告をする』ために家に来るという孫を、私の一存で追い返すわけにもいかない。しかも、何故かこの家に泊まるという話にもなっていたようで、布団や部屋も用意しなければならない始末。灰色に取り残されていた家にとって、それは台風の到来を告げるようなものだった。


 だが、私は家の事は全て妻に任せていたので、どこに何があるのかわからない。妻の入院中の着替えなども、娘にすべて任せていたから尚更だった。しかし、いざ取り掛かってみて、私は驚きを隠せなかった。


 埃をかぶっているとはいえ、どこに何があるかわかるように、この家の中はしっかりと整理されていた――。


 その中で見つけた妻からの手紙。見つけてくれとばかりに無造作に置かれていたその分厚い封筒。


 そこには私の名前と共に、妻が亡くなる前日の日付が書かれていた。



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