15 星ノ9「兆候」(1)



「あの時の、銀河の輝きを放っていた瞳の君が」






星ノ9「兆候」(1)






トネロとジェリカは、その日の夜深くまで、思い出話や宇宙科学の話をしたのだった。


翌日からというもの、トネロとジェリカは常に一緒に行動するようになり、妹のアンジェは不思議に思っていた。

というのもトネロとジェリカの親密さは、はたから見ると明らかに恋仲のそれであったからだ。

しかしアンジェは、両者にその事については触れずに、優しく見守るような姿勢をとっていたのである。


それから1週間かけ掘削マシンは、ヒマワリから流れる地下エネルギーの上部まで掘りすすめたのだった。そこまでの深さになると特殊スーツでなければ作業できず、トネロ、アンジェ、ジェリカはそれを着用し、作業用ドローンで足場を作っていた。


足場が出来上がるとその足場から、かなりの熱をもって流れている地下エネルギーの測定に入った。

1400度を越す地下エネルギーは、調査地周辺での流入量減少が外部調査で分かっており、エネルギーの通り道の中で、現調査地がいちじるしく流入量が少なく、唯一実地調査ができる地点であった。


その後2週間かけ測定を終え、掘削箇所の埋め戻し工程に取り掛かろうとしていた。


「カラスさん、このひと月の間に姉さんとどこまで進んだんですの?」


その日アンジェは、全員で昼食を終えたあと珈琲を飲んでいたトネロに、自分の気になっていた事を尋ねたのだった。


「ぶっ!」


「ちょっと! 大丈夫ですかカラスさん! 私そんなにマズい事を聞いてしまいましたの?」


トネロは飲んでいた珈琲を、思わず吹き出して

しまったのを、ジェリカは持っていたハンカチで拭いた。


「ちょっと何やってるのジェリカ、あまりカラスさんに変な事を言わないでちょうだい本当に」


ジェリカは地下エネルギーの測定データと、周辺の流入量のデータをまとめたものを、アポロへ送信し終えてトネロとアンジェの元へ来た。


「ゲホゲホっ! いやジェリカ、仕方ないさ。アンジェも気になるだろう」


「でも ……」


ジェリカは不安気な表情でトネロを見つめる。


「はいはい分かりました! もう聞きませんわ。姉さんが私に言いたくなったら教えてねー。それと少し気になる事があるんですの …… 姉さんとカラスさん、体調の変化は感じない?」


それはアンジェが、この調査地に入って初めて体調の事を気にした初めての言葉だった。

アンジェは地下エネルギーの測定に入った日の翌日から、朝と晩に妙な感じの体調不良を感じていたのである。


「アンジェ、君もか …… 実は俺もなんだ。ジェリカ君はどうだ?」


「ええ、少し違和感は。でもただの疲労感だと気にしないでいたのだけれど」


「君は金星での地質調査もしただろう? その時と比べてどうだったんだい?」


「えー、比べられないわそんなの。だってかなり過酷な調査でしたもの。みんなピリピリしていたし体調不良の一つや二つは当たり前でしょう?」


「そうか、そうだな。一度夕食時に皆に聞いてみよう」


「そうですわね。姉さんの言う事ももっともだし、皆さんにも聞いてみましょう」


そう話終えたが、アンジェはなにか釈然しゃくぜんとしないまま作業を始めたのだった。



その日の夕食後、トネロはビルソッチと部下達にその質問をした。しかし全員、そんなに体調は良くないと訴え、一同は終始考え込んだが、埋め戻しをする前にもう一度、有毒ガスや音波、電磁波等の計測をするよう満場一致で決まったのであった。


翌日、一同は丸一日掛けて掘削地と周辺一帯の計測をしたが、特に目を引く数値は見られず、その後全員のバイタルチェックもしたが以上は無かった。


その事を、その日の内にアポロへと報告したアンジェは、予想外の返事が返ってきたのであった。それは掘削箇所を埋め戻すなというのである。

足場も作った状態で残し、軽くふたをするように底の部分は固めておいて欲しいという事だった。この返事はアボロの執政補佐 兼 書記官のブレンダが、アンジェに直接送ったものであった。


それから3日掛けて掘削穴を補強工事し、あと二日程度で全行程を完了できる段階まできていた。

その日の夜、いつものように夕食をとり終え、各自それぞれの時間を過ごしていた。


「なあジェリカ、今夜も星が綺麗だ。もう何日も一緒に過ごせる時間が残っていない」


「そうね、一緒に星を見ながら話ましょ」


「なあジェリカ。よかったら、この調査が終わってからも会えないか?」


「…… ええ、そうだね。でも」


「ここで! ここで会おう! ここでこうやって過ごしたみたいに。ここから見る星々は1番綺麗だから」


「うん、そうだね」


トネロとジェリカはそう約束し、手を繋いだまま夜深くまで、同じ時間を楽しんだのだった。




星ノ9「兆候」(1) 完

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