14 星ノ9「瞳の輝き」





「…… ふん、まあいい。今はデル・タマーガが最優先だからな」


「それでトネロ殿が言う、セバス港のカラスの姉が一体何なのですか?」


「……ああ、あれは260年前 ――――」






「妹さんからお話伺っており楽しみにしていました、私は ……―― !!」



「ん? どうかなさったの カラスさん?」



「……ト、トネロく……ん?」



「ん? 姉さんも? トネロ? 誰の事ですの?」





星ノ9「瞳の輝き」






「あ …… 申し訳ない。私は地元ちげんの里、セントの星外調査機構から派遣されたカラスと申します。よろしく、ジェリカさん ……でしたかな?」


「…… え、ええ! ニューバーグのアポロで宇宙科学を研究してますジェリカと言います。…… カラスさんはのご出身ですか?」


ジェリカは懐疑的な顔で、トネロの顔をまじまじと見ている。


「ああ、はい。生まれも育ちもディス大陸です。地元ちげんの里で ……」


「ウーン、なんか変な感じですわね。まあいいわ! 姉さんもお腹空いたでしょ昼食にしますわよ!」


「あ、アポロからお母様のレシピデータをコピーしてきたわ。アンジェが食べたいと思って! 夕食に調理するわね」


「えー! 流石ね姉さん。これで調査期間が長引いても乗り切れますわ!」


「ほう! アス大陸の料理ですか! それはそれは …… ではビルソッチ殿達を呼んできましょう」


トネロはそう言うと、ビルソッチと部下が作業している場所へ向かったのだった。


昼食を済ませたトネロ達は、またそれぞれの作業に戻り日が降りるまで続けた。

ソルビッチと部下達は周囲の整理を、トネロとアンジェは調査機具の片付けや今日の報告書をまとめ、ジェリカは夕食の準備を始めたのだった。


「ん? この香り…… なんだか懐かしいな」


「えー 何言ってるんですのカラスさん。これは私達のお母様がよく作ってくれてた、アラン族の伝統料理ですのよ? ハハハ」


「あ、いやそうですね…… それじゃついつい私も、伝統料理とやらに自分の故郷の料理を重ねてしまったかなハハ……」


トネロはジェリカが料理していた香りに、本当の懐かしさのあまり、思わず本音が口をついて出てきてしまった。

それを聞いたアンジェは面白そうに笑っていたが、料理をしながらその様子を見ていたジェリカは、自分が、トネロに持ったカラスという名前に、懐疑心が益々強くなるのを感じていた。


「ソルビッチ殿、お疲れでしょう。さ、こちらへ」


トネロは周辺整理を終えたソルビッチを、自分の隣の席へと誘い、セントから持参した酒を、食料コンテナから取り出し用意した。


「あーいやいや、これはすみませんなカラス殿! ほう、地元ちげんの里の酒ですかー」


ソルビッチは珍しそうに、その酒瓶を手に取り瓶の底まで眺めた。


「カラス殿は、イケる口ですかな?」


「いやまあ、少しなら。サンミエルから新設されて間もない部隊が、警備や支援をしてくれると事前に伺ってたものですから。ぜひこの美味い酒を振舞おうと考えてました」


「そうですかー、それは感謝します! サンミエルの書記官であるジレン様というお方が、これまた随分な酒飲みでしてねー、これを見たらさぞ我慢ならんでしょうなーハッハッハ!」


当時ジレンはまだ元老ではなく、コウタの執政補佐官 兼 書記官であったが、実際は元老と何ら変わらない権限を与えられていた。


「コウタ様の書記官殿ですか、噂に聞いた事はあります。外交手腕は中々の手練てだれだと有名なお方ですね。そうですか、酒の方も中々ですか」


「はい、酒癖も悪いんですがね。でもコウタ様に負けず劣らずの情熱じょうあつきお方でもあります、が口も負けず劣らず悪いですがハッハッハ」


「それは一度是非ともお会いしたいものですね」


ソルコンチの父ビルソッチは、やはり実父であって笑い方や忠臣ちゅうしんな所は、しっかりと息子へと受け継がれていた。

そしてトネロはこの数ヶ月後、ジレンに会いにサンミエルへ出向く事になるのであった。


トネロとビルソッチの談笑もおさまるころ、ジェリカの料理を手伝っていたアンジェが、両者の所へやってきた。


「はいはーい、もう夕食が出来ましたわよ」


「ほう! それはありがたいですな! それよりアンジェ殿、アンジェ殿は言葉遣ことばづか上品でありますなー」


「そうですわねー。私のお父様が、私の言葉遣いが乱れるとお尻をペンペンと――」

「そうですか! お父上が ……カキカキ 」


「ちょっと! ビルソッチさん? 子供に暴力はダメですわよ!」


「そう、ですなぁ。カキカキ 暴力は、カキカキ ダメですなぁ!」


そんな他愛もない話をしていると、料理の盛り付けを済ませたジェリカが、綺麗に盛り付けられたアラン族の伝統料理を運んだ。


配膳を手伝ったトネロが、その様々な料理を見て一際目を輝かせていた。


「はい、お待たせしました皆さん。ではいただきましょう、今日一日お疲れ様でした」


そうジェリカが夕食の音頭おんどをとり、それぞれが作法をした後夕食を取り始めた。

しかしジェリカは、トネロの食事する姿をつぶさに観察していたのだった。、


「んー! これはまた、なんという美味うまみ! ねえカラス殿!」


「ええ、ええ、とてもおいしいです。とても……」


ジェリカは、トネロがアラン族の伝統料理を食す姿を見て、何か確信を得たような顔をしていのだ。


夕食も食べ終わると、普段は各自設営した仮説住居に入って各々おのおのの時間を過ごしていたのだが、アラン族の伝統料理を久し振りに口にしたトネロは、気分が高揚こうようしたのか、外へ出て酒をたしなんでいた。



「からすさん」


「あ、ジェリカさん。先程はおいしい民族料理を振舞っていただき、ありがとうございました」


「いえ、そんな。お口にあったでしょうか」


「ええ、とても美味しかったですし、何より…… 故郷の温もりのようものを感じました」


「…… そうですか。それは良かった。少し私の話をして良いですか?」


「…… ええ、構いませんよ」


「私の家族は昔、アス大陸の田舎に住んでいました」


「……」


「そこは昔ながらの風習も残る、ちょっと時代錯誤さくごな面もある村で、当時宇宙科学に興味を持ち始めた私でも、なんだかその事に後ろめたさを感じてしまうほどでした」


「……不自由な村ですな」


「…… ええ、不自由な村でしたが、暖かみのある村でもありましたよ」


「……」


「私は、その村でこのまま宇宙科学を勉強するのは限界があると思っていたころでした。5区画先の集会場で、子供達に宇宙科学を教えている若い男性がいると聞きました」


「……」


「私はそれを聞いたその日の内に、その集会場に行きました。もう夜で子供達への授業は終わっていたのですが、その男性はまだ残り、翌日の授業の準備をしていました」


「それは熱心な方ですね、ハハ」


「うふふ、そうですね…… その男性に無理にお願いして、その時間から私の為に準備をして欲しいと。…… そう無理なお願いをしました ……」


「……」


「するとその男性は、子供達の為にと明日の準備をしていたにも関わらずに。…… なんて言答えたか憶えてる? くん」




「……君のその、銀河みたいな輝きをした瞳でお願いされると…… 断れないよ」



「そう、よく憶えてたね? 嬉しい ……」



「ジェリカ、君にはかなわないよ本当に……」



「あなたを見て信じられなかった。だけど……」



「俺もだよジェリカ …… まさかこんな所で、こんな形で…… ローク族として……」



「…… なんで、なんで今はローク族として?」



「色々あったんだ。本当に、色々。だけどいつも心のどこかに君がいたよ」



「……」





「あの時の、銀河の輝きを放っていた瞳の君が」





星ノ9「瞳の輝き」完

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