13 星ノ8「カルマ」



「…… デル・タマーガの合同調査跡地には、その女の『 姉 』がいる」







星ノ8「カルマ」






イズ大陸 北の町ノーラン 北部駐屯地 第3詰所



『姉? そのセバス港にいるカラスの姉が、合同調査跡地におるというのか?』


「ああ、そしてその姉、『ジェリカ』は俺にとっても大切な存在だ」


『大切な、のぉ……して、なにゆえ地下エネルギーを?』


「これが世間に知れると、間違いなく混乱を招く恐れのある事だが……」


『なんじゃ』


「ヒマワリの地下エネルギーは、我々ホモサピニッシュに様々な弊害へいがいを与えている可能性がある」


『な、なんじゃと?』


弊害へいがい…… トネロ殿、それは"カルマ"ですか?」


「ああ総隊長。察しがいいな…… だがそこまで言いきれる材料がほとんどない」


『……』



カルマとは、ホモサピニッシュが子孫を残す際に、一番危惧きぐされる、原因不明の"忌病きびょう"である。


惑星イルスーマに住む三種族のホモサピニッシュは、子孫を残す際にお互いのひたいを合わせる。そしてその後3時間かけて女の口腔こうくう内上部に子種こだねを宿し、6時間かけ胎児になり、そこから更に9時間かけて赤子になる。


問題は、口腔内上部に子種が生成され、口内から出し外気に触れると、およそ7割がひび割れ裂けてしまうのだった。

この事から、いつの間にか"忌病 カルマ"とおそれられ、夫婦となった者達はその都度、絶望に打ちのめされていたのであった。



「それに、弊害へいがいはおそらくカルマだけじゃない。ホモサピニッシュの身体からだ全体に影響を及ぼしている可能性がある」


『……』


「なんとも…… 信じ難い話ですね」


「……おいジレン。なに黙っている」


『……』


「ジレン様?」


「お前、いや、お前を含めたケイン様、コウタ様、たつき様。それぞれ知っている隠された秘密があるな?」


「……秘密?」


『…… なんじゃ、なにが言いたい』


創星五傑そうせいごけつ


創星五傑そうせいごけつ…… この星を創星した者達、ですか?」


「ああ …… おいジレン、どうなんだ」


『わしからは答えられんの、それは絶対に許されん』


「…… ふん、まあいい。今はデル・タマーガが最優先だからな」


「それでトネロ殿が言う、セバス港のカラスの姉が一体何なのですか?」


「……ああ、あれは260年前 ――――」






―――― 260年前 デル・タマーガ半島 合同調査地



「―― という事でわたくし、サンミエル特別騎射隊 インパツェンド総隊長のビルソッチ他二名が、周辺警備及び、調査支援を任されました。カラス殿、アンジェ殿、宜しくお願い致します」


「ほう! イズ大陸スーチルの、あの新設された部隊の。いや心強いですねそれは」


「そうですわね、こちらとしても力仕事できる方がいらしたら、調査だけに集中できてはかどりますわ」



それは260年前、デル・タマーガ半島において、ヒマワリの地下エネルギーの流入量が低下していた事で、コウタが、たつきとケインに合同調査を打診したのであった。


そしてトネロは、元々アラン族の民であった。宇宙科学の知識があったトネロだったが、若干の危険思想があった為、アス大陸の田舎では職が無く、小さな集会所で子供達に宇宙科学を教えていた。


そこへ、たつきの潜伏部隊がトネロに接触。

かなりの高待遇を条件に、ディス大陸 地元ちげんの里の民政総本部施設セントにある、星外調査機構へ連れていったのである。

そうやってディス大陸へ渡ったトネロは、セントの中央機関から新しい身分証や I Dを支給されると、名前もカラスという職務上の別称を与えられ、ローク族の民として生き始めたのだった。


「しかし、掘削マシンを使っても時間がかかるな。これは数週間では済まんかもしれん」


「ええ、カラスさんの言う通りね。こんな硬度を有していたとは思わなかったわ …… アポロから姉さんを呼ぼうかしら」


「ほう、アンジェさんには姉君が?」


「ええ、アポロで宇宙科学の研究員をしていますの。先日は金星で、大規模な地質調査を指揮した優秀な研究員ですわ」


「おお! 大陸ニュースにもなったあの地質調査を! それに宇宙科学ですか…… 話が合いそうですね」


「お二方とも、大変なお仕事をされてるんですなー。いや頭が下がります。私どもはここでは簡単な警備と、少しの力仕事でしか貢献こうけんできませんなハッハッハ」


デル・タマーガでの合同調査地の地質は、かなりの硬度があり、当初予定していた30日を大幅に上回りそうだあった。

その為、アス大陸 ニューバーグのアポロから派遣されたアンジェは、急遽きゅうきょアポロから、技術開発局で宇宙科学を研究していたアンジェの姉、ジェリカを翌々日に呼び寄せたのである。


デル・タマーガの調査地に部下二人を残し、ジェリカの迎えに、調査地の入口付近まで出ていたビルソッチが戻ってきた。


「さあ、お待たせしましたー! お連れしましたよ! では私は部下の手伝いをして参ります」


「あ、ありがとうございます、お気をつけて」


ビルソッチが連れてきたその女性ジェリカは、真っ白な大きな日除けの着いた帽子を、軽く手で押さえながら、少し恥ずかしそうにトネロへ軽く会釈えしゃくした。


アンジェと共に掘削途中だった巨大な穴の底へいたトネロも、下から見る陽の光がまぶしかったのか、一先ず軽く会釈をしアンジェと簡易エレベーターで戻ったのだった。




「姉さーん、ごめんなさいね無理言って!」




「いいのよ、ブレンダ様からも許可いただいて抜けてきたから!」




「あ、紹介しますわね! こちらセントの星外調査機構で、宇宙科学を研究されてるカラスさんですわ」




トネロが挨拶のために、有害ガス無効化マスクを外して、改めてジェリカに顔を向けた。




「妹さんからお話伺っており楽しみにしていました、私は ……―― !!」




「ん? どうかなさったの カラスさん?」




「……ト、トネロく……ん?」




「ん? 姉さんも? トネロ? 誰の事ですの?」





星ノ8「カルマ」完

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