16 星ノ10「飲み仲間」
それから二日後、合同調査は無事終了し、それぞれに挨拶を済ませて別れたのだった。
星ノ10「飲み仲間」
トネロは一旦、
しかしトネロは、アンジェや他の者が言っていた体調不良の事が気になり、自らのバイタルチェックを調査中常に記録していたのだった。
そのデータと毎日の日誌を照合し、ある関係性に辿り着いた。
それは感情が上がる日は、微妙な値だがバイタル数値に異常が見られる事だった。
つまりジェリカと行動時間が長かったり、会話が盛り上がったりした日は、バイタル数値が下がっていたのである。
この事に一抹の不安を覚え、アス大陸のアポロにいるジェリカへとデータを送っていた。
ジェリカはトネロから送られてきたそのデータを見て、トネロと同じ不安を感じなるべく早く調査跡地で再開しようと伝えたのであった。
しかしトネロは、セントの総本部長 てるみ から、トネロ自身がとる行動を逐一報告するよう命令されており、気の向くまま好き勝手にと動けなかったのである。
しかし総本部長てるみへ、イズ大陸に渡りヒマワリやテラマウンテン周辺も調査しないと、地下エネルギーの流入量減少に直結するものが見つけられないと
たのだった。
その甲斐あって、サンミエルへの調査許可の申請はトネロ自身で行うのが条件として出され、サンミエルへの渡航と調査許可を得たのだった。
2週間後準備を済ませ、ジェリカとの再開日より3日ほど早くスーチルに入ったトネロは、安宿を探した後サンミエルへと向かった。
それは調査という名目ではなく、サンミエル執政補佐 兼 書記官のジレンに取り入り、メリアへの巡礼の超法規的なフリーパスを得る為であった。
そしてそれは、ディス大陸地元の里セントの星外調査機構のカラスではなく、アス大陸の片田舎から来たトネロとしてである。
これはトネロにとって大きな賭けであったが、ビルソッチからジレンの情報を散々聞き出していた為、自信があった事に疑問は抱かないのであった。
ただ一つ問題なのは、サンミエル周辺、引いてはスーチルの街の中では、ビルソッチやその部下達と鉢合わせする可能性もあるため、フードを深々と被る事を心掛けたのであった。
昼間はサンミエルの周辺を散策し、夜はジレンが酒好きというビルソッチからの情報をもとに、酒場を中心に回る事にした。
日が落ち辺りもすっかり暗くなって街に煌々と灯りがともり始めると、トネロも酒場が集まる方へと足を進めた。
「なんじゃ頭様! ここでいいじゃろうに。どうせ紅茶の味しか分からんのじゃから」
「いいかジジイ、俺だって酒の味ぐらい分かるんだよ何年生きてると思ってんだ」
「だからここが美味い酒を出す店じゃて説明しておりますのにぃ。頑固じゃなあ」
「頑固じゃねーんだよ、嫌なんだよこの店は!」
「子供かっ!」
「こ、こどもだとぉこの野郎 …… あっそ、もういーや元老の件は先送りな」
「…… ダメじゃ、完全に子供じゃ。わしがずっと忠義を尽くしてきたこの男は子供じゃった」
「くっ、おいジレンもうその辺にしとけよ、流石に度が過ぎるぞ」
トネロの目の先には、酒場の前で口論しているコウタと当時は書記官であったジレンがいたのだった。
その様子になんとも空いた口が
「…… ちょっと、何してんのこんなとこで」
「…… あ、お、おう。いたのかここに」
「なんじゃ
「なんだしょっぱいって、意味分かんねーんだよクソジジイ、もういい! 俺帰るからな!」
「かぁー、やっぱりしょっぱいのぉ。あ、つばさ様わしと一緒に飲みますかな?」
「いや、むり。ジレン酒癖悪いし」
「な、な…… な」
「ちょっとコウタ待ちなさーい! 昼間の事まだ済んでないでしょ! 待ってって、ねーー!」
「あ、行ってしもうたわい …… わしどうしよ」
トネロはディス大陸の
それよりまずアポロの統治者ケイン、セントの統治者たつきが街の酒場で側近と酒を飲むという話すら聞いた事が無かったのだ。
目の前の事を理解するのに少々戸惑ったが、これが好機と思い、酒場の前で年甲斐もなく立ち尽くしているジレンに歩み寄った。
「大丈夫ですか? 何やらいざこざのようでしたが」
「あ、ああ …… なんと?」
トネロは思った『え? この爺さんただ酒飲む相手が居なくなっただけで何も耳に入らなくなるほどショック受けてんの?』
しかしジレンにしてみれば、一人で飲む酒など死んでも飲まないというポリシーがあった。
そしてつばさにも酒癖が悪いからという、酒飲みにはなんとも効くボディブローを打ち込まれたため、立ち尽くすのも無理はなかったのであった。
「あ、いえ、私などで良ければご一緒させていただきますが。あ、私巡礼でスーチルに滞在しているトネロといいます」
「おお! なんと! 巡礼者の方でしたか! そうですかそうですか」
ジレンはそう言いながらも、早速トネロの背中へ手をやり酒場の中へと強引に押していったのであった。
「いらっしゃいませー。あ! ジレン様! 先程つばさ様が表に出て行かれませんでしたか?」
「知らんわぃ! それよりこちらの客人とわしの席を用意してくれ」
「きゃ、客人ですかハハ」
トネロは、自分がいつの間にか客人扱いになってる時点で、もう当初の目的の達成までは
「は、ただいま。……おーい! ジレン様とお客人様の席を用意して差し上げて! ささ、ジレン様とお客人様どうぞ中へ」
そう酒場の店主が中へ誘導する際に、ジレンの上着のポケットへ紙きれを入れた。
「ん? なんじゃこれ」
「え? つばさ様のお会計でこざいますよ?」
「な! なんでわしが払わにゃならんのじゃっ!」
「だって…… いつもつばさ様がいらした日には払いはサンミエルでと……」
「お …… お、お、なんじゃとおおお!?」
「では、ごゆっくり」
「なんじゃそれ! わし今初めて聞いたぞ!! え、え? つばさ様今までサンミエルの経費で酒飲みよったんか!? え、え、初めて知ったわい! なんじゃーあのバカップル!! ふっざけんじゃないわーーい!!」
ジレンはそう叫びながらも、店員は慣れた様子でジレンを中へと連れていったのだった。
「な、なんだか想像していた感じじゃないが、これは確実にイける」
そう確信したトネロは完全に不安が消え去っていったのだった。
「まま、お客人乾杯といきましょう」
『かんぱーいっ』
「恐縮ですが、いただきます」
「何をー。遠慮なくいかんと酒も美味くなりませんぞなッハッハ」
「これはこれは勉強になります……」
…………
…………2時間後。
「ほんっとあのバカ
「大変ですねえ……」
トネロは1時間以上もジレンから同じ話を聞かされていた。
「はあ。これは流石にもう宿に戻りたい」
「んん? ……なんじゃあ、今おぬしなんて言いおったあ?」
「あ、いえ。流石にもう飲まないほうが、と」
ジレンの周囲には既に酒場の3分の1の酒瓶で埋まっており、店主も時々外へ出て周囲の酒場に酒を買いに行っていたほどであった。
「さっきからあ、思いよったんじゃが。おぬし敬語はやめんかあ」
「え? いえ! そんなお立場も私などが口を聞けるなど」
「かまわーん! 酒はのお、対等に飲むのがいっちばん美味いんじゃてえ、そう母ちゃんが…… あ、いや父ちゃんがあ。ん? わしにそんなもんはおらんかったあ」
「それでは、ゴホン!……ジ、ジレン?」
「なんじゃあ」
「ジ、ジジ……レン?」
「だからあ、なんじゃあ」
「ジ、ジジ…… ジジイ?」
「ぶっころおおおすっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「カッカッカッ! 冗談じゃあ。おぬし名前なんと申したかのお?」
「トネロ、だ」
「トネロかあ、なんじゃおぬしアラン族かあ」
「ああ、まあ」
「そうかあ、歳も割といってそうじゃのおー」
「そう、かもしれないな」
そんな様子でジレンとトネロは朝まで飲み明かしたのだった。
「じゃトネロや。……あったまいったあ。また連絡して飲むぞぃ。いったあ」
「そ、そうだな。オエェ…… でも俺はサンミエルに用事があるからオエェ。一旦宿に戻って顔オエェ、出す」
「そうかあ。いったあ、じゃ受付のケイという女性にわしの連れじゃと伝えるんじゃあ」
「わかったオエェ……」
そう頭痛のジレンと
その3時間後。
「あ、はい。ジレン様のお連れ様ですね、伺っております。執務室までご案内致します」
そう受付係のケイがトネロをサンミエルの執務室まで案内した。
「こちらです、どうぞお入り下さい。あ、本日のジレン様は二日酔いですので、予めご了承くださいませ」
ケイがそう微笑んでトネロを通した。しかしその先には、ソファーにぐったりと死に体のような老体を転がせているジレンの姿があった。
「おい、ジレン大丈夫か?」
「あー、なんじゃトネロか。用はなんじゃったかのお? いったあ」
「酔い醒ましは使わない……のか?」
「はあ? あんなもん使ってまで酒飲まんわい。用事なんじゃて」
「あ、ああ。メリアへの超法規的な巡礼許可を二名分貰いたいのだが……」
「ああそうかあ、じゃあさっきのケイに用意させるから今日はもう
「あ、ああ分かった……」
こうしてトネロは難なくジェリカの分の超法規的巡礼許可を得たのだった……。
星ノ10「飲み仲間」完
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