11 星ノ8「旧知」(1)
「いえいえ、ただ……バルシーは私を目の前にしてもなお、あんな部下を
「な、なんと!?」
「でも愚行を働いた事に変わりありませんからねー。中尉にもなった身が、今から警備隊はかなり
星ノ8「旧知」(1)
ニックキンの部下へ、インパツェンド総隊長自ら辞令を発した。
酒場の店主に、すぐにでもその報告をしたかったソルコンチだったが、その
「すみませんが、ニック。本部に連絡して、被害を受けた酒場に出向くよう指示をお願いします」
「は! 総隊長! ……おい! 総務部へ繋げ!」
「は! 直ちに!」
「うーん、なんですかこの回りくどさは」
ソルコンチはそう言うと、表へ行き立番の若い隊員へ声を掛けた。
「今から中で重要な話をしますから、男が逃亡しないよう頼みますよ?」
「は! この身に代えても!」
「その身はあなただけの物ではないでしょうに」
「あ、失礼しました! ……自分は天涯孤独ですから」
「……所属と階級」
「は!――」
それを聞いたソルコンチは、ニックキンにこの隊員の身元を尋ね、数ヶ月後サンミエル特別騎射隊への配属が履行されるのであった。
隊員の名は かいむ。ローク族でディス大陸から単身で移住した青年であった。
この青年の存在が、後にソルコンチにとって重大な出来事の発端となるのであった。
所内へと戻ったソルコンチは、出入り口にニックキンと座り、テーブルを挟んで男を座らせた。
男の拘束具は、ニックキンの指示によって解かれ、ソルコンチは持っていた珈琲を隊員に渡し、男にもその珈琲を出すよう、隊員に指示した。
「さて、と。先程は身内のお見苦しい所をすみませんでした」
ソルコンチの言葉に反応する気配は、全くといっていい程感じられない。
ソルコンチも、最初から素直に話すとは考えておらず、先ずは何故カラスという人物を追っているのか説明した。
「しかし総隊長、その……閣下がメリアから感じたものとは一体」
「勿論、閣下しか分かりませんよ。しかし問題は、閣下が懸念しておられる事ですからねぇ」
ソルコンチはニックキンと会話しながらも、視線は男を観察しているように見つめる。
しかしその姿は、帽子と上着が一体となっているもので、鼻から上の表情がはっきり認識できないでいた。
「珈琲です、総隊長」
隊員が3つの珈琲を、それぞれの前まで配膳した。
そのままソルコンチとニックキンは珈琲を
「ん! これはんー。おいしいですね総隊長」
ニックキンが目を輝かせながら、一口また一口と美味しそうに
「そうでしょー!? 私も初めは気が付かなかったんですよ。流石司令長官ともなれば分かりますねーハッハッハ! ……さ、貴方も……」
「……チッ」
男は珈琲へ手を伸ばしながらも舌打ちしたが、カップを口に近づけた。
ソルコンチはずっと見続けている。
「――ッ!!」
ソルコンチは、男のその反応を見逃さなかった。その反応は、それを仕掛けた側でなければ、確実に見逃すであろう。それぐらいごく
男の反応に確信を得たソルコンチは、すかさず問いかけた。
「さて、貴方も質問ばかりでうんざりでしょうから、早く終わらせましょうか」
その言葉を聞き、男は目先まで深くかぶったいたものを
「単刀直入にお聞きします。貴方はディス大陸からデル・タマーガ合同調査データを持ち出した『カラス』で間違いないですね?」
その時であった、酒場の被害状況を本部から確認しに行った役人と、酒場の店主が第3詰所へと入ってきたのである。
「――!! マスター……」
「ハァハァ、ソ、ソルさん……」
『ビビ!ビビ!……』
それは酒場の店主が、ソルコンチの名を口にしたのとほぼ同時に、サンミエルにいる政務官エマナからの通信が、ソルコンチの端末を鳴らしたのである。
「はい、エマナどうしました? ……はい? ……それは。はい、ええ…… ――ッ!!」
エマナは、サンミエル特別騎射隊インパツェンド総隊長のソルコンチに、コウタの今の状況、デル・タマーガ上空の正体不明の物体、ボサ
その情報を、ソルコンチへ共有するようにと、ジレンから指示を受けたのである。
「エマナ、その映像っ ―― ええ。お願いします」
そう言って連絡を終えると、ソルコンチは無言のまま端末をテーブルの上へ置いた。
「そんな事が……」
「そ、総隊長? 一体ど ――ッ!!」
『 ――ッ!!』
端末から映し出された映像に、所内にいた全員が言葉を失った、男以外は。
「…… これがボサ
「総隊長 …… ここはデル・タマーガ半島ですか?」
「ええ、そうみたいですね。そして閣下は今たつき様、ケイン様とアス大陸西側沖合い47キロの上空で対峙してるそうです」
「……ハハ、それはまた……」
ニックキンも北部駐屯地に来るまでは、サンミエル特別騎射隊 本部長として、同盟会議でソルコンチと席を並べる事もあり、三族長の喧嘩ぶりを度々目にしてきたのであった。
ソルコンチは酒場の店主もいたが、それを見ていた所内の隊員達にも、事の事情を説明したのだった ――――
――――「では …… これを見ても驚かなかった貴方が、私の先程の質問に答えてくれるよう願っていますよ?」
「……」
「…… この期に及ん――」
「トネロさん!! この方なら! ソルさんなら話を聴いてくれます! …… あなたを信じる私を …… 私を信じて下さいっ!!」
「トネロ? ……ローク族、ではないですよねえ? ディアモン族でもな――」
「俺がカラスだ」
「やはり、そうでしたか」
「トネロさん……」
「マスター、全部話すよ。もう黙っていても時間の問題だったからな。それに……マスターあんたを信じて正解だった」
「トネロさん」
「黙っていてくれたんだな。……この総隊長さんがそれ相応の対処をしてくれたよ、あんたの店をめちゃくちゃにした奴らを」
「え……? 」
「ハッハッハ、マスター、天誅は下されましたよ……本当に、申し訳ありませんでした」
「ソルさん……あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
「それで、何から聞きたい?」
「ふむ、何はともあれ話がスムーズにできますね。ところで、お願いがあるのですが……」
「なんだ」
「貴方に差し支えなければ、サンミエルと回線を開いたまま……話を聞かせていただきたい」
「……誰が聞く」
「族長執政補佐官 元老ジレン様……」
「ジレンか ……話をする前に話させろ」
「ジレン様とですか?」
「そうだ」
「んー…… しかし、ジレン様は閣下
「構わん」
「いや貴方が構わなくても、私がおこ――」
「知り合いだ、構わん」
「!! そうなんですか?」
「ちなみに、総隊長……あんたの父上も知ってるぞ」
「……デル・タマーガの」
「そうだ、それより繋がないのか?」
「あ……ああ、ただいま……」
『ピピ!ピピ!』
『ソルコンチぃ、状況は把握したかの? まあいいわぃんな事は。おぬしぃ、よろこべ! びっくりするぞぉぉっ!! 誰が来とると思うか?』
「俺だ」
『……なんじゃ? 俺? ソルコン――』
「俺だばか」
『……なんじゃソルコンチ、ばか? はて……耳が遠くなったかのぉ』
「俺だばか」
『くっ……、おいソルコンチや』
「何だ? ボケたか?とうとう」
『くぅおおらああ!!ソルコ――』
「もう勘弁して下さいよ!! ジレン様ー、私の声も分からないですかあ!! 」
『ぬ、ソルコンチの声じゃな……誰じゃさっきのは』
「久し振りだな、ジレン。……トネロだ」
『トネ……な、なんじゃとぉおお!?』
星ノ8「旧知」(1) 完
『はて……トネロ? 誰じゃったかのぅ……』
「……くっ……」
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