08 星ノ5「心」



   ――ネリスマリ大洋――



ディス大陸 ローク族 族長 簑ヶヰみのがいたつき


イズ大陸 ディアモン族 族長 てつ コウタ


アス大陸 アラン族 族長 ケイン



上空250メートル付近にて、三大陸の族長


そろみ。




頭様とうさま、分かっておりますなぁ? なるべく口喧嘩はめなされぇ。同盟会議も控えておりますし! サンミエルもデル・タマーガもたいへ――』


    ――――ブチン……――――





「相変わらずジレンとばっかり話してるのか」



「おお、なんで分かった? お前はエスパーか」



「……ん? お前エスパーだったのか? 浮いてるし」



「エスパーなわけ無いだろう。というかエスパーとは何なんだ。まあいい、だからお前は戦闘馬鹿だのなんだのと呼ばれるんだ」



「お前な、さっきも言ったと思うが、お前の所より俺の所の方が発展してんだぞ?」



「発展? ふん、笑わせるな。発展とは民族の誇りや、伝統が守られているのが大前提だ。お前の所は半分もう崩壊している」



「いや、お前のとこは民族というか、妹のおかげでたもってるだけじゃねーか。もっとつばさを尊敬しうやまえぶっ殺すぞ」



「お、いいぞ、もっとやれ」



「おい黙れ」



「お前が黙れ」



「お前こそ黙れ」


…… …… …… …… …… …… ……







星ノ5「心」






「おい」



「なんだ」

「なんだ」



「喧嘩は止められてんだ、本題に入るぞ」



「かまわん、それが本題だからな」



「……」



「おい、戦闘ばか」



「お、おい鉄!お前ぶっ殺されてーのか!?」



わめくなあああっ!!……本当の事だ……戦闘馬鹿」



「び、びっくりするじゃねーか……わかったよ」



「おい、戦闘ばか。なんで同盟会議に提出した実験予定日を守らない」



「そうだ戦闘馬鹿。お前はアラン民族の誇りを捨ててまで、約束を反故ほごにする気か」



「予定日だの約束の反故ほごだの。 毎度毎度、お前らの平和ボケにはあきれるなあ、クク……」



「おいたつき、こいつ今からぶっ殺すか?」



「うむ。出来れば俺一人で斬り捨てたいが、よかろう」



「ちょ! ちょっと待て!!」



「ん? 何だお前。なんかねーな」



「くっ……」



「コウタ、勘違いするな。真の馬鹿とはそんなところもあるのだ。気にするな、行くぞ」



「おいぃ!……」



「そうだな。イルスーマの平和は同盟会議で守られてんだ、いっぺん死ね ケイン」



「だからぁ! ちょっと待てって言ってんだろうがああっ!!」



「――!! おお、いつもの戦闘ばかだな」



「言っただろう。真の馬鹿とはこいつみたいな奴の事を言うんだ。散れ、戦闘馬鹿」



「お前らあ"あ"!! マジでケリつけてやるぞお"お"!!」



「いいじゃねえかケイン!! 久し振りに暴れるかああ!!」



「俺はお前達とは違うが、つばさが帰って来ない鬱憤うっぷんをここで晴らそう」



「気持ち悪ぃんだよお"お"!! シスコン野郎があ"あ"!!」



「ぶっ!!ぶっ殺すぅ!! ぶっ殺すぞぉー!! コワッパああっ!!」



「ほんとの事じゃねーかぁ!たつきいい!! キレんなああ"あ"!!」







アス大陸、ニューバーグの民政総本部施設アポロ

「ブレンダ様、ケイン様が予測された、お三方が揃うであろう時間になりましたが……」


「ええ。衛生MAからの映像を出して下さい」


「はい。……出ます」


「……案の定ですね。回線を開いて下さい」―――― 。



イズ大陸、スーチルの民政総本部施設サンミエル

「ジレン様! 始まりました! やっぱり始まっちゃいました!!」


「そうあわてるなエマナや。映像見とるんじゃから分かっとるわい。再度回線開いてくれるかの」


「ジレーン、ちょっと! ちょっと待って!……ハァハァ」


「――!! ……なんと。なんでここに……」―――― 。



ディス大陸、地元ちげんの里、民政総本部施設セント

元帥げんすい閣下! 繋がりません! たつき様は全通信回線をブロックウォールしています!」


「相変わらず抜け目無いですね、おさ。……心配するな、我等のお方に連絡ついている 」

―――― 。






惑星イルスーマの三大陸。その族長達が数十年ぶりかどうかの大喧嘩を、今まさに始めようという時であった。





「お"お"らぁぁ!!いぐぞーごらあああ!!」


『やめて下さい!ケイン!!』


「――ッ!! ブレンダか……チッ!」






「太陽まで飛んでいってみるかあ!? ボォケイインッ!! 」


「つぅぅばぁぁさぁぁあ"あ"!! かえってこぉぉおおい!!」


『帰らないわよ!! きっしょくわるい!!』


「――!! つばさか?」

「きしょくわるいだとぉぉお!――はっ!!」






『やめて下さい総統そうとう。我々の目的をお忘れですか?』


「ぬぅ、……分かってるよ」





「なんでつばさが……」


「つ、つばさ!? に、兄さんだよ?」


『いや兄さん、むり。……コウタも!今は止めてっ!』―――― 。





間一髪のところで、アポロからケインの執政補佐 兼 書記官のブレンダが。

サンミエルからは、たつきの妹つばさが、それぞれの感情を沈めたのだった……。


それから平然を保ちだした頃合いに、それぞれが装着していた通信端末に、たつきが使用していたブロックウォールという、全通信遮断システムを反映させた。

それは、半径1キロ圏内の映像と音声を、完全に遮断できてしまう先進技術の一つであった。


なぜそのような措置そちをせねばならなかったのか。

その事は、これから族長達が会話する内容に起因きいんし、恐らく三者とも、そんな話になるであろうと、容易よういに想像できたからであった ―― 。




―― ディス大陸、地元ちげんの里、民政総本部施設セント。



『ピピ!ピピ!』


「はい、嬢様」



『くろうどー? 一応治まったから! でも兄さんが、防衛システムのナンタラーとかいうの――』

「ブロックウォールです嬢様」





『…………でねー、通信できないみたいだけど心配しな――』

「はい、こちらで映像受信不可も確認済みです」






『……』

「??」





『…………あんたさー、喧嘩売ってんの?』

「――!! す、すいません嬢様!!」



『ふふ、冗談だよくろうどー。じゃあねー』

「あ! 嬢様」



『なにー?』

「ありがとうございます」




『くろうどが知らせてくれたんじゃーん、じゃーねー』

「あ、嬢様?」




『なによー?』

「いつ、戻られますか?」




『なんでー?』

「いや、たつき様が――」









『あんた、私の事好きでしょ……』





「――!!そそっ」

『ばれてんだからねー?』



「そん……な」

『兄さんもキモいし、くろうどもキモいからーかえらなーい』


「こ……こと」

『じゃあねー! 幼馴染おさななじみ大切にしなよー』




「はっ!! じょ、嬢様!?」




『……なによー?』




「たまには、里にお顔を」




『……わかったわよー』




「嬢様!」




『……なーにー?もー』




「おからだ、おさわりなきよう」




『うん……ありがとー、くろうどもねー』




「我々、ローク族は、いつでも嬢様の心に」





『………………』






「………………じょ、嬢様?」

    

    ――――ブチン……――――


「ええーーーっ!?」


「ど、どうされましたか!? 元帥閣下!」


「いや、何でもない。我等の嬢様は健在であった」



「そうですか……。早く帰ってこられると良いですね」



「そうだな……その〝心〟もちで待つのがいいのかもしれんな……」





(……そろそろ地元の里ここにも紅蓮ぐれんの花が咲き誇る頃ですよ嬢様……)




ローク族地元ちげんの里にある、民政総本部施設セント。

その元帥げんすいであるくろうど、そして総本部長書記官ひらぎ がした会話は

ローク族が簑ヶヰみのがいつばさに持つ、思いやりやおさしたう心が十分に感じられるものであった。



無論、つばさはローク族のではないのだが……。


惑星イルスーマ創星から372年……。


コウタ、たつき、ケインの大喧嘩は避けられた。しかし三者がこれから話すであろう本題は、デル・タマーガ上空に浮遊する、ボサ2ツーに似た物体の正体に迫る事を、各総本部施設にいる者達には、知る由もなかった―――― 。





その頃、イズ大陸北の町、ノーランに着いたソルコンチは、カラスらしき男が捕らえられた酒場に寄っていた。


邪魔しますよー」


酒場のドアを開け中に入ると、まだ準備中か店主がいないのか、非常灯だけが点灯していた。


「マスターは不在ですか、でも施錠してないとはこれ如何いかに」


ソルコンチが暗がりの店内の中、カウンターへ足を進めていると、自身が入ってきたドアから、店主らしき男が入ってきた。


男の顔は疲れ果てた様子で、ソルコンチの姿を見て力のない声を発した。


「またですか? もう知ってる事はありませんよ。それとお酒を、もう勝手に飲まないでいただけますか」


その言動から、店主で間違いないであろう事に確信を得る。

そしてカウンター寄りにいたソルコンチは、店主の言葉の意味を探るように

目を凝らしながら、目の前のカウンターの床を見た。


「酷いですねこれは……。念の為に聞きしますが、これは一体誰が?」


ソルコンチが目をやった先には、大量に割られた酒瓶やグラス。

むやみに食材を食い荒らしたような残飯で、カウンター側の床が埋めつくされていたのである。


「あ、あんたらじゃないか! 何を言ってんだ! もう帰ってくれ! 帰れえ!!」


ソルコンチは、店主の様子を見つめながら数秒考え込んで、そして店主の方へ歩み寄った。


「な、なんだよ! 暴力振るうのか! 北のイノシシと呼ばれる隊員が、一般庶民に手を上げるのか!」


店主は怒鳴りながらも、身構えるその憔悴しょうすいしきったような身体からだ

暗がりであゆむソルコンチでさえ認識できるほどに、ひどく震えていた。



「や、やめ……ちかづ ――!!」


「申し訳ありませんマスター殿。どうかお許し下さい」


ソルコンチは、震える店主の身体からだを包み込むように、背中へと自らの両手を回した。


「あ、な……なんだよアンタ……」


「私は、南の街スーチルにある、民政総本部施設サンミエル特別騎射隊。インパツェンド総隊長のソルコンチと申します」


「え? ……あ、あんたが?」


「マスター。北部駐屯地の隊員に代わりまして……」


ソルコンチはそう言うと、いつの間にか震えが止まっていた店主の身体からだから、自身が回していた両手を、優しく解き

その店主の目の前で、己の両膝を

重い音が店内に響く程の衝撃で

床へ、勢いよく、打ち付けたのだった。



星ノ5「心」完

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