07 星ノ4「ボサ2」(2)



スーチルの民政総本部サンミエル。32階にある気象観測局をはじめ、サンミエル内にある中央機関各局はあわてふためいていた―― 。


族長執政輔佐官ジレンは、その騒然としているサンミエル内の気象観測局にいた。


頭様とうさま……これは一体……」





星ノ4「ボサ2」(2)





ジレンは3次元ホログラムデータと、イルスーマの衛生MAエムエーから映しだされるデル・タマーガ上空の、ボサ2ツー酷似こくじした物体の映像を見つめていた。


「データ解析マシンはまだか……」


そうつぶやくと、即座に政務官エマナへと連絡した。


『はい!ジレン様』


「エマナや、マシンは自走で向かわせたのか?」


『いえ、緊急高速艇に20機格納かくのうし調査ポイントへ向かわせました!』


「そうか。うむ、よかろう。そのままこの回線を気象観測局につなげておきなさい」


そうは言ったものの、データ解析マシンをせた高速艇でも ある程度の時間が掛かってしまう事を瞬時に懸念けねんしたジレンは、一つ決断をしたようにうなずいた。

エマナがジレンに返す。


『はい!……兄様!ジレン様との回線を気象観測局と統合させて!……ジレン様、回線統合しました!』


「うむ。エマルタや、のボサ2ツー

高度万象こうどばんしょう検知機能"を操作できるか!?」


『ザワザワ……』

統合回線から職員達のざわめく声が入る。



「あ゛あ゛もう!! うるさいわいっ!!」



『も、申し訳ありませんっ!!』

局員達の謝罪が一斉に入る。


『は、はいジレン様!!7G量子コンピューターの使用許可を!』


「うむっ許可する!!」


『7G量子コンピューター起動します!!』


政務官エマルタは本来、科学技術者になりたかった為、スーチル内の優秀な科学技術者と同程度か、それ以上の知識があった。

そのエマルタが、第7世代目の量子コンピューターを起動させた事により、スーチルの街全体の送電システムが5秒ほど完全シャットダウンし、その影響を受けたスーチルの街はちょっとしたパニックを起こしていた。


7G量子コンピューター起動に、同フロア内が再度ざわつき始めた。それと同時にエマナの声が一際ひときわ大きく響いたのだった。


『スーチル全域!!サンミエル以外の建物全て、量子コンピューターの荷電かでんによる送電遮断を確認!!』

「……い、今は知らぁぁぁんっ!!」

ジレンが大きく叫ぶ。


直後にエマルタの声も響く。


『磁気圏ボサ2にエネルギー到達!!

高度万象こうどばんしょう検知機能"作動!!』









――――『無量大数の万象ばんしょうデータを識別固定! !』


!! !! !! !! !!


『すごい……』


エマルタのかたわらで見ていたエマナが息を呑みながらも、かすかに発する声が統合回線に乗る。



主要機関フロアの局員全員も、エマナが見ているものと同じ3次元ホログラムデータを目の前にし、超速的に集約される膨大なデータ量に一同は目が離せずにいた。



『惑星イルスーマ以上、衛生MAエムエー以下の範囲を固定! 』



「わしも見るのは3回目じゃが……すごいのぅ」



『ボサ2ツー磁気圏以下を固定!

イズ大陸、東側を固定!』



『ボサ2ツー検知範囲修正! テラマウンテンから1200キロ圏内けんない固定!!』



「きたかのっ!?」――――






――――『検知完了!! 』


「でかしたエマルタ!」


『……ジレン様 ……』


「なんじゃ! 何かでたんじゃろ!?」


『は、はい。……シ、Θシータ波とδデルタ波を検知しました……』



!! !! !! !! !!



「――!! はあ?」



統合回線『――!! はあああっ!?』



「……な、なんで脳波なんじゃ……」


『わ、わかりません……。それも、針が絶対振れない程の……専用測定機器でもはかれないほどの超微量な数値です。どういう事でしょうか……』


「どういう事って……わしに分かるはずがなかろう……」


そうため息をついたジレンは、頭を掻きながら続けた。


「エマナや、検知エリアの範囲に民が一人も居いなかったか確認してくれぃ。範囲を更にしぽり込んで、その検知を最後に、高負荷な機械は落とすぞぃ」


『はい、直ちに』


「エマルタや、最後に低出力で検知機能を作動し、より範囲をせばめて詳細を記録しなさい」


『はい、ジレン様』


「はぁー、何なんじゃ一体。しかしボサ2ツーに似たやつからはは出ておらんようじゃの、あとは物理的な解析か……一旦頭様とうさまに報告するかのぅ……」


エマルタから、期せずしてホモサピニッシュの脳波であるΘシータ波とδデルタ波の検知を聞いた気象観測局一同と、統合回線を開いていた各機関の全局員が、一様いちように疑問の様相ようそうていしていた―――― 。







――――サンミエルでの大騒動が一段落しようとした頃、コウタはネリスマリ大洋を自身の最高速度で飛行しており、アス大陸が目視できるかどうかの距離まできていた。


『ピピ!ピピ!』


「ああ! 俺だ! なんだ、ジレンか!? が何か分かったか!?」


『はいぃ! 一先ひとまず解析データを目の前に出しますぞ!?』


「ああ!飛んでるからな!頼む!」


『……ポチっとな』


「ああ!? なにぃ!?」


『何でもないですわい!』


ジレンが送信した3次元ホログラムデータが、高速飛行中のコウタの目の前へと、次々に表示されていく。


「ばっばか野郎!!前見えねーじゃねぇか!!」


『おっと……ポチッとな』


「ああ!? なにぃ!?」


『あ゛あ゛もう! 黙って飛んでなされ!!』


「チッ!……ああ! その量でいい! 次!」

『自動スクロールしますぞ!!』

「最初からしろ!!クソジジイ!!」


『おい、エマナや。お茶を頼む』


「――!! おい!ボサ2ツー万象検知ばんしょうけんち使ったのか!?」


『ええ!! 一刻も早い情報解析が必要でしたじゃろ!?……ゲホ』


「……街には緊急放送流したのか!?」


『事態が事態ですぞ頭様とうさま!! んなもん流してませんわい!!』


「……事後放送は!?」


『ぁ……エマナや、事後放送を頼む。の事は伏せてな』


「ああ!? なにぃ!?」


『心配なさいますなぁ!!』


「……なんだこれは!? 脳波じゃねーか!?」


『そうですぞ!! 』


「……βベータ波もか? ……」


『はいぃ!? 聞こえませんぞぉ!!』


「……」



『……』



「……」



『……落ちて死んだかの頭様とうさま……』


「聞こえてんぞ!!クソジジイ!!」


『き、聞こえとるんじゃないかぁぁ!!』


「……分かった!! 引き続き頼んだぞ!!」


『何が分かったか教えなされぇ!!』


「もうすぐアス大陸の領空なっ……い」



コウタが前方の上空に、二つの影があるのを発見した途端、飛行速度を緩やかに落としはじめた。




「……」



『なんじゃーもう』



「アイツらか……やっぱりな」



それは、アス大陸の領空内まで残り300メートル地点であった。

ネリスマリ大洋の、上空150メートルを飛行していたコウタより、更に100メートルほど上空にある二つの影を、コウタは認識していた。


『……ッ!!……ッ!!……』


ジレンとの回線はそのままに、物凄い早さで状況を整理していたのか、コウタの耳には全く届かない。


コウタは、そのまま速度を緩やかに落としながら、その二つの影の高さまで上昇していった。


『……ッ!!……ッ!!……』


コウタが近づくその二つの影は、コウタの様に空中に浮いている。


『……まったく何なんじゃ今日は、ゲホゲホ!!』


更に近づき、その二つの影の姿かたちが、はっきり認識できるまでになっていた。


「ジィ……」


『やっとわしの声が聞こえますかなぁ!?』


「すまんな。……つばさの兄貴も、ケインも……とる行動は一緒らしい」


『――!! な、なんでこんな時にぃ!!』


「……こんなとき、だからだろ」


頭様とうさま、分かっておりますなぁ? なるべく口喧嘩はめなされぇ。同盟会議も控えておりますし! サンミエルもデル・タマーガもたいへ――』


    ――――ブチン……――――



「……」


「相変わらずジレンとばっかり話してるのか」


「おお、なんで分かった? お前はエスパーか」


「……ん? お前エスパーだったのか? 浮いてるし」



ネリスマリ大洋、上空250メートル付近で空に浮遊する、ホモサピニッシュの男達が会話を始める。


「エスパーなわけ無いだろう。というかエスパーとは何なんだ。まあいい、だからお前は戦闘馬鹿だのなんだのと呼ばれるんだ」


「お前な、さっきも言ったと思うが、お前の所より俺の所の方が発展してんだぞ?」


「発展? ふん、笑わせるな。発展とは民族の誇りや伝統が守られているのが大前提だ。お前の所は半分もう崩壊している」


「いや、お前のとこは民族というか、妹のおかげでたもってるだけじゃねーか。もっとつばさを尊敬しうやまえぶっ殺すぞ」


「お、いいぞ、もっとやれ」


「おい黙れ」


「お前が黙れ」


「お前こそ黙れ」


…… …… …… …… …… …… ……








――――サンミエル内、政務フロア。


「ズズズ、ふぅー。なんちゅー事じゃ……」


ジレンの三杯目のお茶を、急須に入れてきたエマナが続く。


「大丈夫でしょうか」


人生初めての、7G量子コンピューターを起動し

人生初めての、ボサ2ツー高度万象こうどばんしょう検知機能を作動させた、極度の緊張のせいで、未だに手足が震えているエマルタが続く。


「だ、大丈夫じゃないだろう、どう考えても。各民族の補佐官が大多数いる同盟会議でさえ、口喧嘩が激しくなると激昂げきこうしだす族長達だぞ……」


「まずいのぅ……非常にまずい……あの

鹿が揃うとロクな事にならん」


「――!! ちょ、ちょっと!!ジレン様、まずいですよそんな事言っちゃ!!」


エマナが青冷めた顔であわてふためきながら、周囲を二三度、更に二三度見渡す。


「怖い怖い怖い怖い怖い……」


「ちょっと兄様まで!怖いのはこっちですよぉ!!……」


「エマナや。ちょっとこのお茶んじゃないか? ズズッ」


「もぉーー!! なんて日なの今日はぁ!!」



惑星イルスーマ創星から372年……。


ローク族 族長、ディアモン族 族長、アラン族 族長が揃った、ネリスマリ大洋の上空。


事態は、穏やかにお茶をすするジレンの、思いもよらない方向へと動きだすのであった。



星ノ4「ボサ2」(2) 完




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