05 星ノ3「抜け」



スーチルは、イズ大陸の南側にあり、その中心地に民政みんせい総本部施設サンミエルがある。

信仰に熱心な惑星イルスーマの民達は、そのサンミエル5階にある、テラマウンテン同盟保護局に巡礼許可を得る事で、メリアまでの連絡船を手配されている。

その連絡船は一日に、イズ大陸内のディアモン族のおよそ半数近くを送迎しており、ディス大陸のローク族、アス大陸のアラン族の巡礼も重なる日には、指定空路に連絡船が連なる様子から"黄金竜の道"とも呼ばれている。


コウタはその黄金竜の道より更に高い空を、アス大陸に向かって飛んでいた――――。




星ノ3「抜け」



スーチルのサンミエル玄関口。

昨日 もよおされたサンミエル建立こんりゅうパーティーの話題が至る所から聞こえてくるエントランスホール。

受付係のケイも例にたがわず、職務の合間合間に隣にいるもう一人の受付係、マーニャと盛り上がっていた。


「朝から盛り上がってますね。おはよう、ケイ マーニャ」


ソルコンチは特別な事がない限りは、毎日サンミエルへ顔を出し、ジレンと政務官兄妹エマルタ、エマナの4人で

サンミエルも含めたイズ大陸全域の各機関の報告や申し送りを確認し、それぞれの指揮系統に下ろしていく作業を行っている。


「あ!おはようございます、隊長」


「エマルタから、閣下の権限付与の通達があったと連絡ありましたが……ジレン様には連絡とれないんですよねー」


「え、そうなんですか? 良ければこちらで緊急連絡いたしますか?」


「んー、大丈夫でしょう。ご苦労さま」


「はい、隊長! 本日も頑張って下さいね!」


「はは……お互いね」


ソルコンチは時々自身の、サンミエル特別騎射隊インパツェンドの総隊長という肩書きは実は軽いんじゃないかと疑ってしまうのであった。

また受付係のケイも、インパツェンド総隊長にそう思わせてしまうほどの、魅力のある性格の持ち主だった。


「んー、ここにもいませんか……」


ソルコンチは1階会議室から3階5階10階15階職員居住フロア、25階36階レストランカフェ、40階高官居住フロア、150階族長フロアの隅々まで見渡し、最終的に222階望遠室まで探すハメになるのであった。


「ほ、ほんとにあのお爺さん……どこに居るんですか!」


『ピピ!ピピ!』

「はいはいエマルタ? どうしました? ……ええ? ええ、助かりました」


執政補佐 兼 元老付のエマルタはコウタとジレンの直属の政務官である為、常に両者の位置情報はエマルタの端末と相互通信している。


「そういえばあのお爺さん、昨夜は大騒ぎで大量に飲んでましたね……酔い醒ましに朝日でも浴びてるんですかねぇ」


そうボヤきながら最上階の望遠室まで上がり、室内へと入っていった。


「いたいた、本当にもう」


「……グゥ……グゥ……ググッ!!……グゥグゥ」


「権限付与の通達があったからいいものの、本来なら4人で会議してる時間ですよほんと。それにしても……」


ソルコンチは、インパツェンド隊長に就任してからというもの、ジレンから権力を持つ者の責任として、政治経済に始まりイルスーマの民族学に至るまで50年に渡って叩き込まれた。

それを思い返すと吐き気では済まされない絶望感が、穏やかにマッサージチェアの上でグゥグゥといびきをたてるジレンを目の当たりにし、怒りへと変わっていくのを感じ始めているのであった。

その感情に支配されるかのように、ソルコンチの左手が動きだす。



「だ、ダメだソルコンチ! 落ち着け私!……」




ソルコンチの声が段々と低く野太く、しかし確実に野性味のある発声方法へと変化していく。





「ぅ……ぅォォ、やめろ俺!誇り高きインパツェンドの総隊長だぞ!」





ソルコンチの左手がジレンの右 口髭くちひげへとのびていく。





「あ、あ、だ……駄目だ、もう、お……俺はもう! 誰にも!止められ――」


「ん、だれかおるの――」

「あ」

「あ……」




 

      ぶちっ!!!!



       ………………


「あ゛い゛だぁぁぁぁぁぁああっっっ!!」




星ノ3「抜け」完


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