ポン中のおじちゃん 

MOTO POMPER

第1話  OUTSIDE オナニスト

 刑務所には新入訓練工場という工場があって、普通の受刑者は初めに必ずこの工場を通り新入訓練を受ける。私はそこを卒業後、模範囚としてこの工場に配役され、年間約300人の受刑者の世話をしていた。


 当然現役(ヤクザ)もいれば、もうほとんど死体みたいなじいさまもいる。同じ懲役(受刑者)として立場は一諸なので、訓練生を怒らせないよう(揉めるとこっちも罰せられる事がある)教えるべきことを教えていたのだが、人間成長するものである。色んなヤベえ奴らを相手にするうちに、気付いたら彼らの心を最短で開くスキルが身についてた。


 心を開いた人間は良くしゃべる。もちろん勝手に話はできないが、休憩の間は懲役同士自由に話せる。私はそこで色んな話を聞きだしてきたのだが、やはりダントツでポン中(ポンプ中毒者=注射器中毒者=シャブ中)のおっちゃん達の話がおもしろかった。

 面白いのだが、当の本人達はそれに気付いていない。口角泡をいっぱいにためながら、真剣に話続けるわけだ。

 それがまた可愛くて、うざくて、たまにぶん殴りたくて、でもほんのちょっとだけ愛しいのだった。


ポン中にとって職質(警察による職務質問)は、地獄に連れて行こうとする鬼と戦うようなものだ。逮捕になれば初犯でなければ少なくても1年以上は刑務所に行くことになる。

警視庁24時やYouTubeではあまり流れないリアルな状況についてのべさせてもらうと、そもそもポン中は職質に対しての危機管理能力の高低差により、娑婆にいられる時間が決まる。

高い人でも使い続ければ3~5年後にはパクられてしまうことが多いのだが、低い人の場合、出所後3日でパクられたなんて人は、累犯刑務所にはざらにいる。嘘みたいな話だが、びっくりするくらいいた。



〈1人目〉


命名     アウトサイダー 

年齢     57歳 

身長     153㎝程 

特徴     白髪剛毛、指めっちゃ太短い、爪でかい、近い

後遺症レベル 強(勘ぐり、常に口元が動いている、常に歯を食いしばっている

         落ち着きがない等)



「俺なんかさ~出所して報奨金(刑務所でもらえるほんのわずかな給料)で速攻買い行ったんだわ。(シャブを)んで景気付けに濃いいの一発ぐう~っといって(打って)公園の便所でセンズリしてたんだけど、夏だったから汗だらだらになっちゃって、しょうがねえから外のベンチでエロ本見ながらやってたんだわ。

したらさ、あそこのほら、あの名前出てこないけど隣に郵便局があるほら、何つーんだっけ?あのでかい公園…」


   

   ‘‘いや知らねえし、そんなのどこでもいいから早く続き聞かせてくれ”



「電球が暗いんだよ。まったく公共の場なんだから もっと明るくしろっつ~んだよな、あんなんじゃ夜女の子あぶないよ」



   ‘‘いやいや突っ込むところがありすぎて言葉を絞れねえよ”



「で、しょうがねえからチンポコこすりながらエロ本の見える法見える方へ少しずつ移動して行ったらさ、前から女の人歩いてくんの全然気付かなくて


『キャーッ‼』


って悲鳴あげながら逃げられちゃったんだわ。で、俺その時ピピピッ!って頭が回転してさ、 “ん?このままじゃ通報されちゃうべ” って思ってさ、とっさの判断でその人に 『大丈夫ですよ』 って言おうとして、追っかけたんだわ」


“それはもはやホラーだね”


「でもズボンもパンツもどっか置いてきちゃったからさ、しょうがねえからエロ本でチンポコ隠して追いかけたら、通りがかりのサラリーマン2人がよ~、俺のことを取り押さえて、おまわりに通報しやがったんだよ全くよ~

人を変質者扱いしやがってよ~」


“そういうのが変質者っていうんだよ、おっちゃん”


いかにも肝機能が著しく悪そうな黒い顔をして、口角泡をまき散らしながら語る

このアウトサイダー(外でしちゃう人)は、聞くと刑務所8回目だそうだ。

報奨金

(刑務所での給料、入給10円くらいから始まる。出所時もらえる微々たる金)

で出所後すぐにシャブを買って、毎回こんな感じでパクられるらしい。


しかしどうだろう…何と爆発的…いや、芸術的に面白いエピソードではないか。

掘り下げればザクザク出てくるおっちゃん達の武勇伝…

これはここで私だけが独り占めしていたらバチが当たると思い、この日をきっかけにノートに書き留めていったのである。

毎週木曜日に入ってくる新入受刑者の中に、ポン中独特の動きをしているおっちゃんを見つけると、言葉巧みに聞き出していった。


ちなみにポン中独特の動きというのは、“シャブの後遺症による変な動作”である。

懲役の間ではこれを   “ 型(かた)”  と呼んでいる。

それだけ型が出ちゃってるポン中達が多いのだ。もう多すぎて馴染んじゃってる。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポン中のおじちゃん  MOTO POMPER @moto-pomper

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ