003集結とマナの訓練

 夕方、メイドに食事に呼ばれ、食堂に行くと既に全員揃っていた。

 アンディが席に着くと、家長であるレナードが神々に対して祈りを捧げる。他の家族も声を揃える。

 食事は辺境の村の割にはよい物だ。スープにも肉や野菜がある。芋も大きい。

 食べ始めてしばらくすると、レナードがアンディに


「午後は見かけなかったけど、何してたんだい?」


 とたずねる。アンディは隠すことでも無いと思い


「魔術の練習をしてたの」


 と答える。直也の記憶が残っているので、幼児言葉を使うのは若干抵抗があるのだが仕方ない。


「おお、アンディは魔術を練習してたのか。何か使えるようになったのか? ちょっとやってみてご覧」

「うん、わかった」


 と、素直に答えると、その場でマナボールを作って天井に向けて発射する。どうせ皆には見えやしないんだからと適当に光る球を想像してみる。

 するとアンディの目には白色に光るマナボールが天井に向けて飛んでいった。マナボールは天井に着く前に消える。

 アンディがふと皆の方を向いて見ると、皆、食事の手を止めて天井の方を向いていた。皆にもマナボールが見えていたようだ。これはアンディの想定外だった。よくよく考えれば魔術のある世界だし、見えてもおかしくない。だからアンディは


「アンディ、これは今日の練習の成果かい?」

「うん。パパ。今日初めて魔術の練習したんだよ。すごいでしょ」


 と開き直ることにした。

「アンディすごいな」「ぼっちゃま、やはり天才では」「アンディばっかりずるい!」

 などと家族の声が聞こえた。まぁ確かに魔術師の訓練をするなら、もっと年を取って字が読めるようになってからが当たり前だ。

 それにマナボールを打ち出すくらいの腕になるには、普通、今日の今日というわけにはいかない。食堂に集まった全員が騒ぐのも無理はないのだ。


「しかし、本当にアンディはどうしたんだい?」

「よく分からないんだけど、なんかできるの」


 答えになってないが、三歳の答えとしてはましなものだろう。アリアドネも惑星ジュラでの転生はアンディ(鈴木直也)が初めてと言ってたので、正直に全部話しても通じないだろう。


「んーー。よく分からないが頭を打った拍子に何か起きたのかも知れないな。なぁ、ターラ。とりあえず、明日デイブの所に行って聞いてみるよ」


 昼間は単純に喜んでいたレナードも、さすがにこれは異常だということで困惑している。そこでレナードは知識の豊富な神官であるデイブを頼ることにした。


「ねぇレナード。私、明日コンラッドを呼んでこようかと思うんだけど」

「あぁ、そうだなターラ。それが良い。デイブとコンラッドがいれば……」

「ねぇパパ、明日コンラッドおじさん来るの?」

「あぁ、そうだよ。といっても遊びに来るんじゃないんだから、邪魔しちゃ駄目だぞ」

「はーい」


 レナードは現在三つの村を領有している。一つは屋敷のあるクラーク村。魔術師コンラッドが代理管理しているサイオン村。三つ目に探索者ギルバートが代理管理するヘリオン村である。

 レナード達はかつて同じパーティとして冒険者をしていた。

 剣士でありリーダーのレナード。レンジャー兼薬師のターラ。神官のデイブ。魔術師のコンラッド。探索者のギルバートの五人がパーティメンバーである。

 そして彼らは、とある冒険での活躍を国に認められた。その報酬として、辺境の開拓村とはいえ、三つの村を領有し身分も騎士。そろそろ引退を考えていた彼らにとってこれは渡りに船であった。

 しかし、三つの村は歩けば互いに半日以上掛かる場所にある。管理するのも大変だ。道も悪い。

 そこで、距離のある二つの村を管理するために、副村長としてコンラッドとギルバートが他の村に派遣されたのだ。コンラッドやギルバートは定期的に報告などにも訪れる。

 しかし、それを待つより優先すべきだと判断されたのである。

 それだけアンディが行ったことは大きな事であった。


 翌朝。特にすることのなかったアンディは、もっと大胆に前世の記憶を使ってみることにした。すでに昨日、マナをボール状にして放つマナボールはできている。とはいえ、マナの操作にはまだまだ先がある。それを実践してみようと考えたのだった。

 同じ村に居るデイブはともかくとして、コンラッドは午後に来ると聞いた。それまでアンディは暇になったのである。


「さて。昨日は体内にあるマナの操作の練習をしたんだから、次は体の外とつないで循環してみようかな」

 アンディはそうつぶやくと自室のベッドの上で胡座あぐらをかくように座る。胡座のようであぐらじゃない座り方。けっと呼ばれる座り方である。

 そうして、アンディはまず両手の間にマナボールを作った。次にマナボールを頭のてっぺんにそれを持ってくると、頭の中ズブリとしずめた。

 体の中に入ったマナボールをアンディは感覚的に捉えている。頭頂部の霊的センターから、喉へとマナボールを持っていく。前世では楽々としていた作業だったが、この体でやるのは初めて。それだからか、それともアンディとしての経験が不足しているからか、なかなか操作が上手く行かない。

 それでも数分後には、喉にある霊的センター(チャクラのような場所)にマナボールをもってきた。そして、喉の霊的センターに到着したマナボールはラベンダー色に変化した。


「うん。うまくいってる」


 もし、今アンディの部屋の中を見ている人が居たらきっと驚くだろう。何故なら。アンディの体の、マナボールが通った霊的センターが光っているのだから。

 頭頂部は白。喉はラベンダーに。

 これは、アンディが想像した通りの色。霊的センターの色である。

 そして次にアンディがマナボールを動かしたのは胃の辺り。ここに到着したマナボールは黄色に変化した。同時に、胃の辺りが黄色く輝いた。

 次にぼうこうの辺り。バイオレット。

 最後にせんこつ、お尻の尻尾の名残が

 ここまでたどり着くのに随分と時間が掛かったためか、アンディの額にはうっすら汗がにじんでいた。


「ここまで来るのに結構かかったなぁ。これ、とりあえずここまでをもうちょっと練習してみようかな」


 そうして、アンディはこの世界では知られていないマナ制御のトレーニングを行い始めた。

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