002天才児
アンディが屋敷の中を探検すると、村長であるレナードの私室兼執務室があった。
普段アンディがここに入ることはないのだが、今日はちょっとした目的があった。扉をそっと開けて入る。
入ったところでレナードと目が合った。
「おや、アンディどうした?」
「パパ、絵本見たい」
本は貴重なため、すべて執務室に集められている。もっと大きな屋敷であれば図書室でも作ってそこに置くのだろうが……。
レナードは執務机から離れると書棚の中から一冊の絵本を取りだした。表紙には「おうさまとどらごん」と書かれている。上の兄二人も読んだのであろう、その絵本は結構使い込んだ風だった。
アンディは絵本を受け取ると
「ぼく、よむ」
と、執務室の床に座って本をひろげた。その様子をレナードは目を細めて見つめる。この年頃の子が読むと言ってもまだ字は読めないので、絵を見て適当な事をそれっぽく言うだけだ。
だが、この日のアンディはちょっと違った。
絵本の字をたどたどしいながら読んで見せたのである。
レナードは驚いた。さらに驚いたことにアンディが「普通の本」を読みたがったことである。もちろん本はある。ただ、それは五つ上の兄であるセドリックのためのものである。しかし、ひょっとして、とレナードは本をアンディに渡してみた。
そして、予想通りアンディは本を読んで見せたのである。もちろん内容も理解している。まだ字も教えてないはずなのに……。
これは、
「天才だ。この子は天才だぞ……!」
と、レナードが熱くなっても仕方ないだろう。
次はレナードが小さい頃に読んでいた小説。次は……と、やっていく内に屋敷にいる住人のほとんどが執務室にやってきていた。もはや執務が出来る状況ではなくなっていたが、今更である。
最終的には聖典と税収帳簿まで読めることが分かったところで昼の軽食となった。
軽食の後、アンディは自室に戻ってお昼寝の時間。しかし、実際には寝ていなかった。興奮していたのであった。
「ほんとに字が読めたよ……。これがちーとというのかな?」
アンディは、直也の記憶をまさぐる。アリアドネとの交渉結果は……。
直也の記憶と思考法。直也が一度でも見た物をほぼ完璧に思い出せる。
異世界言語適正。惑星ジュラでの全ての言語に対し読む書く聞く話すが可能。
魔法適正。アンディが頑張っただけ伸びる事が可能。(生物の範囲内で)
近接戦闘適正。魔法適正ほどではないがある程度の無茶が利く。
個人空間。直也と直也が認めた物しか入れない空間。(二十m×二十m×四m)
アドバイス。神殿でアリアドネが質問に答えてくれる。色々なアフターサービスも受けられる。
といった感じだ。今日、アンディが読めたのは異世界言語適正もあるが、直也の思考法も関係しているのだろう。日本での大人の経験が、文章を読み解くのを助けたのだ。文字の形がアルファベットに近いのもあるかもしれない。
昼寝が終わったら特にすることもないので、アンディは良く有るアレをやってみることにした。魔法の訓練だ。
地球と同じように考えるなら、まずはマナを感じられるようにしなければならない。そこから徐々に操作する練習を行う。惑星ジュラは地球の子宇宙。共通する部分も多いのだ。恐らく、地球での方法も使えるはず。
アンディは、両手をこすり合わせた。しゅっしゅっしゅっと高速で手をこすり合わせる。しばらくすると両手のひらが熱くなる。そこで手を止めると、両手のひらをほんの少し離す。
じわりじわりと温かく感じる。もちろん最初に感じる熱は手のひらをこすり合わせた物。しかし、五秒経ち、十秒経ち。三十秒もすれば、最初の熱はなくなる。その時に両手の広から熱さを感じたならどうだろう?
アンディ、いや直也は最初の訓練として今の練習をしていた。もちろん、これは初歩の初歩。これができなければ、アンディはこの世界でのやり方を探らなくてはならない。
一回では上手く行かず、二回、三回と行う。上手く行くと思っているが、やはり不安もある。果たして上手く行くのか、何か間違っていないか。不安を感じながら続けること五回目、アンディは望む結果を得る事が出来た。つまり、両手の間に熱を感じることが出来たのである。
次は、この熱を増幅し思うように操る練習だ。
一度マナを感じ、自身と確信を得たアンディはすぐに増幅を行うことが出来た。
そして次に手のひらをもう少し大きく、十五センチくらい広げると、両手のひらの間にマナのボールをつくる練習を開始する。
これも先ほどより時間は掛かったが、三十分もかからずできた。地球で全くの初心者がこれに取り掛かると数日かかったものである。直也はその日のうちに出来たのだが。
次に、このマナボールを手のひらから移動する訓練だ。全くの初心者がここまでたどり着くのに、地球ではさらに数日かかっていたと思う。手のひらから腕を伝い頭に上り、反対側の肩に降り。と、思うがままに動かしていく。
それができるとボールを増やす。二個、三個。直也の記憶では一度に二つまでが限界だったが、このアンディの体では初っぱなから三個動かす事が出来た。これはアリアドネから得た魔法適正による物なのだろう。
ここまでやったところで、休憩。
メイドからちょっとしたおやつと水を貰うと、練習を再開する。
マナボールを体の側面にそって回していたのを少し体から離す。これは中々上手く行かなかった。どうしても、体にくっついたままになってしまうのである。
そこで、直也が見ていたアニメの知識を使って、マナボールを飛ばすことにした。主人公のポーズを真似て「はっ!」と気合いを入れる。すると、ほんとにマナボールが飛んだのだ。
ヘロヘロと頼りなく。ほんの数十センチだし、すぐに消えてしまったのだけど。
アンディは三歳の子供らしく大喜びし、ずっと飽きずに練習していた。晩ご飯に呼ばれるまでずっと部屋で練習していたのである。
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