27話:厭らしいって一生手書きしない文字

『ブラッドプリズナー』


 次のイベントの名前である。

 普通は『――襲来!』とか『――争奪戦!』とかが普通だよな、この手のゲームって。

 アカリも物騒な名前に苦笑いをしていた。


「でも、どうやら中身はそうでもないらしいっぽいね」


 ……てっきり牢獄にぶち込まれて、血で血を洗う、的な展開を少し期待していたのだが、別にそんなことはないのか。


 俺もアカリに習ってイベントのページを見る。


 現在わかっているのは、来週の土日、20時~22時までを使用して行うイベントらしい。

 方式としては、昨今流行りの(アカリ談)一時的超加速機能を使用するらしい。


「俺使ったことないんだよな」

「え、そうなの?」

「いや、別に怖いとかじゃなくて、なんかやってるゲームがやってなかった、ってだけ」


 別に避けていたわけじゃないし、その機能自体は知っているのだが、縁遠い何かがあって利用したことはなかった。

 一時的超加速機能、とは現在もあるゲームと現実世界での時間進行を大きく乖離させることで、より短い時間でゲームを行おう、というものだ。

 大体平均として、一時間を12時間に引き伸ばす、らしい。


「プレイヤーは現実世界での2時間。

 ゲーム世界では二日間イベントを行うことになります」

「結構すごいねぇ。

 超加速機能って使うだけでかなりお金かかるし、それに倍率が高ければ高いほど更にお金がかかるんだよねぇ」

「へぇ」


 触れてきていないせいか、そんなものなのか、と素直に聞き入る。

 ……このゲーム作ってる会社ってそんなに予算あるのか。


「プレイヤーは定められたフィールドで指定時間以上生き延びることでイベント報酬をゲットです!」

「なんか曖昧な書き方だよねぇ」

「……生き延びること、って書いてることはPVPじゃないんじゃねぇの?」

「いやいや、その次を見ると分かるよ」


 この説明だとPVPというよりはサバイバルの色のほうが強いような……と思いながら、次の文言を読む。


「ゲームの終了には、36時間以上生き延びたプレイヤー全員による『ゲーム終了申請』を送ることが条件となっております」

「不吉なことが書いてあるね」

「……ん?」

「だよね。

 最初見た時同じ感想だったよ」

「っと……ってことは何もしないで36時間以上経ったらゲーム終了押せばクリア?」


「みんな押せば、ね」

「でもその中でモンスターに襲われたりするから、生き延びろ的な?」

「『なお、クリア報酬に関しては一定量をクリア者で分けて分配します』」

「……はぁ」


 思わずため息を付いた。


 嫌な光景が頭の中に浮かんだ。


「ってことは、何だ。

 これはつまり『仲良くみんなで分配しよう派』と『独り占めしたい派』の対決ってこと?」

「そ」


 既にルールを読んでいたアカリがにこやかに返事をしてくれる。


 というか。


「囚人のジレンマか」

「だね。

 SNSとかでもその話で持ちきりだよ」


 囚人のジレンマ。

 簡単に言うと、みんなで仲良くしていれば報酬をもらえる状況で、裏切ればそれより報酬がもらえると教えられると、裏切ってしまうというジレンマだ。


 囚人、プリズナー。


 それで裏切りを示すブラッド、ってとこか。


 ため息を付きながら、アカリに話しかける。


「……徒党ゲー?」

「今のところはねぇ」


 詳しい内容を読みながら、情報を整理していく。


 このゲームは結論から言うと、過半数以上の徒党を組めれば勝ちっていうゲームだ。

 まぁ一応前提としてみんなの力が同じだとして、何だけど。


 過半数以上のメンツが徒党を組んで、得た報酬を山分けする、とする。

 そしてそのメンバーが残っているメンツと全員相打ちする。

 そして残るのは、過半数以上いる徒党を組んだメンバーのみ。


 報酬は残っている人数に対しての山分けなので、少ない人数であろうが相打ちさえできればある程度の報酬はもらえる。


 と数学的に不確定要素がない場合はそうなる。


「まぁ、高レベルプレイヤーとか……。

 ソロプレイヤーの動向かな」

「一人でも終了を宣言しないプレイヤーが居ると継続だからねぇ」

「でもソロきつそうだなぁ。

 一人で二日間戦うとか鬼畜だろ」


 それに、内容を見ている限り、消費アイテムの持ち込みは限られている。

 おそらくは現地で薬草を生産できるスキルとかがあるのだろう。


 ログアウトが中々できない状況で、自然回復の時間いっぱい戦わないなんてことは珍しいかもしれない。


「アカリ」

「ダン」


 俺とアカリは二人してお互いの名前を呼び合い、


「「今回一緒に組まない(よ)(か?)」」


 二人して、語尾が違うだけで相当意味が変わる言葉を話した。

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