25話:俺剣士

24話にて、最後にトーガが最後に創建の片割れを差し出してトーガの敗北を告げる、というシーンだったのですが、死亡すると装備武器はストレージに戻るのでそんな事できるわけ有りませんでした。

素手です。

差し出しのは素手になりました。


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「一体何をしたんじゃ?」

「何を、って?」

「どこまで考えていたのか、ということじゃ」


 トーガの手を取り、立ち上がると、トーガがそんなことを聞いてきた。


「急にどうしたんだよ」

「いや何、どのように考え、なぜあんなことをしたのか気になっての」

「そうだよ。

 あんな事するなんて思わないよ……」

「おっ、アカリ」


 トーガの言葉に加わったのは、結界を解除してもらったのだろうアカリだった。


「パリィがなにをするとか、ダンの魔術の話は聞いてたけど、最後のあれが意味不明だったよほんと」

「あはは、あれができるのが確信できたから、今回はこれをやろうと思ったんだよ」


 最後のあれ、とはトーガに一撃を加えた双剣のことだろう。


「ほう、聞かせてくれぬか?」

「まぁ良いけど……」


 トーガが食いついてくるとは思っていなかったので、少し言葉が濁ってしまうが、俺は今回の作戦の内容を教える。


「今回のこれは、最初考えてた『得デカハンマーゴリ押し作戦』の練習してる時に、パリィの面白い性能を見つけたのが始まり」


 パリィ。

 それは俺が主として使うスキルであり、俺というプレイヤーの一番の武器。


 ……いや、ぶっちゃけ今は先見の瞳のほうが使ってるな。


「パリィって、装備さえしていればそこらの木の枝でもできるのよ」


 パリィに武器の種類は関係ない。

 武器ごとに何か条件の違いはあるのかもしれないが、できることはできる。


「たまたま拾ったでかめの木の枝拾って武器にしてたらできて、その時にめちゃくちゃビックリした」


 スキルには基本的に武器が定められていることが多い。

 スラッシュには『斬武器のみ』という表記がある。

 そのため、木の枝でスラッシュは使えない。


「で、これって裏を返すと装備していないとパリィは使えないんだよね」


 なぜかは知らないが、そういう仕様なのだ。

 装備していないとパリィの発生がしない。

 スキルも発動しない。


「で、それを実際に試している時に、『得デカハンマー』のこと思い出して」


 ある程度近づいて跳躍し、トーガの真上に行くことで攻撃の方向を絞り、ハンマーの面攻撃でパリィ。


 パリィの利点を最大に活かそうと作った『得デカハンマー』という作戦。


 正直、この作戦には、心配な要素があった。

 うまく行けば確かにトーガに一気に接近できる。


「得デカハンマーで、さっきの一撃をパリィしたとして、本当に勝てるのかなって」


 爺さんのことだ。

 一回やったからには何らかの対策を立てるはず。

 だから、一番得デカハンマーを活用できるのは、一番最初のみ。


「だから、思い切ってハンマーをブラフに使うことにした」


 最後の一撃のハンマーを、『装備しないで』振るう。


 そこでパリィと大声で叫べば、トーガもその次を考えて足を止めるはずだ。

 というか、あのタイミングで下手に動けば俺が次に何をしてくるのか予想できない。

 トーガとしても、あの瞬間で倒しておきたい。


「で、最後の一撃。

 俺の次の行動の対策を考えている爺さんに」


 背中に装備していた双剣を抜き、


「投げる」


 簡単な話だ。


 恐らく俺が近づけば近づくほどに、爺さんは面攻撃をする。

 だからこそ、それに隠れて双剣を投擲する。

 それが俺の考えた内容だ。


「前から行っている1発殴る、とかの話も、俺が武器を捨てて特攻してくることを示唆するためにした。

 最初の武器放棄はハンマーの取り出しもそうだけど、武器を捨てることを印象づけること。

 魔術を多用しているのもそのほうがパリィに意識が向くから」

「……つまり、何日も儂の心にパリィを植え付けていた、ということじゃな」


 パリィは失敗する。

 これは逃れられない。


 だけど成功したときの恩恵は強い。


 それこそ、トーガという人物が俺のパリィを見届けるために足を止めるほどにだ。


「パリィは強いけど、それを振るうだけが強いわけじゃないからねぇ」


 アカリと遊べば、俺が負ける。

 それは割と普通のことで、それこそそれを覆すには俺が俺でなくなる必要がある。

 まぁ吸血鬼になるわけじゃないんだけど。


 それで、ぶっちゃけ負け続くのは俺だって嫌いだ。


 だからこそ、仕込んで仕込んでここぞという時に面白おかしく使う。


「ったく、本当になんでそんな発想になるのかなぁ……」


 アカリの表情は、呆れたものにも見えるが、笑っている。

 いつも俺に負けたときにする表情だ。


「ダン」


 すると、俺を呼ぶ声がする。


 その声の方を見ると、そこには爺さんが立っていた。


「そういえば、名前で呼ばれたのは初めてだな」

「……たしかにそうじゃな」

「で?」


 先程からトーガはニコニコと俺の方を見ている。

 正直なにされるのかわからないので怖いのだが、待つ。


「お主は面白い。

 魔術師でないのに『超えし者』でありながら、環境魔術とそのパリィ。

 更にはそれだけにとらわれない発想で儂に勝利した」

「はぁ」

「だからこそ、ダン。

 お前にはこれをやろう」


 あ、そうだ。


 視界に表示される『Congratulation!!!』の文字に、クエストであることを思い出す。


 えっと、これの報酬は……


「儂のスキルの一つ『デュアルマジック』だ」


 新しいスキル。

 嬉しい。

 スキルはこの世界においてかなりの価値を持ち、それこそ一つのスキルで俺のようにビルド自体をそれにするものもいる。


 だからこそ、すごく期待していたのだが、


「デュアル……マジック?」

「そうだ。

 これは魔術の詠唱を重複して行えるようになる、というスキルだ」


 いやいやいやいや。


「俺剣士」

「知っておるぞ?」

「俺剣士」

「魔術も使っておるじゃないか」

「回避用」

「つべこべ言わず受け取るが良い!

 あって困るものでもなかろうに!」


 えぇ……

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