24話:思ったとおりに行かないときの不安感たるや

 過程は少し違うが、結果としてはこの状況にできた。


 頭では嬉しさを噛み締めながら、俺は締めへと向かっていく。


 空中。


 ゲームであろうと否応なく存在している重力というやつに俺は引かれ、落ちる。


「これで終いじゃ!」


 空を飛ぶ俺を見て、トーガは最後と言わんばかりに魔術を発動する。

 壁。

 炎の球のはずだ。


 だが、距離が、大きさが、俺に壁を思わせている。


 その炎の壁に対して、俺は脇に表示させていたウィンドウの操作を終える。


 手持ちの武器は双剣が片方のみ。

 これを使用して目の前の炎の壁を超えるのは不可能だ。

 目の前の炎の中からストロングポイントを見つけ出し、片方の双剣でそこを斬るなんて芸当、現実的ではない。


 だからこそ、ここで今日まで容易にかかってしまった原因を出す。


「だらぁぁぁぁ!!!」


 俺がウィンドウから取り出したのは、身の丈以上のハンマー。

 この大きさであれば、炎の壁越しでもちらりと見えるだろう。


 既に双剣は持っていない。

 手放した。


 『巨人の槌』


 プレイヤーメイド……武器を創るスキルを持ったプレイヤーに寄る自作武器。


 パリィとは、突き詰めればこちらの攻撃の面が大きければ決まる確率が高い。

 だからこそハンマーはパリィを発生させるという点でいえば最高の武器である。


 だからこそ、この状況を作ろうと思っていたからこそ、この武器を用意した。


 俺に対して有効なのは面攻撃。

 ならば俺もできるだけ面攻撃ができればいい。


 できるだけ大きく、できるだけ攻撃の面が大きい武器。


 それを探して東奔西走するのは苦労したが、このタイミングに使えれば良い。


 流石にピーキーな性能をしているが、それは今は関係ない。


「パリィ!!!!」


 俺の大きな声と共に、目の前の炎にハンマーを振るう。

 流石に空中ということも有り、振りにくいが大丈夫、間に合う。


 どこにストロングポイントがあろうが関係ない。

 すべて叩けばよかろうなのだ!!!!


 炎の壁と衝突するハンマー。

 ハンマーの端から炎が漏れ出し、俺の体に触れようとする。


 パリィできればこの炎も一瞬で消える。


 目の前を見ろ。


 見届けろ。


 振り切れ。


 やりきれ。


 生き残れ。


 そして俺のハンマーは炎に包めれ、ストロングポイントに触れたのかは知らないが、


 パリィは発動しなかった。


 つまり、


 俺を待っているのは、


「ぐあぁぁぁぁ!!!」


 炎だ。


 肉体的苦痛への考慮の点から温いくらいの温度に包まれ、俺のHPは全て失い事になった。


 この場で死んだとしても、通常のフィールドのようなリスポーンまでの待ち時間はない。

 そのため、俺の体は一瞬にして消え去り、


「おうわっ?!」


 最初に転移してきた場所に現れる。


 周囲を見渡し、いつもと変化のないことを確かめる。


 だが、ボコリ場の端で結界に包まれたアカリは、俺のことをじっと見ている。


 それは、『何やってんだこいつ』という目である。


「お主……いや、ダンよ」


 その視線に苦笑いしていると、目の前まで歩いてきたトーガに声を掛けられる。

 トーガの視線は、少し蔑んだ目のように見えるが、それは俺が地面に座り込んで見上げているからだろう。


 トーガは手を出す。


 それは手と手を取り合うための手ではない。


 それは、


「わしの負けじゃ」


 敗北を認めた手だった。

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