23話:パリィ使いは絨毯攻撃に弱い(自分調べ)

 俺がこのトーガという爺さんを攻略するために身に着けた物を、一つずつ使っていく。


「何度も使っては芸がないのではないかのぉ?」

「るっせ!」


 迫りくるファイアーボール。

 当然だが、トーガに近づくに連れ、魔術の圧力は増え、量も増していく。


 後5歩。


 後5歩で間合いに入れれる。


 まず俺が使用するのは、魔術。


 何事も相手の立場になってから。

 相手と同じことをすることで、相手のことを理解し、弱点を知ることができる。


 無敵がいればそれはゲームではない。

 だからこそ、同じ立場に立ってみる。


 そのために身に着けたのが、魔術。


 『ヌルボール』


 空白の名を関した無属性魔術、というやつだ。

 一番店で安かったから買った。


 特徴としては、その非効率と簡単さ。


 同じMPを使ったとしても『ヌルボール』は『ファイアーボール』と比べて威力は10分の1。


 その反面、苦手属性も得意属性もなく、大体どの相手に対しても同じ威力が出る。


 また、詠唱にかかる時間がどの魔法よりも早い。

 ……と言ってもファイアーボールの半分程度の長さだが。


 そのせいで倍詠唱して10倍の威力出るほうがマシ、という認定を喰らい、微妙な魔術、モノ好きが使う魔術として確立したヌルボールだが、使ってみると意外なことが発覚した。


「それにしても、器用な使い方じゃの」

「俺はこういう使い方が一番強いんです!」


 魔力を使わないで魔法が使える。


『ヌルボールLv5

 威力:MP*0.01*Lv

 詠唱必要時間:3秒

 速度:中

 属性:無し

 消費MP:0~5』


 普通は、消費MPは最低値が1だ。


 いや最初はヌルボールの説明にも消費MPは最低値が1だった。

 しかし、練習がてら使っていたらいつの間にか勝手に使用された先見スキルによってMPはマイナスに。

 回復するのを待つかと思って魔術の効果欄を見たら、いつの間にか修正されていた。


 最初は不思議に思いながら魔法を使うと、この魔力ゼロ魔術、面白い特性を持っている。


「ホッ!」


 増えるファイアーボールに向かい、詠唱をしておいた魔法を発動する。

 詠唱は口頭詠唱と自動詠唱の2つが有り、口頭詠唱のほうが何かと融通が効くが、割と主流は自動詠唱だったりする。


 もちろん戦闘しながら口頭で詠唱なんてできないので、俺は自動詠唱。


 ヌルボールは魔力を使っていないにも関わらず、濁った透明な球となって目の前を飛んでいく。


 魔力ゼロ魔術は、外見自体は普通のヌルボールと変わらない。


 ファイアーボールの一部に衝突したヌルボールは、ファイアーボールの一部を少しだけ削り、消える。


「っしゃぁ!」


 その隙間を縫い、密度の上がるファイアーボールを間一髪で避ける。

 先見スキルとなんとか作り出したヌルボールの隙間でなんとかダメージは阻止できた。


 魔力ゼロ魔術は、もちろん威力はない。

 説明にもある通り、消費したMPがゼロであるため、威力は基本ゼロだ。


 しかし、現象自体は起こるらしく、見かけだけの魔術となっている。

 最初はこれで少しファイアーボールが削れるので、当ててみてダメージ軽減、とか思っていたのだが、全く違った。


 これはあくまで外見を少し削っているだけで、威力は何ら変えれない。

 つまり当たり判定少し減らし魔術だったのだ。


 ついでにいうと見掛け倒しだから、目隠しにもなる。

 ……半透明だから目隠しになりづらいけど。


「全く、環境魔術をそんな使い方するのはお主だけだぞ」


 俺の魔力ゼロ魔術を『環境魔術』と呼ぶ爺さんだが、そんなことは気にしてられない。


 後4歩。


 間合いに入れるまで、後4歩。


「それでは、これはどうかの?」


 当たるはずの魔術を躱した俺に向かってくるのは、先程の普通のファイアーボールとは全く違う、速度のあるファイアーボール。


 先見スキルは既に俺の死亡を教えてくれている。


 だが、それに怯んでいられない。


「ジジイを殴るためにはいらないわっ! こんなもの!」


 高らかに宣言しながら、俺は手元の物をトーガに向かって投げる。

 もちろん、戦闘中であるため、持っているのは武器。


 そう、俺は武器を投げたのだ。


「ほっ?!」


 流石に俺の自暴とも取れる武器の投擲に驚く爺さん。


 良い。


 今は後続を出させないためにひるませる必要がある。


 武器はトーガに向かっている……用に見える。


 トーガも回避するために体をずらそうとしているのが見える。

 だが、それが目的ではない。


「パリィ!」


 パリィン!!!!


 ガラス片の砕け散る音。


 この場にそぐわない。

 何だったら未だ木製の双剣を使っているこの武器からは出るはずのない音。


 トーガはファイアーボールの隙間から俺のことを睨んでいる。


「作戦成功だオラァ!」


 目の前のファイアーボールは霧散する。

 そこにできたのは、一筋の道。

 俺が通ると言わんばかりの道。

 一歩、前に出る。


 パリィ。


 もちろんそれは魔術に対しても使用できる。

 しかし、正確に言うとそれはパリィではない。


 パリィは力のベクトルを変えるという結果を残すが、魔術に対してのパリィは『魔術そのものを霧散させる』


 トーガの言葉を断片的に拾いながらの推測なので確定ではないが、魔術に対するパリィは、攻撃に対して行うのではなく、魔力に対して行う……らしい。

 そのため、魔力を弾けさせた結果として魔術は形を保てなくなり、霧散する。


 それが魔術へのパリィの結果だ。


「まだまだ」

「まだまだぁ!」


 それだけ聞くとまたもや強そうに聞こえるパリィだが、発生方法がいつもの通り、キチガイなのである。


 俺の言葉とトーガの言葉は、テンションさえ違えど重なる。


 トーガは俺のパリィに対して、多数の遅く、大きいファイアーボールを展開する。

 壁のように目の前に突如現れたファイアーボール。

 一つパリィしたとしても、恐らくその後ろから新しいものが現れる。


 魔術のパリィの条件は、魔術の『中枢』を攻撃すること。


 いつもどおり強きの瞳で見た有効範囲は、親指の爪くらい。

 しかも存在するのは魔術の中心。


 ファイアーボールでいうと、炎の中心に親指の爪ほどの大きさのパリィの有効ポイントが有るのだ。

 タイミングに関してはないのでその点に関してはやりやすさはある。


 しかし、だ。


「無理に決まってんだろがっ!!!!」


 本当に中枢に確実にあるわけじゃないのは今までの戦闘で十分理解したし、パリィにはどうしてもスキルを持っていたとしても成功率が絡んでくる。

 さらに言えば、さっきの投擲パリィは割と成功率も悪い。


 さらにさらに言えば、今手持ちの武器は一つだけ。


 パリィ使いは絨毯攻撃に弱い(自分調べ)


 だからこそ、


 俺は真上に飛んだ。


 トーガの真上に、跳んだ。


 飛べば回避ができないから悪手。

 飛べば着地時に空きができるから悪手。


 知っている。


 だからこそ、


 残り3歩というところで、


「お主も中々、命知らずというか」

「楽しもうじゃねぇか! ジジイ!」


 跳んだ。

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