22話:やろうと思ったタイミングで「やらないの?」は禁句

 トーガ戦。


 最初は半ば定型化している。


 俺がトーガを中心に円を描くように回避。

 それをトーガはシューティングゲームのように狙ってくる。


 これは別にこうしようと決まったものではなく、俺が仕方がなくこうしているだけだ。


 魔術の原理では存在しないのだが、トーガはどうやら魔術をストックしているっぽい。

 数は分からない。


 だから序盤で攻めるとそれを一斉に浴びに行っているのと変わらない。


 というか、どのタイミングで攻めたとしても、ストックの魔術を放って詰まされるパターンはある。

 そしてその警戒が強いのがすべからく序盤であり、確実に失敗する。


 何回か間を置いて忘れた頃に、なんてこともやったけどそれも失敗に終わったから、序盤に攻めるのはやめている。


「へいへい調子出てないんじゃないのぉ?!」

「五月蝿いのぅ」


 この爺さんを突破するための方法としては一つ。

 NPCに存在するのかどうかは知らない隙を見つけること。


 現に良いところまで行っている場面は今までにも存在した。


「ハエも落とせないような魔術師さんが何か言ってるなぁ!」

「よく回る口じゃのう」


 それがブラフだとしたらもう俺はこのジジイに勝てる未来が思い浮かばない。


 だからここでは前提としてNPCに隙があると仮定する。


 そしてそれを突くためには、多少なりとも準備が必要だった。


 目の前には一つ一つ俺をしっかりと狙うために放たれたファイアーボール。

 その速度は一つ一つが速度、軌道も違う。


 何だったら途中にブラフも挟んでいる。


『【先見の瞳】を発動』

『トーガの攻撃、回避』

『【先見の瞳】を発動』

『トーガの攻撃、回避』

『【先見の瞳】を発動』

『トーガの攻撃、回避』

『【先見の瞳】を発動』

『トーガの攻撃、回避』

『【先見の瞳】を発動』

『トーガの攻撃、回避』


 ログには大量のスキルの発動表示と、トーガの攻撃を回避したという表示が入り乱れる。

 先見の瞳スキルは、一回の攻撃につき一回発動が成される。


 2発のファイアーボールを同時に撃っても、1発のファイアーボールを撃っても、それに対して先見の瞳スキルは一回の発動になる。


 それを知っているのかジジイは基本的に1発ずつタイミングをずらして、俺の先見の瞳スキルを無駄撃ちさせている。


 そのため、20秒も立たないうちに俺のHPは1になった。


 早速のオワタ式。

 触れてはいけないファイアーボール。

 足を使ってなるべく回避する。


 様々なゲームで培ってきた知識を総動員して、なるべく最短最適な移動を心がける。


 気をつけるのは、飛ばないこと。

 一度でもジャンプをさせられると途端に死ぬ。

 空中での移動方法なんて現在持っていないので当然ご法度だ。


「躱すだけしか能がないのか?」


 躱し慣れてきて、そろそろ飛び出そうかと思った開始から40秒後。


 行こうとしたタイミングで声がかけられる。


「うるせいやい!

 今行こうとしていたんだよ!」

「そういうやつはやらぬやつの常套句じゃないのかの?」

「今はそう思っていればいいさ!」


 今行くのはやめる。


 まだ準備が足りなくないか、これで大丈夫か、と躱しながら頭の中で確認をしていく。


 あいにく俺にはアカリの様な超絶反射神経やテクを持ち合わせていない。

 そのため、土壇場での行動などは本当に不得手なので、準備をする。


 今まで試してきたもの、新しく持ってきたもの。


 それらを引っさげて、ようやく行けそうだと思えてきた。


 開始から1分。


 行ける。


 行くか?


 いや、


「ふぅ」


 出よう。

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