21話:他人から見た自分
高橋暖。
会社の同期であり、友達。
人当たりが良く、それなりに何でもこなせる彼と遊ぶのは楽しい。
しっかりと気を遣えて、絶妙な友達のラインを守るそのやり方は一緒にいて煩わしいとは思わない。
昔から何かと友達には面倒をしてきた僕だからこそ、暖のような友達は面倒を感じない。
「さぁジジイ、観念しろ」
「さぁ、稽古をつけてあげよう」
だからこそ入社してからずっと暖とは友達をしている。
主にゲームで交流する機会が多いのだが、暖は性格が如実にゲームの適正に出ている。
得意なゲームはなし。
強いて言うなら音ゲーとタクティクス系のゲームを長い時間やっていたから知識が深い。
しかし逆に苦手なゲームはない。
地頭が良いのか、理解が早いが実力が出る勝負だと大体勝てない。
要領良くこなせるため割とオーダーにはしっかりと答えられる。
たまにドジを発揮するがそれも愛嬌というもの。
まぁ、それは実力、技量としての高橋暖。
「おっ、始まった」
僕の目から見えるのは、少し色味のついた風景。
トーガというおじいさんから付与された結界の魔術の中に現在いる。
正直トーガのAIには驚かされたが、別に今更珍しいものではない。
しかしこれほどまでに人間味のある煽りをするのは珍しいので呆然とはしたけど。
勝負が始まると、暖……ダンは走り出す。
方向はトーガを中心に円を描くように。
最初に飛び込んでも大体圧力で負ける。
ダンの言葉を思い出しながら、トーガの魔術を確認する。
ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ
大体一秒ごとに一発。
炎の球をダンに放っている。
大きさも速さもどれもが絶妙に違う。
それに走っている先に予測して射ったり、躱した先に撃っているので割と避けるのは難しそう。
「すごいな、やっぱ」
それらすべてを避けるダン。
反射神経のいい人だったり、武術の心得があったりすれば多少は自前の能力で避けれるだろうが、そんなものはダンにはない。
先程の話の続きだが、高橋暖には特別なものは何一つない。
特殊な能力だったり、特殊な環境だったりするものはない。
暖の人生の話は本当に普通という言葉がふさわしい。
何だったら僕のほうが多少は特別だと言えるくらいだ。
だからこそ、高橋暖の中にあるのは今までのゲームの経験値と、何も劣るものがない、という特殊とも言えない取り柄。
先見の瞳。
なるほど強いスキルであり、それこそ達人が持てば最強足り得るスキルであろう。
しかし高橋暖にはそれがない。
そのため、練習をして自分がどのように使えるのか、どのように使えば強く使えるのかを考える。
物語の主人公のように天才的に使うのではない。
モブのように妥当に強く使う。
それが彼のゲーム。
「上、下、左左、左下」
見ながら自分であればどのように避けるのかを考える。
それは自分しかできないやり方。
ゲーム適性の関係で反射神経が人より数倍あるためできる、言ってしまえば人外の適正。
確実に高橋暖にはできない。
というか、それくらいの適性がないと避けれない物をダンは現在進行系で避けている。
慣れたとしても、すごい。
「それにしても、入れ込みがすごいね、やっぱ」
アカリ……百瀬にとって高橋暖はカジュアルプレイヤーというやつである。
楽しく、楽しく。
負けても勝っても楽しいゲーム。
それが高橋暖のゲームのやり方だ。
だから、ゲームの楽しさを確認するために、一緒にプレイする事が多い。
その彼が、見たことないくらいに勝ち負けに固執している。
最初はそんなに楽しいのか、と思っていた。
『ユグドラシル Yggdrasil』
イエスタデイ・ワンス・モア社から出ているゲームであり、この会社は昔ながらのシステムを採用しながら、新しい技術と新しい要素を追求するという珍しい作風のゲームを出している。
大ヒットとは行かずとも、コアに人気のある作品を出しているというのがこの会社の認識だ。
過去にプレイしたことのあるものだと、『ジャスティス・ウォー』という作品が存在している。
FPSゲームでありながら、単純でプレイングの出るゲーム性と、各々が勝利条件を設定できるという新しい内容で少し人気を博した。
そんな会社の出すVRMMO作品。
最初は少し批判的な意見が多かったものの、PV等の動画が公開されるたびにファンの期待は高まり、実際にプレイしてみると自由度が高いため、今でさえ情報が錯綜している、というゲームだ。
明確なプレイ目標が無く、様々なプレイが推奨されている。
ゲーム慣れしていればいるほど何をすれば良いのか分からない、という面白い現象が起きているらしい。
「おっ」
話を戻すが、高橋暖という人物を知っているからこそ出る疑問。
そんなに面白いのか?
だからこそ不慣れなゲームであることを承知で買った。
まだその中身を味わったとまでは行かないが、ダンのプレイを見ていると楽しそうだ。
ダンは予測スキルを使いながら確実に避けていく。
その中には恐らく駆け引きのためと思われるフェイントを混ぜながら、一つずつしっかりと避けている。
それに対してトーガは表情を変えずにファイアーボールを叩き込む。
一分ほど経っただろうか。
既にHPは1になったはずのダンが、仕掛けた。
足を前に、踏み出したのだ。
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