20話:授業参観って小さい頃はいいとこみせようと張り切っていた思い出がある

「ってことで見学って大丈夫?」

「おや、友人がいたのか、お主」


 昼休みからしばらく時間は過ぎ、俺は今ドラドラにログインしている。


 ゲーム内時間は現在夜。


 本来なら夕方くらいの時間帯にログインできたはずなのだが、今回は少し仕込みをするためと、とある人を待っていたため遅れてしまった。


「どうも、アカリです」

「ほう……アカリじゃな。

 よろしく頼む」

「あ、はい、よろしくおねがいします」


 今いるのはギルドの一室。

 そこにはいつものようにトーガがいたが、今日俺は人を連れてきた。


 挨拶を済ませ、アカリというプレイヤーを見せると、トーガは少し戸惑いながらも握手を求めた。


 握手に応じるアカリ……まぁ百瀬なのだが、トーガはアカリの姿に戸惑うのも仕方がない。

 男か女か分からないからこそ、対応に少し困ったのだろう。


 男女が分からない、と言っても別にアカリのアバターの姿は現実からかけ離れたものではない。

 アカリの姿は、現実世界の百瀬の髪の伸びたバージョンである。


 VRMMOでは素顔でプレイするものは珍しい。

 普通ゲーム内でも自分でいたいと考える人は少ないのだ。

 かく言う俺もその一人で、現実世界とは似つかない容姿をしているが、百瀬は違う。


 理由は知らないが、百瀬は極力自分のゲームアバターは自分に近づけてメイクしている。

 とやかく言うことではないが、こだわりなのだと勝手に思っている。


「通常は了承しないのじゃが、今回は特別に許してやろう。

 これが大丈夫だからといってもう一人と連れてきても突っぱねるぞ」

「お、ありがとうな爺さん」


 というか、百瀬……アカリをここにつれてきた理由だが、それはこいつに頼まれたからである。

 昼に百瀬に爺さんのことを話したら、興味を持ったらしく、その戦闘の様子を見てみたいを話していたので連れてきた。


 キャラメイクに少し時間がかかったため、こうして少し遅れた時間に爺さんを訪問している。


 本人にも断られる可能性はある、とは伝えているので、OKをもらったことにホッとしている様子だ。


「今日も地べたを這いずりに来た、ということで大丈夫か?」

「いーや。

 今日は爺さんに地を舐めてもらうよ」


 ほっほっほ、と俺の言葉に笑う爺さんに、後ろのアカリは少し驚いていた。

 俺はあまりこういうNPCとかのAIに詳しくはないのだが、このゲームのNPCの会話の水準は高いらしい


 ドラドラ内ではNPCもピンキリが有る。

 爺さんのように流暢に話す人もいれば、昔のRPGよろしく同じことを事務的に繰り返す人もいる。


 まぁ、個人的にはこうして話せるNPCと話すのは楽しいので、ついつい話しすぎてしまうが。


「それでは、参ろうか」


 爺さんが杖でコン、と地面を叩くと、魔法陣が広がり、淡く光り始める。

 その光は段々と強くなり、俺らの体をお互いに認識できないほどに光り、


「よし」


 視界が戻ってきた頃には、俺はいつものボコリ場に立っていた。


「ここがボコリ場……ってあれ?」


 アカリに苦笑いをしながら話しかけると、背後にいたはずのアカリの姿がない。


「友達ならば端の方で結界の中にいてもらっている」


 それに気づいたのか、目の前の爺さんは杖で横の方を指す。

 そちらに視線を向けると、そこには魔法陣の上に立っているアカリの姿。


 魔法陣は淡く光り、ドーム状にアカリを包んでいる。


「ほれ」


 爺さんは無言でファイアーボールを放つ。

 炎の球はまっすぐアカリの方に向かい、炸裂する。


「お前さんに使う程度の魔法ならばまず破れんよ」


 煙が晴れ、そこにいたのは何も変化のないアカリと魔法陣。

 アカリは少し驚いたようにまばたきをしている。


「……結構手厚くしてもらって助かるよ」

「おや? 感謝など珍しい。

 熱でもあるのか?」

「さっきも言ってただろが。

 耄碌したのか爺さん?」


 売り言葉に買い言葉。

 すでに俺と爺さんの中で定番となっているやり取りだが、別にこれに悪意なんてものはない。


 というかこれくらいで怒るのならば、恐らくこのクエストやっている最中にゲームやめるわ。


 必要ないが、精神的に整えるために準備運動をしていると、爺さんは俺のことを哀れな目つきで見てくる。


「なんだよ」

「いや何、せっかく来てもらっているのに無様な姿を晒すとなるのが哀れでな」

「そう言ってられるのも今のうちだよ」


 茶化す目的で話しているのは分かるが、普通にこれを5日もされると、そろそろぶっ飛ばしたくなる。


「ほう。

 それでは今回は策がある、と?」

「さぁな」


 色々と準備をしてきた。

 仕事の合間を縫うとなると準備にも時間がかかったが、これで今日、俺はこのクエストを終わらせる。


「さぁジジイ、観念しろ」

「さぁ、稽古をつけてあげよう」


 そんでもってできればこのジジイを殴る。

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