13話:思いついたら試してしまう、それが子供なのかもしれない
人は驚くと体が硬直する、という。
ゲーム内でもそれが適用されるのか、筋肉は収縮し、腕を顔の前でクロスさせるので精一杯だった。
「ぐっ!?」
思わず出る苦しい声。
高校の家庭科の時間に、ふざけてコンロの火に手を出す、なんていうアホみたいな遊びをしたことがある。
今でも、というか昔でも当然駄目だったが、その時は若気の至りがなんちゃら、というやつだ。
その時の火に手が当たるあのジリジリとした感触が忘れられなく、火の取り扱いは今でも苦手である。
だからというか、目の前の火球が俺の体に当たり、何も感じること無く霧散していったことに気づくのは、ワンテンポ遅れていた。
「は?」
そのことに理解し、目を開けると、
もう一度火球が目の前に現れた。
驚き、縮小しようとする体。
しかし、二度目は流石に対応する。
精一杯横っ飛びを行う。
ゲームの中では結構身体能力が上がっている。
そのため、レベルアップごとに少しずつ違和感が出ては修正していった。
だが、今は持っていたフリーポイントをすべて降り終わった後だ。
そして振ったポイントはすべてSPD、速力に割り振ったわけであり……
「うぉぉぉおお?!」
俺は思ったより跳んだ自分の体に驚きの声をあげながら、大樹の一つに顔面からぶつかる。
痛くはないが、思わず顔面を抑える。
数瞬の思考の空白。
「なに?!」
復帰。
立ち上がり、周囲を見渡すが、誰かいる様子はない。
警戒を怠らないようにログを確認する。
『ダンの【先見の瞳】発動』
『何者かからの攻撃、ダンは回避した』
まだ俺が攻撃してきた相手を見つけていないからか、ログは相手の情報を載せてくれない。
それに関してはどうでもいい。
攻撃されたという事実の確認と、2発の攻撃の意味だ。
それに関しては恐らく、一文目の先見の瞳が関係しているのだろう。
その前の表記で火球が飛んでくるようなものはない。
「何をしてくれたんだ……俺のスキルは」
腰を落とし、逃げれるような状況にする。
下手に動いて鉢合わせるのも面倒だし、しっかりと次の攻撃を見てから逃げたい。
おそらく先程の火球は魔法というものだろう。
他のプレイやーさんが使っているのは見たが、自分が使っていたことも、食らったこともない。
つまり完全初見、情報なしということだ。
あるとすれば、初期のキャラ設定で魔法使いになれるというのが長杖と短杖の2つだった。
あとうっすら記憶にあるのは、別に後からでもどの装備でも魔法は一応覚えることが可能、だったはず。
あとで 覚えよー、なんてのんきに考えていたから記憶にもそんな残っていない。
「っ?! 来た!」
記憶をさらいながら、周囲を警戒していると、またも火球が飛んできた。
拳大の火球は俺の方に向かってまっすぐに飛んでくる。
さっきはやけにビビってしまったが、別に特段早いわけではない。
ホーンラビットより速いというくらいだ。
逃げれるっ!
爆発されても問題なので、大袈裟に距離を取りながら避ける。
そのため、見えたのだ。
火球の後ろで火球が飛んでいるのが。
「ん???」
不思議な光景。
まるで後ろの火球が前の火球に追いついているかのように……。
前の火球はふわりと幻影のように消え去り、後ろの火球は消えること無く、俺が背をぶつけた大樹にぶつかり、
ボンッ!
爆発した。
「???」
『ダンの【先見の瞳】発動』
『何者かからの攻撃、ダンは回避した』
ログには先程と同じ表記が追加されている。
……これって。
俺の頭の中に仮説が思い浮かんだ瞬間、俺は少し大人げない顔をしていただろう。
まるでそれはいたずらを思いついた子供の様な、そんな表情。
心が踊る、不思議な表情だ。
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