14話:最強スキルだ!

 一度思いついたことは中々頭の中から引き剥がせないもの。

 それにここはゲームだ。

 現実世界での責任は存在しない。


 足は動く。


「かくれんぼかぁ」


 子供の頃にやった記憶はあるのだが、いかんせん子供というのは本気で遊ぶ気質からか、見つからずに日が暮れたという経験からやらなくなった。


 そんなことを思い返しながら、足は火球の出てきた場所を目指す。

 どこから出てきたのかは詳しくは見ていなかったが、出てきた方向から逆算できれば簡単だ。


 更には走りながらいると思われる周辺を注視する。


 このゲームには影が存在する。

 大樹で陽の光が隠されて入るが、木漏れ日が差していて、影を視認することは可能。


「みーつけた!」


 大樹の側に、薄く影。

 俺の声に反応して動いた。

 生物の可能性は高い。


 間違っている可能性も高いが、大声を出せば何らかの反応はするはず。

 その瞬間、いると踏んでいた場所から火球が現れる。


 先程と同じく拳大の火球。

 どのくらいのダメージを食らうのかは分からないが、避けておいたほうが良い。


『先見の瞳発動』


 ログをすかさず確認。


 俺は、火球に構うこと無く突っ込んでいく。


 恐らくこのまま進めば、いくら強化したステータスだろうが、火球に当たってしまう。


 発射される火球。

 ギリギリ回避できるであろう距離で発射された火球は俺の体に衝突し、


「やっぱりね」


 霧散した。


 火球は俺に一つもダメージを与えること無く消え去った。


 直後、体を捻る。

 先程見た火球をギリギリ躱せるくらいに。


 霧散した火球の後ろから現れたのは、先程と同じ火球。


 まるでリプレイを見ているかのように同じ軌道でこちらに飛んでくる。


 当然、先程と同じように飛んできているということは、


「すごい!」


 今の体の捻りでギリギリで躱すことができる。


 体スレスレを通った火球は、後ろに飛んでいく。

 それが何に当たったのか、なんてのは関係ない。


 火球の発生源は目の前の大樹の裏。

 回り込むと、


 グギャ


 ローブを着込んだ弱っちそうなゴブリンがそこにいた。


 ゴブリンメイジ


 頭の中にその言葉が浮かぶとともに、目の前のモンスターの頭上にも同じ表示が出る。


「ハロー」


 すれ違いざまに双剣の2連撃。


「調子は」


 強引に切り返し、連撃を繋ぐ。


「どう」


 ゴブリンから何かが聞こえる。

 声の様な、音のような不思議な何かだ。


「です」


 その瞬間、俺の視界にチラリと火球が写った。


 頭上。


 堕ちる火球。


「かぁ!?」


 小さな火球と言えど侮れない。

 連撃を中止し、距離を取る。


 堕ちる火球が俺の体に触れる前に距離を取る。


 火球は空中で霧散した。


「あ」


 すっかり忘れていた。

 これも先見スキルのものか。


 気を引き締め、ゴブリンメイジを見ると、気のせいか自分の攻撃を見切られて驚いているような表情をしているように見えた。


「ごめんな」


 少しだけその表情に申し訳なく思いながら、足を踏み出す。

 正直さっきから速力の上昇に振り回されててうまく扱いきれていないんだけど、目の前のゴブリンメイジは近接戦闘をするタイプではないから、大丈夫だろう。


 先見のおかげで魔法の発動は予測できるため、割と負ける要素はない。


「ステータス慣らしに手伝ってください!」


 先見スキル、最強かもしれない。


 この未来予知、多分最強だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る