8話:大枚はたいてワンチャン買った
戦闘中にも関わらずボーッっとしていた俺を助けてくれた人物。
黒髪の小さな女性……なのだろうか。
女性っぽいのだが、体系は少年と言われても遜色はない。
眠そうな目をこちらに向けながら、少し間延びした声で話しかける。
「ごめんごめん。
人助けだと思っても、ここらだとモンスターの横取り行為だと思われるからさー、今は」
「あー、たしかに。
たくさん人いますもんね」
現に周囲には今も人がかならず数名はいる。
その人達はこちらを見ていたりするのだが、おそらくはその行為を見て次は自分なのでは、とか考えているとかそんなところだろう。
「えっと、俺はダンです。
ありがとうございました」
「いやいや、お礼はもう十分だよー。
僕もやりたくてやっただけだしー」
「それでも助けてもらったので……」
「あはは……それじゃあ貸しということで大丈夫かなー?」
僕、という辺り男子なのだろうか。
俺はいつか返しますよ、と適当に返しながらも、少しは警戒する。
このゲームでは恐らく、プレイヤーキルができる。
まだ効力情報に書いていないのは、サービスが開始してすぐだから、だろう。
それに現段階ではどの様なメリットがあろうとも、初心者をキルするのは面倒くさくなると考えられる。
初心者はリアル時間で1日だけではあるが、実質ノーリスクでリスポーンできる。
そのため、その様な行為を行われても痛くも痒くもないし、狩る側からしてもそこまでして殺したいとは思わないだろう。
だが、例外もいる。
それを警戒しながら、話はする。
「あ、ちなみに僕はレイっていうよー、よろしく」
「よろしくおねがいします」
止まる会話。
別に助けただけだろうから、そのまま去ってくれても良いはずだ。
それなのに、何かレイには目的があるのだろうか。
「えっと、別に何か目的があるとかないよー」
「へ?」
「いまさ、友達と待ち合わせ中で、暇なんだよねー」
「あ、はい」
「それで、ここらへんウロウロしてたら、珍しくパリィスキル使ってる人いて、その人がピンチだったってわけー」
のんびりした口調は、少しこちらの警戒を解きそうになる。
というか、別に自分は初心者だから警戒しなくても良いのでは? とか思っちゃうのだが。
「ん? パリィスキルが珍しい?」
「うんー。
最初の方には使ってる人いるけど、今ではスラッシュとか基本技のほうが主流だよねー?」
パリィスキル。
それこそが俺がここに来るまでにしていた準備というものだ。
このゲームでは、スキルというものが戦闘の鍵を握ると言っても過言ではない。
スキル。
・生得(しょうとく)スキル
・会得(えとく)スキル
というふうに分類され、簡単に言うとレベルあげて手に入るのが生得、変えたり学んだりできるのが会得だ。
生得のスキルは、現段階では5レベルごとに手に入るという予測がされていて、その仮説が崩れているパターンはない。
会得のスキルは、先程行ってきたが、街にあるスキル屋で買うことができる。
その中で、俺は【パリィ】スキルを手にした。
ちなみに初期資金をすべて捨ててこうなったので、現在一文無しである。
「あぁ、結構ありましたし、使っている人いますもんね」
「だから気になっただけー」
「……あの、聞きたいんですが」
「なにー?」
「なんでパリィスキルって使われなくなったんですか?」
「……もしかして何回も使ってない感じ?」
「はい」
レイはあー、と俺の言葉に返し、
「それなら、そこにいるバニーにやってみて、分かるから」
バニー?
あ、いた。
少し離れた木の陰に、怯えたバニーがいる。
先程の兎と比べると可愛いらしく、倒すのに抵抗がある。
「あ、はい」
別に今は倒すこそが目的ではない。
俺は言われるとおりにバニーに近づくと、ラビットは勢いよく飛び出して、こちらに突進してくる。
角はないため、攻撃力はホーンよりも低いだろう。
……いや、低くなきゃおかしいな、何考えてるんだろ。
腹に飛び込んでくるバニー。
先ほどと同じ要領で、攻撃の方に向かって双剣を振り下ろす。
当たった。
うまくいきそうな感触。
しかし、
「ぐへっ」
パリィは発動すること無く、とりあえずラビットの体を傷つけて、その勢いは殺されること無く、俺にぶつかる。
『バニーの攻撃、2のダメージ』
『ダンの攻撃、3のダメージ』
ログにちらりと目をやると、同時に攻撃した判定になっている。
パリィの文字はない。
すぐさま立て直し、双剣を振り回しうまくラビットを倒す。
煙のように消えるモンスターに、初めて倒した興奮よりも先に、
「どういうこと?」
「まだはっきりはしてないんだけど、多分確率でパリィは発動する。
パリィスキルは、パリィをするスキルではないらしい」
「……じゃあ、パリィスキルは?」
「パリィの確率を上げるか、パリィの成功率を上げるスキル」
【パリィ】
効果……相手の攻撃を弾き飛ばすスキル。
パリィのスキルの説明はこれだけだ。
つまりは、
「これ確定じゃないのね……」
「確定だったら強すぎだねー。
ま、ワンチャンとしてはありだから大事にしときなよー」
確かにパリィが100%使えるようになれば無双できる。
そんな事ゲームがさせてくれるわけはない。
「はぁ」
「ま、スキルなしでも最低ここらのモンスターは狩れるから、頑張れー」
ゆるい感じで応援してくれるレイに苦笑いを返していると、レイの目の前にウィンドウが表示される。
「あ、友達早めに来れたってー。
短い間だったけど面白かったよー、ありがとー」
「あ、うん。
こちらこそ助けてもらってありがとう」
「あはは、いずれ返してくれるんだよねー」
「あぁ、返すよ」
別に義理堅い人間、というわけではないが、ゲームの中で位は少しはいい人でいたい、というのはエゴなのだろうか。
背中を向けて走り去っていく彼女に、俺は深い溜め息をついた。
「パリィスキル……」
全財産……。
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