7話:油断大敵家電快適

「早速レベル上げでもしていきますか」


 現在、俺は北の森に入っている。

 やはりというかなんというか、まだ人はたくさんいる。

 今回は真北にしっかりと訪れ、適正と同じモンスターが出るのを他のプレイヤーの戦闘で確認した。


 ちなみに、ここに来るまでに修練場での訓練から少し時間が経っている。


 いきなり失敗して死んだのだ、初心者の森でも結構準備させてもらった。


「ゴブリン」


『ゴブリン』


 声出し確認でモンスター頭上のウィンドウを読み上げる。

 俺に対して警戒を向けているのか、俺をじっと見ている。


 こっちが武器を構えれば来る感じだろうか。


 双剣は背中に背負っているため、ワンテンポ必要だ。

 出るべきか、受けるべきか。


「ゲームだからっ!」


 前のめりに行ってみたい!


 後の言葉は胸の中にしまい、俺は走り出す。

 背中の双剣を抜刀し、どう攻撃するか考える。


 それに対して、ゴブリンはグギャ、という鳴き声と共にこちらに向かってくる。

 北の森のモンスターは知能は高くない、

 それ故に受けるという選択肢はないのだろうか。


 ゴブリンの武器は棍棒。


 どこかで拾ってきた大きめの木の枝、というくらいだろう。

 加工されていると言うよりは、使って削れた形が特徴的だ。


 このまま行けば、ゴブリンと俺は接敵し、早い方の攻撃が先に当たる。

 それならば俺の攻撃のほうが確実に早い。

 だからこそ絶対有利なのだが、この武器にはノックバックなんて偉い効果はついていない。


 ゴブリンの生命力と双剣の攻撃力のショボさを考えるに、多分攻撃喰らいながらカウンターされる。


「せーの」


 だから、ここで準備の出番だ。


 二人の間合いがぶつかる直前で、いきなり止まる。

 ザリザリと地面を削る音がする。

 そのまま、姿勢をしっかりと正し、相手を見据える。



 ゴブリンは棍棒を振り上げる。


 体つきとか、振り上げ方から攻撃の軌道を先読みする。



 ゴブリンの間合いに入る。

 棍棒を振り下ろした。


 顔面狙い。


「ドン……ピシャぁ!」


 双剣を振り上げる。


 狙いはゴブリンではなく、棍棒。


 振り下ろす棍棒、振り上げる双剣。


 2つが衝突し、


 木製の武器が衝突しているはずなのに、金属音が鳴り響く。


「くっ」


 この現象のあと、以前だったら俺は弾き飛ばされる。

 だが、今回は……


 ゴブリンの体が吹っ飛んだ。


「っしゃぁ!」


 ガッツポーズ。


 ログを急いで確認。


『ゴブリンの攻撃、ダンのパリィ、成功』


 おぉ、やっぱこれが正解なのか。

 成功すると相手のほうが飛んでいく、と。

 結構強いなぁ。

 攻略サイトでは載ってなかったけど、みんな使ってないのかな。


グギャアアアァァ!


「あ」


 パリィを自分の力で成功させたという思いから完全に戦闘だということを忘れていた。

 真正面から迫るゴブリン。


 回避しようと体を動かすが、半ば諦めの感情はある。

 ここはもう攻撃を食らって立て直そう。


 そんなことを考えていると、


 グギャ


「危ないよー」


 ゴブリンの潰れた声と、人の声が聞こえる。


 回避して無様にコケた瞬間、勢いよく顔を上げると、大樹の影から姿を表す人が話しかけてきていた。


「俺が矢を射ってなきゃ危なかったよー」

「……ありがとうございます」


 とりあえず、お礼。

 口から出てきたお礼の言葉に、話しかけてきた人は少しキョトンとして、


「あー、そうだよね。

 そうだった。

 こういうときは普通はお礼を言うもんだよねぇー」


 微笑んだ。

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