10話 猫神をいじめちゃえ!

 そうして、町へ出た。

 町に出て、そんな恋人同士なんて珍しくなんかあるまい。

 すれ違う人々。

 幸せそうにして。

 時に見掛けるカップルなんて、それこそニコニコと幸せそうで。

 「……。」

 が、俺の方は気が気じゃない。

 気にも喰わないことも。 

 デートなんて聞いたら、今まで散々碌な目に遭ってないから。

 ついつい、襲撃を警戒してしまうぜ。 

 また、これが単に罠にはめるだけだということで、正直味気もない。

 他方、琥珀さんは気にしていない様子。 

 むしろ、久々のこういうのに、心躍らせているよう。 

 ……年齢知らないから、だけど。

 一体いくつなんだろう?疑問は尽きない。 

 「?!」

 そうして、らしくなく考え込んでいると、不意に琥珀さんが今度は。 

 何と腕を組んできた。

 何事と俺はついぎょっとしてしまい。

 「あら?何か不思議なこと?カップルなら、これぐらい当然じゃない?」

 「?!……うぐぐ……。ぬぅ。」

 「うふふふ……っ!」

 他方、琥珀さんはらしくなく。 

 まるでそう、たぶらかすような?

 あるいは、軽くおちょくるように、いたずらな笑みを浮かべるのだ。

 見ると、本気で心臓が高鳴ってしまう。 

 見れば、魔女とかと言われるとは思えない程。

 むしろ、年頃の少女のよう。決して、老けた女性じゃない。 

 その弄り方は、だが、見た目年齢とは裏腹に。 

 経験豊かの様相を示す。そのギャップに、俺は何も言えなくなってしまう。

 胸の高鳴り、緊張、俺は代わりとして、唾を飲み込んだ音を立てた。

 それを見て、琥珀さんは、からかうようにまた笑った。


 まるでデート。 

 まあ、そうだけど。

 そうして町を練り歩くことで、そう、自慢の彼女でも見せびらかしているよう。

 ……が、実際は琥珀さんにリードされていて、いまいち。 

 ……それでいいけど、そもそも、猫神を誘うためだから。

 「……う~ん。」

 しかし、だ。

 遊びのようなものだからと、味気はやはり感じないや。 

 まあ、でも。

 このままだと俺が、猫になってしまうのだから、まずはその原因を解かないと。 

 文彦!これでいいのだ!

 !!

 おお、俺の心の声は、そう言うか!

 ……まあ、馴染みの人だしね。

 味気云々、この際なしだ。

 このまま、この人に合わせて、楽しむようにしよう。

 それが決断になり、俺は琥珀さんに全て委ねよう、そう思う。 

 そのためか。

 琥珀さんにゆだねたなら、本当に、楽しそうで。 

 ゲームセンターに行ったり。 

 カラオケに行ったりと。

 まるでデート。

 「?!」

 しかし、問題も。  

 それは、支払いは全て、俺だから。

 学生の時分、それ程お金がない。

 それなのに、こんな、ゲームセンターだの。

 カラオケだの行ったりしたら、お財布にダメージがぁ!!

 ……気が付いたのは、お札がなくなり。

 とうとう、500円玉だけになった時でした。

 ……ぬぅぅぅぅ。

 だが。

 だが!!

 これが、猫神から逃れられると思ったら、安い!!……はず!!

 結果として、呪いが消えるなら!!!

 ……そんなことであっても、俺はめげない。

 奮い立てて、俺は財布を見ずに。

 琥珀さんをつい、見てしまう。

 「!!……っ!」

 「!……あ、すみません。」

 「……ううん。いいわ。」

 つい、力を入れて見つめてしまったか。

 何を感じたか、琥珀さんは何だか瞳を潤ませたかのよう。

 怖がらせた?いや、何だか、憧れのような? 

 力強さを感じた?そんな気がする。

 ……まさか、惚れちゃった?

 ……う~ん、嬉しいような、そうでもないような。

 疑問だけが、独り歩きしていた。 

 「……!……?」

 また、デジャヴというのもある。

 こう、こんな時な。

 絶対、絶対!ぜぇぇぇったい!

 ……来る!きっと来る!!きっと来る!

 ……あの猫神……。

 ……だったんだが、肩透かし。琥珀さんがいるこの時に、その気配さえ感じない。

 いや、いたずらだって、下手すれば、邪魔することもできただろう……に?

 「あら?私がいるのに、何か別のことでも考えているの?」

 「?!……い、いや……。」

 そんな折、考え込んでいるなら、琥珀さんが俺の顔を覗き込んできて。

 悪戯っぽく、笑みを浮かべてきた。

 その悪戯な笑み、嫌に俺の心を揺さぶってきて。 

 くそう!こんな人がもし、俺のクラスメイトだったら……!!

 絶対、絶対!ぜぇぇぇったい!

 惚れちゃう。

 ……失礼だが、そこはもしかしたら、〝年の功〟ってやつ?

 男をたぶらかす、ううむ……。

 それはそうと、言いたくはない、不機嫌にすると、何をされるやら……。 

 「それ、別の娘のことだったら、私、怒るわよ?もう!今は私だけを見ればいいのに、全く……。ふふっ!」

 「!!……うぅ?!」

 琥珀さんは、そこでやめず、さらに探るように続けて追及して。 

 怒るような素振り見せるが、本当に怒ることはなく、どこか、やはり。

 悪戯っぽい!

 それら、何だかこそばゆい!感じて、身震いしてしまった。

 たとえ遊びであっても、これじゃ、本気にしてしまいそう。

 う~ん!それでもいいか?!いいのか?!俺……。

 相手は、昔からの馴染みの人。

 それも、俺が小さい時からいた、女性。

 ……あ、多分年齢は聞いちゃいけない。聞いたら、地獄を見そう。

 そんな人。

 どちらかというと、お姉さんだろうけど……う~ん!

 「それじゃ、私しか考えられないように、してあげようかしら?」

 「!!」

 傍ら、とどめにか。

 琥珀さんは強烈に身体を寄せてきて。

 腕に、思いっきりしがみついてきた。 

 その時の笑みは、完全に俺の心を仕留めるよう。

 獣のように、輝いた。

 その射貫く視線、これでは、どんな男だって、いちころだろう!

 ダメだ!

 もう、嘘か誠か分からない!このまま、琥珀さんと一緒になって?! 

 俺は、そんなにされると。

 思春期かな、妄想が爆発しそう!

 

 頭の中で繰り広げられる、温かな光景。

 沢山の子供たちがいて、琥珀さんと笑い合っている未来。 

 まあ、人間っぽくはあるが、その子供たちどれにも。

 猫の耳が付いていた。

 そんな子供たち見て、可愛らしく俺は微笑んで。

 ……ただ不思議なことに、その中の一人は、どこか俯いているような?

 しかし、疑問が。

 どっからどう見ても、その一人だけ、見覚えある人物に見えない?

 あ、そうだ。

 思い当たった、あの猫神だ。

 猫神?


 「ぬぎゃぁああああああああああああああああ!!!!おのれぇぇぇぇ!!!!」

 「?!わぁ?!何だぁ?!」

 重なった瞬間、突然咆哮が。

 俺はその瞬間、ようやく現実に戻って、何事と見渡した。

 「?!げぇぇ?!」

 眼前に、それこそ今しがたいた子供のように、あの猫神がいて。

 俺と琥珀さんの前に仁王立ちしては、歯痒そうにしていた。

 突然の登場と、散々な目に遭ったことが災いして、俺は気分が悪そうに。 

 「……ふぅ。あらようやくね。」 

 「?!……。」

 にもかかわらず、琥珀さんは冷静だ。

 むしろ、遅いとばかりにか、溜息だってつく。

 余裕か。 

 「ぬぅぅぅ!!!この魔女!!!我の邪魔しおってぇぇぇ!!!ぬぐぅううううううううううう!!!」

 他方。 

 同じ猫耳の猫神は、その余裕が気に食わないか、地団駄、悔しそうに吠える。

 「だってあなた、分かりやすい気配を放つんですもの。ほんと、やりやすいわ。まあ、普通の人間だったら、あなたでも充分でしょうけど。」

 呆れながらも余裕絶やさない琥珀さんは、やれやれといった具合。 

 「?!えぇ……。」

 「?あらどうしたの?」

 「……いや、琥珀さんって、何者?」

 俺は、琥珀さんの様子見て、つい声を漏らした。

 琥珀さんは、振り向くと不思議そうに首を傾げてきて。

 その見つめる瞳は、やはり俺を見て、潤み。 

 何だか、恋をしているかのよう、その瞳で見られると俺は……。

 って、なりそうだが。

 それにもかかわらず俺は、つい聞いた。

 「あら。それは秘密!乙女には、あるでしょ?」

 「……あ、はい。」 

 答えは、……秘密だと。

 それも、人差し指を自分の口元に着けて、ウィンク一つ。

 なら俺は、追及できません。

 そんな、ポーズを取られると、ねぇ。

 また、可愛ささえ感じて、どうにかなりそうだ。

 年齢をとやかく追求したくもないが、この人絶対経験人数、相当だ。

 その、男のハートを鷲掴みにすること、全部知っているかのよう。

 「ぬぅぅがぁあああああああ!!!!無視すんななのじゃぁぁぁ!!!!」

 「わぁ?!」

 対して。

 比べてちんちくりんの、のじゃロリ猫神は、琥珀さんの様子に余計怒る。 

 子どもっぽく、じたばたと両手足回して。

 暴れることに、つい驚きもするが、琥珀さんが手を握ってくれて、安心する。 

 「まあ、文彦。ここは私が。あの子も、私とお話ししたいようだし。」 

 「!」

 「そもそも、それが目的ですもの。」

 「……あ、はい。」

 続けるや琥珀さんは、ここは自分に任せてと。 

 笑みを蓄えるならそれは、自信に満ちていよう。 

 また、そもそも論だって。

 そもそも、猫神を懲らしめるのが目的なのだと。

 俺は、本来の目的に、そうだねと、素直に頷いた。

 そうして、琥珀さんに色々を譲った。

 「おのれぇぇ!!おのれぇぇ!!女狐めぇぇ!我が邪魔せぬようあれこれしおってからに、生意気なぁ!!!」

 「?!うわぁ。」 

 譲ったなら、琥珀さんには早速と、罵声が飛ぶ。  

 しかも、ツッコみどころがありそうだが、そこは触れておかないでこう。 

 「女狐じゃないわよ、全く。」

 その罵倒に臆することない、琥珀さんは。 

 呆れた様子だけ向けている。 

 「ぬぬぬぬがぁぁぁぁ!!!!」

 それは、火に油を注ぐ結果に。

 噴火して、吠えて、掴み掛ろうとさえ。

 しかし、琥珀さんは易々とその手を払い。

 「やめなさいな。その程度の分際で。」

 「ぬぅぅぅぅ!!」

 「……はぁぁ。悪い子。お仕置きをしなきゃね。でも、あんまり、こんな、へっぽこに使いたくないのに……。」

 「へ、へっぽこ?!……うううぅううがぁぁ!!!」

 軽く、あしらいつつも。

 なかなかに、辛辣な言葉を浴びせていた。 

 「……。」

 辛辣な言葉傍ら耳に、何だか琥珀さんの謎が深まりそう。 

 猫神を相手に、臆しないし。 

 だが、このような状況において、俺はどう言葉を掛けていいか、分からない。  

 逆に言われた猫神は余計に爆発。

 これじゃ、どうなるやら。

 そもそもと、思い出すなら。

 不思議な力見せるのだから、一体全体、これからどうなるのやら。

 途端、不安になる。 

 

 もし、あの猫神が力を振るったら? 

 前の、コンサートの時にあった話だが、会場を破壊するだけの力はあったと。

 まあ、あれは他に、マリもいたからだろうけど、そこはそうとしておく。 

 その、力を振るったとなれば、この周辺が壊滅して。  

 町が、滅ぶ?!

 

 「あわわわわわ……。」 

 情けないことに、俺は途端にあわあわしだした。

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