第21話 不機嫌の理由

◇◆◇

 


二回目の文化祭実行委員会。懐かしい顔を私は発見する。

「あ、紗枝じゃね?」

 そう話しかけられて吃驚する。ツンツンな茶髪。やんちゃそうな顔が懐かしい。


「え~、正樹?!久しぶり。え、この間は居なかったよね?」



「この間は欠席したんだ。腹の調子悪くて」

「そっか。正樹、相変わらずお腹弱いんだね」思わず紗枝はくすくす笑ってしまう。

「そうなんだよ。ひ弱な胃腸でくやしい」

 そこには、近所に住んでいる、ある意味幼馴染と言える、一つしたの近藤正樹がいた。


「あぁ、っていうか、正樹、うちの学校だったの?」

 そういうと、「うん。気付いていたけど、上級生だから流石に絡みづらくてさぁ」とチャラく言っている。


「はは。そんな性格じゃないくせにー」と返すと、正樹もわははと笑っている。



 何だか知っている顔に会えるのは嬉しいなぁ。

「紗枝は、何担当するの?」

「あ、え、看板だよ」

「へぇ、俺もやろうかなぁ」


「鈴木さん、誰こいつ」と青木くんが何だかイライラしてた。ごめんなさい。青木くんにとっては見知らぬ人だもんね。疎外感感じちゃったかな。


「えぇーっと、この子は、幼馴染の正樹です」

「はい。紗枝の幼馴染です。先輩よろしく!」と言っている。こういう明るいキャラなのに、すぐストレスで腹を下す所が面白いなぁと紗枝は思う。面白いって思うのは酷いか……。


「ふん。俺は、鈴木さんと一緒の実行委員の青木。ってか、一緒のクラスの女の子呼んでるよ」と青木くんは、愛想0%で正樹に返した。つ、つ、冷たい。


 後輩に厳しい!!最近やっと少し愛想よくなってきたような気がしたのに。

 正樹は、「あ、やべ」とクラスの女の子を一瞥して、持ち場へ帰っていった。


「あいつ、紗枝って呼んでた」

「うん。幼馴染みだからね」


「――俺も……呼びたい」

 青木くんが可愛いと、世界中に聞こえるように叫びたい!!

 可愛い。青木くん可愛い!!!


「うん、呼んで、えっと私も青木くんじゃなくて、下の名前で呼んでいい?」


「もちろん」


「えーっと、善一郎くん……は、恥ずかしい」ぷしゅーと蒸気が出てしまいそうになる。


「紗枝、嬉しい」そういって、青木くんが、私の髪を優しく撫でた。

 爽やかな笑顔だ。白い歯がきらりと見えている。

 結構表情変わるんだなぁ。さっきとは、別人のように思える。


 青木くんはさっきの不機嫌はなんだったんだと思うぐらい機嫌よく作業している。

 ふぅ、名前呼ぶ度ドキドキする。


 紗枝って呼ばれるのも嬉しい。

 きっかけをくれた幼馴染の正樹に、紗枝は感謝したい気持ちになった。




 ◇◆◇


「紗枝、ペン貸して!」青木くんが甘えるように、こちらを見て微笑む。

 可愛い。カッコいいのに可愛いなんて、なんて罪な男なんだろう。青木くんは。


「いい感じじゃん」と楓ちゃんに小突かれる。

「ふふふ。ついに善一郎くんと下の名前で呼べるようになりました!!!!」

 こらえきれないように笑うと、「もしかして、付き合うことになった?」と聞かれるけど、「それはないよー」と苦笑して返すしかなかった。


 楓ちゃんは拍子抜けのような顔をしている。

「え、でもさ、甘いよね。青木の紗枝への対応が」

「なんか、この間、無視されて戻ってから青木くん、やけに優しいの。気にしてくれているのかも」

「そ、そっか。なんか……お気の毒だわ。青木が」

「うん。その時から、決めたんだ。私も。あんまり青木くんに対してスキスキ全面に押さないことにした。なんか青木くんのトラウマが根深いようで、可哀そうで」

「そう。なんていうか、色んな意味で可哀そうな男だね。青木って」そういって、楓ちゃんは「まぁ、受け身でいるからそういう感じになるのよ」と呟いて、トイレへ行ってしまった。



「ねぇー、紗枝、ご飯食べにいこう!」

「うん、あお、いや、善一郎くん。分かった」

 そういって、席を立つ。青木くんはニコニコしている。本当に最近の青木くんの機嫌の良さはなんだろう。


「あー、美味しかった!!」

「うん。そうだね」

 青木くんが完食してくれると本当作りがいがある。今日はオムライスにした。副菜はセロリ入りキャロットラペである。あと、りんご。りんごが美味しい季節になりました。

 本当に嫌いなものがないようで助かる。うちの弟だと、グリンピースは駄目だし、セロリも駄目だし注文がとにかく多いのだ。


「目、つぶって……はい、ご褒美」と舌の上に、抹茶味のあまーい球体が置かれる。


「えっと、抹茶飴!」というと、「当たり!」と青木くんは指を鳴らす。


「おいしぃー」というと、青木くんはそう?と嬉しそうだ。最近は私が目を閉じて、口をあけて、そこに青木くんが置いてくれたお菓子を当てるっていうクイズ形式になりつつある。案外、これが楽しいのである。喉痛いといっていると、のど飴だったりして、結構そこらへんも配慮してくれたりしている。


「あ、お、善一郎くんって、飴好きなの?」と聞くと「あー、うん。母さんが好きだから家にいっぱいあるよ」と言っている。「へぇ、青木くんのお母さんどんなお母さんなの?」と聞くと「バリバリのキャリアウーマン」と笑っている。

「ほうほう。じゃあ、お父さんは?」と聞いてみると、「バリバリの建築会社の所長」と答えた。


「忙しそうだね」というと、「昔から忙しかった」と答えられて、なんといえば良いかと悩む。


「そ、そだ。善一郎くんって、お父さん、お母さん似なの?」と聞くと、「髪質は父さんで、目は母さんで、鼻と口は父さんかな」と答えてくれた。


「想像がつかない。きっと、美男美女なんだろうけど」


「今度、うちに遊びにくる?」そう言われて、嬉しくてたまらなくなる。

 また、青木くんのおうちに遊びに行ける!!嬉しい。


「やった!!」と喜ぶと、青木くんは「そんなに嬉しい?」と聞いてくる。

「うん。だって、この間は着替えてすぐ帰ったしね。沢山、青木くんのこと知りたいよ!部屋も入ってみたいし」

「部屋っていっても、つまんないと思うよ」

「ううん。どんな部屋なのか気になるよ!いつも読んでいる雑誌とかも見せてもらいたい!」

 うわわわ。楽しみでたまらない。



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