第22話 青木くんのおうちにお邪魔します
◇◆◇
今日は、文化祭の材料を買いに行きつつ、青木くんのおうちにお邪魔することになっている。
文化祭が理由としてもデートはデートだ!と、気合を入れれば入れるほど迷走してしまい結局、いつも通り、ノルディック柄のセータに、濃紺色のロングスカートを合わせた。寒い場合はニットのボレロを羽織るつもりである。
駅前の噴水の前で待っていると、青木くんがやってくる。
う、うわ!!青木くんが髪をセットしている。
いつも、髪の毛の隙間から片目がでている程度の露出度の青木くんだが、今日は髪の毛がセットされており、イケメンすぎるお顔が見えてしまっている。グレーのパーカーに、シンプルなジャケットを着ているだけなのに、その姿は、かなり周囲の目を惹く。
「ごめん、遅れた。変な人に話しかけられて」
「そ、それは大変だったね」
何があったか、何となく分かったけど、あえて聞いてみる。
「まず、変な女に攫われそうになったけど、振り払って逃げてきた。そしたら、よく分からんスカウトの人に絡まれて、女の子が集まってきて、逃げられなくて、そしたらお巡りさんがきて助けてくれた」と、暗い声で教えてくれた。
「そ、そっか。でも、また、どうして髪の毛セットしてきたの?」こうなる事態は予想できたのではないのだろうか。自分の本気、つまりはイケメン度合いを少々舐めているんじゃないだろうか。
「なんとなく、お洒落したかったから」ぼそっと青木くんが呟く。
そっか。それは、仕方がない!お洒落好きだし、お洒落したいよね!!!!
なんて可哀そうなんだ。学校だけでなく、私生活でも好きなことをセーブしなければならないって。
「大変だったね。でも、とってもかっこいいよ!学校でのヘアスタイルも、やたら色っぽい書生みたいで素敵だったけれど、今日は、まるで有名人みたい!!」とりあえず、賛辞を贈ってみた。
「お、おう。ありがとう。紗枝も、かわいー。そのノルディック柄のセーターとか、とっても似合っている」と褒められた。正直ダサいと思われていたらどうしようかと、ドキドキしていたからありがたい。まぁ、気にしても、私みたいな、ぱっとしない顔立ちは何を着てもそう変わりはないだろう。
「さ、行こうか」と青木くんがこちらに笑ってくれる。
ドキドキ。いつもの10倍程度は破壊力やばい。真顔でも変な人が寄ってくる青木くんである。私が少しでも風よけになれれば良いのだが。
私を無視したかのように、青木くんに対し話しかけてくるスカウトの人がいる。
空気だろうか、私は!ちょっと不愉快なんですけど!
「あ、彼女も可愛いね。もし良かったら、二人の写真撮ろうか?」そう言われた時だけ、青木くんは「お願いします」と頭を下げていた。一応私のカメラと青木くんのスマホでも撮影してもらいました。
嬉しい。二人での写真って初めてだなぁと、ホクホクしていると青木くんがすぐに私のスマホに画像を送ってくれた。青木くんの笑顔の写真嬉しいな。
そして、何だかんだいって、数枚写真を撮られてしまい、割と有名な雑誌に載せられてしまうらしい、青木くんの隣に並ぶブスとか、陰で悪口言われないか不安でビクビクしてる。
「大丈夫かな。私なんかが載っちゃって」と青木くんに話しかけると、「え、紗枝。可愛いよ。すっげぇ」と言われる。
天然のたらしキターー!!顔どころじゃない首も熱い。蒸発して、空に飛んでいきそうになる。もちろん、飛んではいかないが。
「このほっぺたとか、ふっくらして可愛い」とほっぺたを引っ張られる!!
「一瞬でも期待して損した!」完全に恋愛系のかわいいではありませんでしたよ。これ。ペット愛みたいなもんでした。あざーす!
笑いながら歩くと、画材屋さんについて、絵具や筆、方眼紙などを購入する。
「さ、俺の家にいこう!」と言われ、私たちは青木くんの家に向かった。
お父さんお母さんは仕事でいないっていうけど、一応お土産も買っていった。
「おじゃまします」そう入ると、案の定誰もいないで、静かだ。
紗枝は靴を脱いで、そろえ、スリッパをはく。
青木くんは、「どうぞ」と、歓迎してくれている。
「相変わらず整理整頓されているね」綺麗な部屋である。
「俺もあまり帰っていないし、な......、よくよく見ると埃かぶってたりするよ」
「そうなんだね。……さて、青木くんの部屋見せてくれるんでしょ?!」
「いいけど、さ。鈴木さんは少しくらい危機感とかないの?」
「え、何か危ないものでもあるの?」な、なんかあるのかな。「もしや、怖い動物とか飼ってる?」「ん、いや、だけどハリネズミは飼ってるよ」
初耳である!!
「ハリネズミ!?!?みたい!!」今まで飼ったことないけど憧れている。あぁ、手の平にのせたい。
「くははは。なんか、気負って損した。いこう。紗枝」と青木くんは愉快そうな顔をした。
青木くんの部屋は、好きなものが詰まっているような、お洒落な部屋だった。
帽子掛けや、電気のスウィッチもアンティークな感じに仕上げられており、期待以上に雰囲気のある部屋である。
「えーっと、ハリネズミは、そこ」と指さされた方向をみると、ドールハウスのお風呂でくつろぐ愛らしいハリネズミがいた。しかも、アルビノの白いハリネズミだ。
「うわぁああああ!!!かわいい」大きい声を出してしまったからか、ハリネズミは起きて、お風呂から飛び出る。もちろん、お風呂に水は溜まっていない。
「ご、ごめ。うるさかったよね」と、見ると、こちらをハリネズミが見た。目つきがちょっと悪い。
「ふふふ。青木くんみたい。かわいー」というと、後ろから、お土産で持ってきたマフィンとお茶を持ってくる青木くんに「誰が可愛いって?ってか、名前呼びそろそろ慣れてよ」と言われた。
難しい。脳内で青木くん呼びが定着しているため、上手く変換できないときもあるんです。いまだに私なんかが呼び捨てでって思っちゃう。信者か。私は。
「ねぇ、この子の名前なんていうの?」
「......秘密」
「なんで、教えてよ!!」
「えっと、鈴子。そう鈴子!!」偽名かもしれないけど、教えてくれた。
「そっかぁ、鈴子かぁ。すずこぉ。すっごく、かわいーよ」そう言っていると、青木くんが両手開いてといって、ハリネズミの鈴子を乗せてくれた。温かい。可愛い。ちょっと体を丸めて緊張してそうだ。
「ごめん。鈴子。見知らぬ人に抱っこされて怖いよね」といって、青木くんに返す。
見ているだけでも、良いんです。
「可愛いね。いつから飼っているの?」
「えっと、運動会終わったくらいから」と教えてくれた。
「なんだぁ、結構前じゃん。教えてもらったらすぐ遊びに来たのに―!!!!」と言うと、意外にも「ごめん」とすぐに言われた。
「お茶冷めるから」と促されて、一応二人で手を洗ってお部屋へ戻る。
洗面所だけじゃなく、全部覗いてみたかった。自分の家以外の家ってどうなっているか気になる。
戻ってきたら、お茶は少しだけ冷めていた。
「これって、前お土産でくれたブランドの?」
「そうそう。母さん紅茶好きで、うちはずーとこれなの」
ドライレモンが、浮いているお洒落な紅茶である。もちろん冷めても美味しい。
「しかし、部屋がお洒落すぎて、ちょっと緊張するね」そう素直に感想を述べると「好きなもの揃えたら、こうなっちゃった」と笑っていた。
「あれ、ヘアワックス?すっごい種類あるね」
「それぞれ、特徴あるからね。面白いよ!これはハードの中のハード。今日使ったのはこれ。匂いが良いでしょ」と色々詳しく教えてくれた。
雑誌も色々な種類があり、青木くんらしいお部屋である。
「へぇ、男の人用のヘアワックスも色々なのあるんだね。面白い」
「髪質別に色々あるから、自分に合うのを探すの結構難しいと思う」
「紗枝はあんまり、ワックスつけていないよね」
「うん。なんか、不器用でワックスつけても生かせないんだよね」
「前髪伸びてきたときにワックスつけると、かなりセットしやすいよ」
「今度やってみようかなぁ。あと、直毛だからか、スタイリングしてもすぐ戻っちゃってねぇ」
「へぇー、触ってみていい?」
いつの間にか、ヘアブラシで髪の毛を梳かされている。
「こ、このヘアブラシすごいね!すっごいまとまるというか、まっすぐなる」
「そうそう、これ、三千円くらいのヘアブラシなんだけど、すっごく良いからおすすめするよ」
「探してみよ」
じゃあ、また買い物一緒に行こうという話になる。嬉しい。また、青木くんとお出かけできるなんて。駅ビルにも販売店があるらしい。
そして、会話しながらも、コテで器用にくるくる髪の毛を巻いてくれる。
「わわわ。すごい。自分でやっても全然うまくできないんだよね。私」
「そりゃあ、俺は練習しているからね」といって、髪の毛の長い上半身だけのマネキンを見せてくれる。
「こんな髪の毛、ふわふわなの初めて!」というと、青木くんも嬉しそうににこやかに笑っている。
「俺も、紗枝のさらさらの髪、触れて嬉しいよ」と、耳元で囁かれた。
びくん。
「ちょっと、善一郎くん、からかわないで」というと、「真っ赤ー!」と笑っている。この人、同い年だよね!なんで、こんなに手玉にとられているんだ、と悔しく感じる。楽しそうに笑っているし、絶対確信犯である。
「ちょっとメイクもしていい?」と言われて断られる訳ない。
「大丈夫!リップくらいしかしていないから」そう私は快く返事をした。
青木くんの顔が近い。例えるなら、鼻息が当たりそうなくらい。
「肌は強い方?」と聞かれて、こくんと縦に頷く。
保湿剤で顔を保湿した後、化粧下地を塗られる。そして、薄くフェイスパウダーをぽんぽんされる。
「紗枝は、肌綺麗だから、薄付きのもので良いと思う。そして、少しハイライトを置いて」
「そして、アイシャドウはパールっぽい色をグラデーションで重ねづけして、ちょっとビューラーするからね。うるさくない程度にマスカラするよ。うん、可愛い」
すごい。青木くんは魔法使い?ってくらい自分が明るく可愛らしく変身していく。
「チークをちょっとはたこうか。唇は、これ。03番と02番あわせて。できた!!」
「ありがとう。なんか、すごい。こんなにきちんとメイクしたの初めて!」興奮してしまうくらい。これでまだ私と同じ学生なの?と思うくらい青木くんは手慣れた感じでメイクしている。
「うますぎる......善一郎くんは、もしや自分で練習している?」
「ちょっとだけ...ね」
「見たい」
「やだ」断られた。青木くんのメイク姿みたかったのに。
「親にも見せたことないし。ってか、流石に見せられるレベルじゃないから」
「えー、そんなこといって。超絶、美人な癖に」激しい拒絶は珍しいな、どうしたんだろう。
その後、美容室の店長に軽くきいてみたら、「あぁ、これでしょ」と雑誌を見せてくれた。
読者モデルとかの域じゃなかった、そこには青木くんみたいな綺麗な女の子が香水をもっている宣伝の写真だった。
「あ、ああ。私このCM知っている。正体不明だけど、すっごく美人だねってお母さんと話したことある」
「そう、知人に頼まれて出たみたいだけど、思いのほか反響があって色々あって、怖くてやめたみたいよ。モデル」
なんと。
青木くんCM出ていたなんて知らなかったよ。
若かりし頃の青木くんはもう少し華奢だったんだろう。秋っぽいベールを幾重にも重ねたコーディネートだから男性らしい骨骨しさも感じない。ゆるく巻いた長い髪も似合っている。
「ったく、店長勝手なことしないで下さいよ」と青木くんがバックヤードから戻って雑誌をばさっと取り上げた。
「え、欲しい。なんていう雑誌の何月号ですか。自分の持てる力を最大限駆使して手に入れたいです」というと、青木くんにぽかっと優しく頭を小突かれる。
「はぁ、綺麗だった。善一郎君の女装姿。お姉さまってお呼びしたい」っていうと、「俺は男だ。それに今はゴツくなったから、絶対に似合わない」と断言された。
そこで、どうしても女装がみたい私は考えたのです!
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