第13話 運動会当日〖午前〗
◇◆◇
そんなこんなで運動会当日。
早起きして、お弁当つくりました!張り切って、おにぎりにカツを入れて!勝つのゲン担ぎ。あと、青木くんの好きな唐揚げを沢山作りました。今回は、塩唐揚げにしてみました。あとは、元気のでるフルーツ盛り合わせ。
「姉ちゃんって、何気に男子の気持ち分かっているよね」って褒められた。ちゃんと、弟の分も塩唐揚げいっぱい作りましたよ。食べ盛りだからね。なんていうか、食いっぷりが見ていて気持ちが良い。
体操着に着替えていくと、校庭には青木くんがいた。背が高いから頭一つ出ていて場所を特定しやすいな。
「あーおーきくーん!!これ、お弁当」周りへのけん制のために大きな声で叫ぶ。はい。私は計算高い女でございます。実は、ペット扱いですけどね。
恋人じゃないけど、恋人に見せる自信はあるよ!
「今日はね。おにぎりにカツいれたから!あと、塩唐揚げね!」でも、恋人というよりかは、おかんみたいなペットになりつつあるかもしれない。
「いいなぁ。紗枝~。私も食べたい」と楓ちゃんが言うので、「そう思って沢山作ってきたから大丈夫」と自分のお弁当箱を指す。鳥もも肉ブロックの大きいのかったんですよ。皆で摘まめるようにね。
周りにいるクラスメイトとあれこれ話していると、音楽が鳴り始めて、実行委員が集められる。
実行委員の後ろには、全校生徒が整列し、校長先生の話をきく。
実行委員長である新見先輩が、校長先生に向けて選手宣誓をしている。
「――正々堂々と戦うことを誓います!」
持ち場に戻って競技が始まる。室内競技と室外競技が同時に行われるので、まずは青木くんが出るバスケット競技へ顔を出す。その道すがら、3年生の先輩方をかしゃかしゃ撮影する。
3年全員分の写真を撮らなければならないので、何気に大変なんですよー。青木くんを観察するのと、両立できるか自信がない。撮りこぼしは許されないもんね。
体育館へ入ると既にバスケ競技が始まっていた。これは3年生VS3年生だなとカメラを構える。
バスケ部も出場しているからか、上手い。ってか、運動部ばっかりじゃないか。
青木くん、朝は走り込みしているって言ったけど、大丈夫だろうか。バスケは経験なさそうだし、と危惧していたが、全然問題なかった。
「青木、パス!」
「シュート!」
巧みにパスをつなぎながら、点数を稼いでいる。楽しそうに攻防戦を繰り広げており、青木くんは楽しそうに汗をかいていた。パス回しも見事だけど、結構遠くからのシュートも入っている。手が大きいからか、ボールの扱い上手いなぁ。
うわぁ。青木くんモテてたのって、見た目だけじゃないよね。絶対……と、紗枝は思った。小学校や中学校って運動できる子は無条件にモテる。ちなみに私は、変な男性にしかモテません。何でだろう。無害な男性にモテてみたい人生だった。
青木くんももちろん撮影しましたが、まんべんなく3年生の先輩方も撮りました。青木くんチームに負けてくやしそうだったけどね。青木くん。バスケ部負かすのは良くないよ!帰宅部なのに!
その後、校庭に戻ると1年生の子たちが玉入れをしている。
次は私も玉入れをしなければ、担任の佐藤先生に一眼レフを託し、一心不乱で赤い玉を拾い投げる。実は私、球技は苦手の中の苦手なのだ。一個も入らなかった……。楓ちゃんがドンマイと言わんばかりに背中を優しくさすってくれた。80対55で、うちのクラスの惨敗だった。絶対私のせいだ……。
空しさの中、青木くんのサッカーの時間になったので、そそくさと移動する。
落ち込みながら歩いていると、体育館裏で激しい口論の声が聞こえる。
なんだ、なんだ。
興味本位で覗いてみると、実行委員長の新見先輩が、すっごい勢いで鴨川先輩に迫っている。口論かと思いきや、鴨川先輩は嬉しそうに笑っているだけで新見先輩が必死に言葉を吐いているようだ。
「なんでだよ。俺だけを見てくれよ」と新見先輩が、鴨川先輩を壁ドンしていた。
辛そうに泣き始めた新見先輩の前髪を優しく撫でる鴨川先輩。愛しそうな瞳。意地悪く上がった口角。どう考えても、新見先輩の方がヤンデそうに見えるのに、やっと掌握したとばかりに鴨川先輩は妖艶な笑みを浮かべて、新見先輩を抱きしめていた。
初めて、壁ドンみた……。
先輩方、運動会当日にやめましょうよ。イチャイチャしている二人に実行委員長と副委員長でしょ!と言いたい気持ちもある。でも、それより、鴨川先輩は、昔も今も青木くんを当て馬として、恋を盛り上げる着火剤として使っていたのではないかと疑念を持った。
鴨川先輩がヤバいのは分かったけど、逃げなきゃいけないのは青木くんではなく新見先輩のような気がする。おそらくだが、鴨川先輩は相手を壊して掌握して愛でるヤバイ性癖なのではないか。掌で転がす感じを楽しむ。
見なかったふりをする。
そして、あとで青木くんにそれとなく報告しよう。とりあえず、触れるの厳禁。
でも、すごいなぁと思った。
私はまともなお付き合いをしたことがない。思い出されるのは小4くらいに告白されて付き合ったけど、特に何も起こらず自然消滅した。それに、恋といっても、今回みたいに相手のことしか考えられなくなるくらい盲目になってしまうのは初めてだ。でも、壊してまで手に入れようとは思ったことがない。
少し羨ましいと思ったけど、青木くんは壊しても手に入らない気がするし、私にその手腕があるとは思えない。それ以前に、ペットに翻弄される飼い主なんていないだろう。ここでいう飼い主は青木くんです。ペットはもちろん私。
私もいつか、心身共に育ち、鴨川先輩みたいな人心掌握術を使えるようになるのだろうか、と思ったが、無理な気がする。どう考えても、私が何股もかけたら、頭を心配されて、まず病院につれていかれてしまいそうだ。断じて色気がないことを悩んでいる訳ではない……!
その場から逃げようと、速足で歩く。
ふぅ。しかし、今後、青木くんに意識してもらえる時なんて来るのだろうか。少し気が重たくなる。
ちょっと鴨川先輩が羨ましい。見る限り新見先輩はしっかり自分を持っており、ああやって自分を見失うタイプではなかったはずだ。冷静沈着で真面目で勉強やスポーツが出来て、信頼も厚い。そんな人があんな風になるなんて、鴨川先輩はどんなテクニックを使ったんだろう。逆に、そういった後ろめたいところのない新見先輩だからこそ、鴨川先輩は興味をそそられたのかもしれないな。ってコワッ!
急いで中庭に進むと、既にサッカー競技が始まっていた。
うわぁ、もう始まっちゃってる。青木くんはサッカー選手みたいに、巧みな走りで周りを翻弄してた。まぁ、この間のでかなり上手いことは知っていたけど。
心なしかコート外で応援している女子の目がハートに。そして、青木くんを凝視しているよね。そうだよね。素材も良いし、動きも良いし、つまりはカッコいいよね!ちょっと青木くん大丈夫?かっこよくなっちゃってるよーーーーー!!!
3年の先輩を撮りつつ、青木くんも撮る。
運動神経万能なの羨ましい。嘘でしょと言われるが、球技は悲しいくらいに苦手で、ボールに逃げられてしまうのだ。まるで磁石の反発しあう力のようである。
走るのと、跳ぶのは得意なんだけどもね。最近はタロウの散歩くらいしか運動していないので走るのも自信もないが、陸上部時代は腹筋も割れていたんですよ。
青木くんは、シャッターを切る私の存在に気がついたのか、余裕そうに笑ってピースしてた。
尊い。尊い。尊いぞぉ!無事カメラに収めることができたので、PCのデスクトップ画面にしたいと思う。どんだけ、私を萌えさせるんだ。青木くん。勘違いしない私もなかなか偉いよねっ……。誰か褒めて!
その後、お昼休憩の時間に突入。
各自教室に戻り、お弁当を食べることになっている。
席について、やっと座れた~とだらけていると、青木くんに「鈴木さん、屋上で食べよう?」と誘われる。なんだ。なんだい。シャッターを切り続けた成果、腕が上がらないけど、可愛い青木くんのためだと自分を奮い立たせる。
青木くんは「頂きます」と礼儀正しく手を合わせ、お手拭きで両手を拭いて、おにぎりをはむっと食べている。可愛いねぇ。
「このカツ、甘くておいしいね」
「でしょ。スウィートチリソースまぶしてきたからね」
良かった。青木くんパクパク食べてくれている。
ただおにぎりと、スウィートチリソースは相性がいまいちだったかもしれないな。まぁ、喜んでくれているならいっか。
「唐揚げおいしー。肉、柔らかい」
「塩こうじに漬けたからね。美味しいでしょ!」胃袋は掴めているのだろうか。もうおかんみたいだな、私。
青木くんは、ニコニコご飯を食べている。
食べっぷりが良くて、見てて気持ちが良い。弟もそうだったけど。
「あ、楓ちゃん忘れてきた」
「ん、大丈夫じゃない?さっき、高木と消えていたよ」
「え?楓ちゃん……またなんで高木なんかと」
「んー、大丈夫。高木よりか……きっと彼女の方が強いんじゃないかな」と青木くんは、上を向きながら話している。そんなはずはない。楓ちゃんは身長146㎝しかない可愛い女の子なんだ。高木にイジメられていたら助けてあげなくちゃ。
「ちょっと行ってくる」というと、青木くんにぎゅっと右手首を掴まれた。
「……きっと、お邪魔になるからやめた方がいい」そういう青木くんの言葉には力があって私は楓ちゃんたちを探しにいくのをやめた。
「それとも、俺じゃ物足りない?」なんつーセリフだ!と紗枝は青木くんに突っ込みを入れたくなった。今の録画して、エンドレスで再生したい。
「たっ……足りるよ」とまごまごしながら、言ったあげく、動揺している自分にむしゃくしゃし、青木くんの弁当から大きな塩唐揚げを一つ奪ってやった。
悔しそうな表情の青木くん。良心が痛むけど、私だって甘いばかりではない。
結局、青木くんが可哀そうでおにぎりを一つわけてあげた。
満足気に食べ終わった青木くんは「あぁ、運動のあとの食事は最高だぁ。眠たい」と固いコンクリートの上で寝転んでいる。同じように寝転ぶと空は青く澄んでいる。一面それだから、青空の中に佇んでいるような不思議な気持ちになった。
まるで、青木くんと二人だけの世界にいるみたい。
「あの雲、ソフトクリームみたい」「あの雲は、りんごかなぁ」など、雲の感想を述べる。そして、カメラを構えてカシャ、カシャ、写真をとる。
青木くんと見た。この青空を忘れたくない。そう思った。
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