第7話 ごほうびはアップルティー味
◇◇◇
平和だぁ。
高木もすっかり静かになり、紗枝はのびのびと学校生活を送れている。
家に帰り、自室のベッドにゴロゴロしながら、青木に連絡する。
そう!実は連絡先を交換できましたよ。ふへへへ。嬉しくてニヤニヤしてしまう。
なんて挨拶しよう、それに高木から庇ってくれたお礼もしたい。どうお礼すれば良いかな。庇ってくれたこともだが、激しく胸キュンさせて頂いたので。
「お礼に、お弁当もっていきますっ送信っと」ピコン。すぐ返事がきた。「ありがとう、楽しみにしてるだって、やったぁ!」紗枝はよっしゃあと勇ましくガッツポーズをした。
という訳で、明日から、青木くんにお弁当を作ることになりました。
急いで、唐揚げの下味とつける。醤油と料理酒だけではなく、ショウガやニンニクも沢山いれてしまおう。この際、口が多少ニンニク臭くても、美味しさを重視した方が良いだろう。
帰ってくる間に、食べ盛り男子用の大きなお弁当箱も買ったし、炊飯予約もしたし、準備万端だ。
その夜は緊張してしまい、中々よく眠れなかった。
朝、5時に起きてご飯を冷ます。弁当のメニューは、「茶色の弁当が俺は好き」という2歳下の弟の意見を少々参考にしつつ肉たっぷり目のものにした。唐揚げは決定事項だ。
だって、青木くんの追っかけをしている最中、時々コンビニで食べているのを見たからね。唐揚げが好きだと言うことは調査済みだ。それにプラスして、甘じょっぱい豚テキをごはんの上に乗せ、のり弁にし、竹輪に切り込みを入れ納豆を加え卵液とパン粉をまぶして揚げた。サクサクに出来上がった。弟に食べられそうになって、阻止した。野菜は、トマトとゆでブロッコリーだ。
ふぅ、できたぁ!箸も持ったし、お手拭きも持った。よし、OK!
るんるんしながら、私は荷物を持って自宅の玄関を後にした。
今日は、楓ちゃんは他の友達とご飯を食べるということで、私は昼休みに、勇気を出して青木くんの前に立った。「青木くん、お弁当......」というと、クラス全員が私と青木くんを凝視したので、周りの視線を察知した青木くんが「屋上いこう」と私の手をひいた。
ひんやりしてて、固くて、ゴツゴツしている。
そんな青木くんの大きな手が、私の手を握っている。
ばっくんばっくん、心臓が高鳴っているのが分かる。廊下を青木くんと私が通ると、廊下にいる人たちも、若干ざわついている気がする。青木くんはそれを無視してずんずん歩く。
屋上に到着するなり、座れそうな所にあぐらをかいている。
私もそれに倣って、ちょっと冷たいコンクリートにちょこんと座り、お弁当袋からお弁当を取り出す。
青木くんは頂きますといって、箸を持ち食べはじめる。綺麗な食べ方だな。食べこぼしもない。それに歯並びも良い。「鈴木さんは、食べないの?」そうくすっと笑われて、急いで自分の分の弁当箱を開ける。
二人で黙々とご飯を食べる。どうなんだろう。お口にあったかなぁと思ったら、
「美味しかった。特に、この竹輪の揚げたやつ。俺、好き」
そういって、満足そうに笑っている。ほっとしたぁ。そんな青木くんの笑顔に私も胸がいっぱいだ。「それ、うちで良く出るの。私も好きだから、作ってみた」そういうと、「そっか」と短く返事をくれた。
ん、んん?会話終了だろうか。
何を話そう。話したい事は沢山、考えてきたのに、焦りからか今日の天気くらいしか話題が思いつかない。
「鈴木さん、目つぶって」話題の提供に苦しんでいた所、青木くんに提案され、素直に目をつぶる。
「次は、舌だして」そう言われて、舌を出す。
ドキドキ。ドキドキ。
間抜けな表情になっていないか、とか、何をする気だと思ったら、舌の上に小さい球体がのった。
甘くて、これは、アップルティー味の飴だろうか。
「ごほうび」そう言って、青木くんも飴の袋を破って食べる。
「よく、鈴木さん飲んでいるじゃん。アップルティー」そう言われて、胸がほっこりした。確かにペットボトルのアップルティーを好きで良く購入している。もしかしたら青木くんも私に少しは興味を持ってくれているのかなぁと嬉しい。
「また、お弁当作ってきていい?」というと、青木は「無理せず......でも、正直嬉しい。お願いします」と言った。やったぁ。
黒い前髪から、見える三白眼は僅かに細まる。その瞬間を紗枝は心のシャッターに収めたが、現物、つまりは写真が欲しいなぁと思った。そういや、幼い頃、両親が私と弟の写真を沢山撮ってくれたっけ。ちょっとウザイくらい撮影する気持ちが、今すごく分かった。今度の誕生日、カメラでも両親におねだりしようかなぁ、と紗枝は思った。
青木くんの、その一瞬、一瞬を手放さないように搔き集めたい。
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