第6話 高木ざまぁ
◇◇◇
その頃、紗枝に思いを寄せていた高木は怒りに震えていた。
今まで手に入らなかった女なんて一人もいないのに、と歯ぎしりする。
高木が紗枝を好きになったのは、クラスが変わった一番最初の時のことである。とても、綺麗な子がいると思った。顔が小さくて、お人形さんみたいな子。それでいて、中身はおっとりしておりどこか憎めない。
そんな子が、俺が落とした消しゴムを拾って優しく「はい、どうぞ」と笑いかけてくれたのだ。
気付いた時には、自分の目がいつも彼女を追っていることを自覚し、高木はいつも通り、女の子を落とすための行動を始めた。なのに、全然恋に落ちてくれない。
どうしてだろう。こちらを見ようともしないではないか。興味もなさそうだ。そして、観察しているうちに紗枝はというと、誰にでも優しいし、男女分け隔てなく接するタイプの女の子だったようだ。
自分にだけ特別接していた訳ではないと気付いた頃には、あきらめられなくなっていた。
今までの女は、何度か甘い台詞を吐けば、しっぽを振って俺に媚びてきたのに、彼女は全然俺に靡かない。
それどころか「ちょっとしつこいよ。相手の気持ちも考えないと」と逆に怒られてしまった。
それに、最近彼女には気になる相手が出来たらしい。もちろん、俺ではない。
窓際の前から3番目。鬱陶しい髪型をした、目つきの悪い男である。身長が俺より高いのが鼻に突くが、何もかも俺の方が上だ。なのに、なんで彼女は青木なんかに執着するんだろう。
二人が仲良さそうに、話していると、本当に腹が立つ。彼女が笑いかけている青木がいる場所は、本来は俺がいるはずだった場所だったはずだ。どうにか、二人の仲を切り裂けないかと思った。
青木の悪い噂を流しても広まらない。
何故だと思ったけど、最初から別に評判が良いわけではないし、なんていうかアイツは人の視線を気にするタイプではないようだ。注目をひくタイプでもなく、噂はあっという間に消えていく。一方、腹いせの気持ちも込めて鈴木さんには、「誰とでも寝る女の子」ということを俺からと分からないようにサッカー部のやつに流してもらった。
「お前、そういうことばっかりやっていると、いつか痛い目にあうぞ」そう、同じ部活の誰かに言われていたけど、その時は、全然気にしていなかった。
◇◇◇
「最近、他のクラスの男子から視線感じるんだよね」
そう楓ちゃんが言う。
「え、楓ちゃんが可愛いからじゃない」
そう私は返事をしながら、お弁当をはむっと食べる。青木くんは、またパンを食べている。体大きいのに、パン二つで足りるのかなぁ、と私は心配になる。この間、助けてもらったお礼にお弁当作ってきてもいいか、聞いてみよと思う。
でも、楓ちゃんも寂しがるかもしれないし、一緒に食べるのは、と悶々と悩んでいると、廊下から呼び出される。
「へ、あ。鈴木は私ですけど何か」
見たことのない男の子だ。私に何の用だろう。
「ねぇ、誰にでもやらしてくれるって本当?」
......?
「え、っと、何をですか?」思い当たる節がない。だって、初めてみたよ。この人。
「だーかーら、噂になっているよ。Bクラスの鈴木さんは、男が誘えば誰にでもやらしてくれるって」
自分でもうまく返事が出来たか分からない。
びっくりした。ショックだった。涙があふれて、零れ落ちる。
「ちょっと、紗枝大丈夫?」
楓ちゃんが、戻ってきた私が、椅子に座りながら泣いているのを心配してくれている。どうしたらいいんだろう。あの男子は、そして視線元の男子たちは、私の自慢の親友の楓ちゃんを見ていたんじゃなくて、私のことを見に来てたんだ。
「...ひぐっ...変な噂が流れているみたいでっ……」小声で、概要を話すと楓ちゃんがムっとした表情で立ち上がった。
「はぁ、許さない。誰よ。そんな噂を流したのは」そういって、楓ちゃんは私を保健室に連れて行ったあと、犯人探しにいってしまった。
保健室の先生に、「辛いことあったんでしょ。全部話しなさい」と頭を撫でられる。
普段、温和な先生も今回ばかりはめちゃくちゃ怒ってる。どうしたら、誰でもヤラせるという噂がなくなるのだろうか、この後教室に戻るのも嫌だ。どうしよう。青木くんの耳にも届いていたら。幻滅されてしまいそうだ。
「楓ちゃん......!」しばらく、先生に抱きしめられていると、楓ちゃんが息を切らして保健室に戻ってきた。
「青木が、めちゃくちゃ、怒ってる。私じゃ止められなくて、紗枝お願い」
◇◇◇
教室に戻ると、青木くんが高木をぶっ飛ばしていた。
机や椅子もだいぶ移動していた。
いつも、より雰囲気がこわい。
鬼のような形相で青木くんは高木を見下ろしていた。
「なぁ、鈴木のこと、好きなんだろ。なのに、お前はあんな噂流すんだよ。サッカー部のやつからきいたぞ。お前が、鈴木の噂流したんだろう?......いくらなんでも、やりすぎだろ」
クラス中は、シーンとなっている。
ドア側には、様子を観察しようと沢山の人が集まって、ごった返している。
そこを私は無理やり通り、教室へ入る。そうすると、青木くんは私を指さした。
「鈴木さんはね。俺に夢中なんだから、他の男とあれこれするはずねぇーんだよ」と私の身の潔白を証明してくれる。
......ねぇ、これちょっと恥ずかしくない?何この羞恥プレイ!
「休みの日だって、学校帰りも、俺ばっかりを見ているんだから、不純異性交遊しているはずないだろう」
私は、怒りの形相の青木くんの裾をくいくい引っ張る。
「青木くん......ストップ!...このまま言われたら、別の意味で私、学校これなくなる」そういうと、青木くんは我に返ったように「すまん」といって、押し黙る。
「今の忘れて、とりあえず信じて、鈴木さんは清らかだから」
そういって、青木くんはさらりと綺麗な動作で席に戻った。とてもじゃないけど、授業が始められる雰囲気じゃない。清らかだってなんだ。そりゃあ、清らかだよ!清らかですけれども。
そうして、顔を熱くして、席に戻り羞恥に耐えていると、楓ちゃんから「青木かっこよかったね」とlineがきた。そうそう、恥ずかしくて死ぬかと思ったけれど数割増しで恰好よかったよ。
バリトンの声が教室中に響き渡った。背筋もぴっしりしていたし、もしかしたら青木くんが、かっこ良いことが若干名にばれてしまったんじゃないかと思い少々気が重くなる。
青木くんはというと、机に突っ伏して寝てしまっている。差が激しい。
はぁ、どうしよう。その後、高木事件は解決したものの、クラスメイトに盛大にからかわれてしまった紗枝なのであった。
◇◇◇
それから高木へのクラスメイト、特に女子の風当たりが強くなった。
前まで、何だかんだ、優しくしてくれた女の子も最近はゴミをみるような目で俺を見る。
サッカー部の友達には「今回ばかりはお前が悪いよ」と言われた。
俺は悪くない。そう思ったのに、ある一部の男子から高木は異様な視線を感じるようになった。
知らない上の学年の男子に話しかけられる。
「なぁ、お前ゲイなんだろう。聞いたぜ。青木って男取り合って女と喧嘩したんだってな。そんな寂しいなら俺が相手してやるよ」俺にも変な噂が流れているらしい。
高木は絶望する。
どこから噂が......と、はだけた服でふらふら教室に戻ろうと、にたぁと腹黒く笑う視線を感じた。
そのおぞましい視線の主が、鈴木といた楓ちゃんという性格の良さそうだった女の子で。誰も俺の訴えなんて聞いてくれやしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます