聞き間違えにも程がある。
昼下がり。
俺は、鈴木さんと一緒に消耗品の買い出しに来ていた。水回りの掃除用具から始まり、さっきはコスメを見てきたんだ。次は、アクセサリーとか?
鈴木さんとのショッピングは、とても楽しい。新色の発色具合とか、ラメの多さとか話がわかるからかな。
商店街は、休日だからか人通りが多い。ちょっとでも気を緩めれば、そのまま人混みに飲まれそうだ。俺は迷子にならないよう、荷物を持っていない方の手で鈴木さんの手をしっかりと握った。
無論、彼女の顔は真っ赤に染まっている。いまだに、俺と手を繋ぐのは慣れないらしい。隣を見ると、必死になってキリッとした表情を作っているんだから、可愛いよね。
「青葉くん、一緒にお風呂入ろう」
そんな幸せな時間を過ごしている時だった。
鈴木さんは、バスボムやおしゃれな固形石鹸が売られているお店を指差しながら、とんでもない発言をしてきた。
「……」
「……青葉くん?」
びっくりしすぎた俺は、その歩みを止める。
ちょうど後ろに居た人にぶつかってしまったけど、今はそれどころではない。「ごめんなさい」と言うのが精一杯だったのは、許して欲しいところ。
それよりも、鈴木さんの発言が脳内で同じ場所をグルグルと回っている。
「え……」
「……青葉くん?」
聞き間違い?
いや、お風呂と聞き間違える言葉があるわけない。しかも、バスグッズショップの前でだよ? え、もしかして、俺と一緒に入るために何か買おうってこと?
透さんとは入ったことあるけど、まさか鈴木さん本人と入る日が来るとは。
これは、一緒に入らないとアレだよね。本人がせっかく誘ってくれたんだし。俺が断るのも、違うよね。
別に、下心はないぞ。
鈴木さんの誘いを断るのは良くないって言ってるだけだ、うん。
「……もしかして、あまり好きじゃない?」
「いやいやいやいや、大好きです。ホント、三度の飯より好きすぎてもう」
「そう、よかった。遠慮しないでね」
「遠慮、しないよ。……しなくていいんでしょ?」
「うん。だって、青葉くんと私の仲だもん。不要だよ!」
ってことは、だ。
俺はこれから、鈴木さんと背中を流しっこして、一緒の湯船に浸かるってことだよね。
対面して浸かる? それとも、同じ方向見て俺の膝の上座る?
マジで遠慮しなくて良いなら、対面で膝の上乗って欲しいな。ぎゅーってしながら、鈴木さんの柔らかい身体と甘い匂いを存分に堪能したい。……いや、それは回数を重ねてからか。初回だから、もっと距離感大事にして……。
ってことで、遠慮しないよ? 透さんに止められても、特攻するよ?
鈴木さんは、それで良いって言ってるんでしょ?
よし、覚悟決めるぞ。
俺は、鈴木さんを変な目で見ない。ただ、一緒に入るだけだ。あの変態スポーツ野郎とは違う。
はいもう一度、復唱!
俺は! 鈴木さんを! 変な目で! 見ない!!
「そうだよね。遠慮してたら、相手に失礼だもんね」
「うんうん。じゃあ一緒に行こうか、お店」
「……え?」
覚悟を決めた俺は、鈴木さんの手を繋ぎ直して前を見る。
そうと決まれば、入浴剤とか香り付きの石鹸とか色々揃えるぞ。入浴剤は出来れば半透明なやつ希望で!
なんて邪なことを思っていた俺は、鈴木さんの言葉で我にかえる。
「……い、今なんて?」
「ん? お店、一緒に行こうって」
「ごめん。ここで止まった時、最初になんて言った?」
「……? 青葉くん、一緒にお店入ろうって言ったけど。やっぱり、お店の匂いダメだった?」
「…………いや」
ですよねー!
聞き間違いですよねー!!
あー、びっくりした。そりゃあ、透さんが許すわけないよね。
良かった、変な発言しなくて。鈴木さんに嫌われるところだった。
「匂い、好きだよ。香水見るのも好きだし」
「私も好き! じゃあ、行こう!」
「行こう。ここのお店の支払いは、俺にさせてね」
「え、でも……」
「償わせてください」
「……償い? 青葉くん、何かしたの?」
鈴木さんと一緒にお風呂へ入るの想像した、なんて言えるわけがない。
俺は、頭上にハテナマークをたくさんつけた鈴木さんの手を引きながら、バスグッズがずらりと並ぶお店に入った。
1万円以上は買わないと、俺の気が収まりそうにない。
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