クリスマスと言ったら、ケーキだよね!


 ついに、この日がやってきた。


 真っ赤な衣装を来た白いお髭のサンタさん、真っ赤なお鼻のトナカイさん。

 大きなツリーに、煌びやかな飾りつけ。さらには、大きな靴下をつり下げて就寝すれば、次の日にはプレゼントが。

 良いイベントよね。


 でも私、そこには興味ないんだ。

 私が嬉しいのは、こっちよ!


「……ふふ、ふふふふ」

「……鈴木さん、怖い」

「だって、これ。これよ、私が求めているのは!」

「……嬉しそうで何より」


 12月25日の夜から26日にかけて行われる、ケーキの処分セール!!!

 クリスマスで余ったケーキを、大特価で購入できるのよ!


 真っ赤なイチゴに生クリームたっぷりのショートケーキ、カスタードたっぷりのシューパイに、カスタードクリームの隠れた木苺のタルト。チョコムースがこんもり入ったチョコケーキに、……そうそう。ゴロッと大きなリンゴが入ったアップルパイも外せないわね。

 でも、チーズケーキは売り切れのところが多いの。やっぱり、人気あるのかな。


「お母さんからお小遣いもらったから、たくさん買うんだ」

「……食べ切れるの?」

「もちろん! 楽しみだなあ」

「……その量、食べ切れるんだ」


 私は、青葉くんと一緒にコンビニへ来ていた。

 さっきスーパーに寄って、ショートケーキとチョコケーキ、エクレアを買ったところなの。コンビニが終わったら、ひかるのお店ね。


 コンビニでスイーツ買うとか、贅沢!

 いつもならもったいなくて買えないけど、今日はなんて言ったって半額。買わなきゃ損じゃないの。


「青葉くんは食べないの?」

「食べるけど……。その量は」

「美味しいよ?」

「いや。味の問題じゃなくて、その、量の……問題で」

「……?」


 このくらいの量なら、夕食後に食べられるでしょう?


 もしかして、青葉くんってば小食だから難しいのかな。そしたら、今日はご飯少なめに盛ってあげよう。

 だって、今日は年に1度の特別な日。ケーキを半額で食べられる日なんて、今日しかないんだよ!


「持たせちゃってごめんね。次、ひかるのお店行っても良い?」

「付き合うよ。俺も食べたいし」

「ありがとう! ひかるのところで買ったやつは私持つね」

「大丈夫。鈴木さんは、どのケーキ食べるか考えておいて」

「イチゴタルトと、チョコホール! さっきラインで余ってるケーキの種類聞いたんだ」

「え。ホ、ホール……」


 会計を終えた私たちは、そのままひかるのお店に向かう。



***



「…………」


 鈴木さんの甘味好きがここまでとは。


 いや、俺も好きだよ。甘いもの。

 でも、この量は……。


 だって、スーパーで


・ショートケーキ(1パック2つ入り)2パック←わかる

・エクレア(大)4本←まだわかる

・チョコケーキ(1パック2つ入り)4パック←わからない


 を買ったし、さらに、さっきのコンビニでは、


・サンタクロースのドームケーキ(ミニ)3つ←瑞季ちゃんたちにかな?

・トナカイのドームケーキ(ミニ)1つ←可愛かった

・クリスマスツリーのモンブラン(ミニ)5つ←よくそんなに余ってたよね


 も、買ってる。


 今は、以前鈴木さんと行った幼馴染のケーキ屋さんに来てるんだけど、嫌な気しかしない。

 というか、すでに嫌だ。


「いやー、クリスマスの後に見る青葉くんは天使だわあ」

「わかるぞ! 青葉くんは国宝だ!」

「ちょっと微笑んでもらって良い?」

「やめてよ、青葉くんが困ってるでしょう」

「……えっと」


 以前よりもやつれた桜田ファミリーの面々が、カウンター越しに俺を見ながら合掌をしている。

 きっと、クリスマスで忙しかったんだろうな。でも、その合掌はやめてほしい。俺、仏様じゃないんだけど。


「なんだよ、あず。たまには青葉くん貸してくれたっていいじゃんか」

「ダメ! 青葉くんは私のなの!」


 そう言って、鈴木さんは俺の腕をギュッと掴んでくる。

 不意打ちすぎる。……ちょっと嬉しい。いや、だいぶ嬉しい。


 ……なんて思っていたら、どうやら顔に出ていたみたいだ。


「母さんカメラ持ってこい! 青葉くんが笑ったぞ!!」

「あらまあ、本当だわ! ひかる、一眼持ってきて。レフ板もね」

「嫌だ! 僕も見たい!!」


 と、今度は動物園のパンダ状態。

 ……本当、この人たちってなんなんだろう。


 まあ、嫌われるより数十倍良い。けど、この過剰反応というかなんというかは……。

 千影さんって、こういうファンを相手に仕事してるんだよね。大変だなあ。


「それより、ケーキは取っておいてくれたんでしょうね?」

「もちろん! さっき作ったばかりさ!」

「えー、違うの! 余ったケーキがほしいんです!」

「あずのバカ! あまりものを青葉くんにあげるとか、できるわけないよ」

「もうー、みんなのバカー! 安いケーキがほしいの!」

「それなら、タダであげよう! どうせ、今日は売り上げなんて出ないしな」

「嘘、おじさんありがとう!!!」

「…………」


 ここまでの流れは、まあ良い。

 多少うるさ……個性的なやりとりだけど、まあ良い。


 でも、その量はやっぱりいただけない。


「チョコのホールケーキにいちごタルト4つ、アップルパイとシュークリーム〜Xmas Ver.〜、さらに、チーズケーキ5つとオレンジホールタルトをつけよう! どうだ!」


 どうだ、って……。

 マジで、誰が食べるの? え、今日中に食べられんの?


 ……奏、呼んだ方が良い?


「わあ! おじさん、大好き!」

「ははは! もっと褒めてくれ! そして、青葉くんに俺たちの印象を良く言っておいてくれ!」

「うん! 有る事無い事たくさん褒めておくね!」

「ははは! 梓ちゃんはやさしい子だな!」

「あず、ありがとう!」

「梓ちゃん、ロウソクも入れておくわね」


 ……やっぱ、個性的だよね。桜田ファミリーも、鈴木さんも。


「ありがとう! みんな大好き!!」


 でも、鈴木さんが笑ってくれるからいっか。

 来年も、こうやって一緒にスイーツ巡りできると良いな。そうだ、初詣でお願いしておこう。


 袋に詰められていくケーキを見ながら、俺はそんなことを願っていた。


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