美味しい季節になりました

※青葉くんがトラウマ克服した後のお話です。



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「いらっしゃい、青葉くん」

「……え」


 俺が鈴木さんの家へ行くと、なぜか手だけ血で濡らした鈴木さんが出迎えてくれた。結構大きめの「包丁」というエネミーを握って。しかも、笑顔で!


 ……なんだ、これ。

 何が起きたんだ?


 とりあえず、聞いてみよう。勘違いしようもないんだけど、何かの勘違いかもしれないし。うん。


「え、何か殺したの……?」

「んー、ちょっとね」

「……」


 おかしいな、聞き方が悪かった?

 結構ストレートに聞いたんだけど。


 俺は、目の前に何かのバリアでもあるのか? ってくらい家に上がりたくなかった。精神攻撃が半端ない。


 ……人生、短かったな。

 でも、鈴木さんに殺されるならいっか。あの笑顔で、腹掻っ捌いて良いか聞かれたら断れない。


「……あの、瑞季ちゃんと要くんは?」

「一緒に解体作業してくれてるよ。今日は、リビングのテーブルでやってるの」

「!?」


 解体作業……。

 自主すれば罪は軽くなるから、って勧めた方が良い?

 いやいや、仮にも警視長の娘だよね。仮も何もないけど。


 にしても、リビングのテーブルで何をったんだ?


「入らないの?」

「あ、え、えっと……」

「やっぱり、生臭いかな。換気はしてるんだけど」

「……ん、ん」


 とりあえずその包丁を置いてください、なんて言えない。

 ……自然な流れで、受け取れないかな。いや、まずこの状況が自然じゃない。無理だ。


 なんて考えてると、鈴木さんがにっこり笑って俺に話しかけてくる。


「先に手洗って来てくれる?」

「う、うん……」

「その間に、終わらせとくから」


 俺の人生を!?


 ……手を洗ってる時、後ろからグサッて感じかな。

 視界に入れなきゃ、怖くない。……怖くないぞ。


「……お邪魔します」

「どうぞー。今日の夕飯は期待しててね」

「はい……」


 人肉食べさせられたらどうしよう……。

 てか、夕飯食べる時、俺は5体満足でいられる?


 奏、あとはよろしくね。

 千影さんと父さんを頼んだよ。


 なんてかなで頼みをしながら、俺は靴を脱ぎ鈴木家へと足を踏み入れた。



***



「……なるほどね」

「え、どうしたの?」


 今日は、さんまと鮭!


 お母さんの職場の人が、釣りに行ったらしくて。初めて捌いたからうまくできるかわからなかったけど、ちゃんとできたわ。

 ネットってすごいよね。なんでも載ってるんだもん。


 瑞季が捌き方の映ってるスマホを私に見えるように持って、要が骨とか不要な部分を入れる袋持ち係。包丁を握らせるのは危ないからね。

 途中で青葉くんが来たから、ちょっと変なところ見せちゃったけど。彼、お魚好きって言ってたから喜んでくれると嬉しいな。


「……いや。なんでもない」

「……?」


 どうしたんだろう。

 青葉くん、リビングへ入るなり力が抜けたように座り込んじゃった。座るなら、ソファにして欲しいよね。


「にいちゃんだ!」

「おにいちゃん! わたしね、お手伝いしたんだ」

「ぼくもぼくも」

「うん、偉いね……」


 双子が青葉くんに群がってる間に、片付けしちゃお。


 焼きが良いかな。ムニエルも捨て難いよね。フライとか南蛮漬けも食べたいな。

 ……青葉くん、何が好きなんだろう。


「ねえ、青葉くん」

「!?」

「……?」


 私が話しかけると、ビクッと肩をあげてなんだか恐ろしいものを見たって感じの表情でこちらを見てくる。


 ……ああ、そっか。

 私、包丁持ちっぱなしだったんだ。悪いことしたな。


 生臭いから、早く手も洗わないと。魚の血を流して、レモンの皮で臭い消し!

 ちゃんと消せるといいな、結構臭う。


「な、何?」

「焼きとムニエル、南蛮漬けにフライ、なんでもできるけど何が良い?」

「5体満足ならなんでも良いです……」

「……?」


 …………どう言うこと?



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