第20話 幼竜と釣りおじ

「こちらの依頼ですねー」


 今日はギルドに来ていた。

 新たな街ということもあり、前の町にはなかった依頼もあるので、しばらくは安泰だろう。


「あ、それから」

「はい?」

「こちらはどうしますか?」


 受付嬢が、積まれていた依頼状の一つを薦めてくる。

 今までに無かったことなので、少し戸惑う。


「これは?」

「あ、別の町から来られてたんですね。えっと、湖水の幼竜は知っていますか?」

「はい。一度、酒場でいただきました」

「あっ! そうなんですか? 何食べました?」

「生ですかね? その後スープにつけて食べました」

「あの食べ方がやっぱり一番美味しいですよね!」


 個人的な話なのだけれど、なんでそんなことを聞いてくるのだろうか?


「あ、失礼しました。それでですね、その湖水の幼竜は今が旬というか、個体数が増える時期でして。多くの方は依頼と並列して、この依頼も受けていく方も多いんですよ。この依頼は例え一匹も持ってきていただけなくてもペナルティはありませんし、持ってきていただければその数だけ報酬を支払いますので、どうでしょうか?」

「……どうする?」

「いいと思うよ? せっかくだし受けよ~」

「そうだね。お願いします」

「はい。承りました。……はい、これで大丈夫です。お気をつけて!」

「ありがとうございます」





「こういうの久しぶりだね~」


 盗賊を探しながら、シスねえと話していた。


「前は、秋にキノコの収穫量に比例するのもあったね。魔物では初めて聞いたけど」

「全部こういう風になればいいのにね~」

「差し迫ってたり、個体数の問題だったり、色々問題があるんだろうね」

「そっか~」


 盗賊を探しながら、水音の聞こえた方にも寄っておく。

 盗賊はどこにでも湧くので、その近くにいる可能性もある。


「どう?」

「人がいる」


 改めて、気を引き締める。




「あ、盗賊じゃないみたい」

「同業者?」

「たぶん?」


 僕にも見えてくる。

 盗賊っぽくはないけれど、100パーセントじゃない。


「一応、構えておこう」

「りょうかい!」


 カードを手に持ち、ある程度近づいたところで、あちらに聞こえるくらいの軽い音を立てる。

 こちらに気づき、片手でカードをかかげてきた。


「大丈夫だね」

「だね~」


 構えを解き、近づく。


「こんにちは」

「おう。アンタらも幼竜か?」

「別の依頼なんですけど、ちょっと寄ってみようかと」

「おー、こっちもだ」


 言いながら、水面を眺めている。


「ん? もしかして、新米か?」

「邪魔はしませんので」

「やり方は難しくねえから見てろよ?」


 そう言うと、おじさんは剣を持った。

 そして、湖に投げ入れる。

 糸?


「あの?」

「まあ見てろって」


 そういうと、糸を引き始める。

 それに合わせ、水面に何かが浮かんでくる。


「ま、こんなもんだ」

「これが湖水の幼竜ですか?」

「おう。剣なり尖ったもんに糸を括りつけて、あとは投げて刺すだけだ。簡単だろ?」

「結構難しいじゃないですか?」

「そうだな。最初の内は当てられないやつが多いから、やるなら安い短剣を大量に買っちまうのがいいんじゃないか」

「出費が増えそうですね」

「ま、俺みたいに慣れた奴なら、出費はほとんどねえから、ただ儲けるだけだけどな!」

「なるほど。いい話ですね」

「だろ? 嫁さんの小遣いが少ねえからよ。これで酒代にすんだよ。働いた後の酒は最高だろ?」

「そうですね」

「っと、俺はそろそろ帰るところだったんだ」

「そうでしたか……すみません、邪魔しちゃって」

「いいってことよ。あ、最後に。湖水竜が出たら逃げろよ? ありゃ、硬くてどうしようもねえけど、陸地に上がったらバカみてえに遅いからよ。それじゃな」

「はい。ありがとうございました」

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