第19話 保護と証拠

「これに保護術をかければよろしいのですね」

「はい」

「では……」

「はい、これでお願いします」


 代金を渡すと、中身を確認し、神官は目の前の台に記録用の魔道具を置き、術を唱え始める。

 掌から光が差し、魔道具に降り注ぐ。

 その光が表面を覆った後、中へと吸い込まれるように消えていった。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 教会を出ると、外で待っていたシスねえが駆けよってくる。


「できたの~?」

「うん。これで大丈夫なはず」


 一見すると何も変わっていないように見えるけれど、よく目を凝らせば、かすかな光を纏っている。

 保護術を施すことにより、新たに記録を行うことは出来なくなるものの、証拠としての信頼度が高まる。

 僕たちは冒険者で、殺したのは兵士。

 どちらが社会的信用を得ているかと言えば、当然後者であるので、こちらが証拠をしっかりと持っていなければ、簡単に拘束されてしまう。

 特に、あの兵士は街中を見回っていたようなので、市民からの信用を得ていた可能性もある。

 正直に言えば、誰にも見つからずに朽ちてもらうのが理想だけれど、そんなことは無理だろう。

 だから、自分たちからさっさと告白してしまった方がいい。

 証拠もあることだし、この町の兵士ではないし。




 予想以上に拘束された。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。

 今日中に解放されただけでも良かったとしよう。

 本当に、ああいうのにかかわるとろくなことがない。


「しょたちゃん、ご飯食べる~?」

「そうだね。お昼ごはんも食べてなかったし」

「じゃあ、あそこにしよ? おいしそうな匂いがしてるし!」

「そうだね」


 シスねえの嗅覚を信じて、酒場に入る。

 中はもちろん騒がしかったけれど、雰囲気は悪くない。

 暴れてる人もいないようだし。


「らっしゃい」

「おすすめくださーい!」

「2つおねがいします」

「はいよ」


 しばらくして、厚い肉が運ばれてきた。

 生の。


「焼かないんですか?」

「どっちもうまいが、生がおすすめなんだ」

「何の肉なんですか?」

「湖水の幼竜だ。この町の近くに湖水竜が生息してるからな。あんたら、来たばっかだろ? だったら、これを食わなきゃ始まんねぇよ」

「じゃあ、いただきまーす!」

「いただきます」


 肉と言われると、少し身構えるけれど、たしかに湖水竜の子の肉は生で食べることができることは噂で聞いたことがあった。今まで見たことはなかったけれど、店で提供されてるならば、そこまで珍しいものでは無いだろう。


「あ、少し残しとけよ」

「はーい!」






 残り5分の1ほどになったところで、店主がスープを運んできた。


「これはそれの付け合わせだ。これに少しつけて、肉の色が少し変わったら食べてみろ」


 言われた通りにして、口に運ぶと、外側の少し硬くなっていて、先ほどの柔らかいものとはまた違った旨みがある。


「どうしてこれが最後なんですか?」

「結構、脂が多いからな。酒を飲まねえようなやつだと、口直しが必要だろ? だから、この店だと、この食い方が一般的だ」

「そうなんだー」

「とてもおいしかったです」

「おう。そりゃあよかったぜ」


 代金を支払い、店から出た。

 思ったよりも値段は安かった。

 シスねえも気に入っていたようだし、この街に留まるのなら、また訪ねることになるかもしれない。

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