第16話 襲撃と逃走

「は?」


 目の前に槍の先端が伸びてくる。


「危ないでしょ~?」


 シスねえののんきな声とは裏腹に、行動は素早かった。

 僕を地面に下ろしながら、槍を片手で掴んでいる。


「ッ!」


 シスねえに掴まれた槍を引き抜こうとしているが……


「あれ、フィーちゃん?」

「フィリア!! 何をしている!!」


 駆けつけてきた壮年の男性がフィリアを羽交い締めにした。


「離せッ! そいつは!」

「いい加減にしろ!」


 そのような状態でもあきらめようとはせず、こちらに向かって来ようとしている。


「シスねえ?」

「あ、もう行くの~? フィーちゃん、またね~!」


 シスねえの手を引いて、宿へと戻る。




「フィーちゃん、大きくなってたね~」

「そうだね」


 小さいころの姿しか見ていなかったので、すぐには気づけなかったけれど、見れば面影が残っていた。

 本当に、成長したんだな。


「いつぶりだっけ?」

「5年くらいかな」

「いきなりでびっくりしたね~」

「シスねえ」

「なあに?」

「明日、ここを出ようか」

「そっか~。会えたし良かったかな! また会えるかもしれないし!」


 腰かけていたベッドから立ち上がり、早速準備を始めていた。

 そのまま、僕達は街に出ることなく、宿の中で過ごした。




「ふぁ~……」


 シスねえが大きなあくびをしているのも仕方がない。

 今日は、普段起きている時間帯より早い。

 外もまだ、暗く、太陽も出ていないため、朝と言っていいのか微妙な時間帯だ。


 この宿は先払いなので、どの時間に出ていっても良いことになっている。

 この時間だと、扉を開けてもらわなくてはいけないけど、仕方ない。



 扉を開けてもらい、外に出る。

 冷たい風が、通り抜けていった。


「シスねえ?」

「兵士さん」


 シスねえが僕を背後に隠すように移動させた。


「やっぱり気づいていやがったか」


 少し先、酒場の陰からあの時の兵士が現れる。


「シスねえ」

「りょうかい!」


 シスねえは僕を持ち上げると、そのまま走り出した。

 シスねえに抱えられたまま、後ろを窺う。

 兵士は一瞬呆気にとられていたが、すぐにこちらに向かって走り出した。


「このままでるよ」

「門は?」

「飛び越えて」

「わかった!」


 そのまま走っていくと、門が見えてくる。

 兵士がいるはずだけど、姿が見えない。

 少し気になったけれど、今の状況では好都合だ。


「しょたちゃん、つかまって」

「了解」


 シスねえの身体にしがみつく。

 一瞬の衝撃と、浮遊感。

 これから襲ってくる着地の衝撃に備えなくてはならないけれど、門の向こう、山から覗く太陽の光に目を奪われた。

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