第9話 犠牲と商人
「しょたちゃん、あっち」
「了解」
シスねえの指さす方向についていく。
しばらくして、僕にもその音が聞こえてきた。
金属のぶつかり合う音、次いで怒鳴り声。
これで冒険者同士の諍いだったりしたら興ざめでしかないけど……
「はい、しょたちゃん」
「うん」
差しだされた手を掴んで、身を任せる。
そのまま、木の上に持ち上げられた。
「盗賊、みたいだね」
「よかった~、ちゃんと見つかったね~!」
「そうだね」
襲われている側は……もう間に合わなそう。
一人だけ、あ、今斬られた。
「しょたちゃん?」
「気づかれないようについていこう」
「りょうかい」
普通の盗賊なら、拠点だったりに帰るはずなんだけど、少し様子が違った。
「あれ、うごかないね~?」
「もしかしたら、まだ狙うのかも」
少し移動した後で、動きが止まった。
そして、身を潜め始めた。
いくら簡単に済んだとしても、一日、それも時間を置かずに二つ目を狙うのは稀だ。
負担もあるし、一つ目の証拠をしっかりと隠しておかなくてはならない。
でも、隠し方が雑だ。
「どうすればいいの~?」
「ちょっとまってて」
もしかして、一つ目と関係のある馬車を狙ってる?
それなら、二つ目の時は助けに入った方がいいかもしれない。
「隠れてるね~」
「次の馬車を狙い始めたら助けに入るよ」
「りょうかい」
「……来たね」
しばらくして走ってきた馬車が見えてきたところで、隠れている盗賊がすこしそわそわし始めた。
目標はあれらしい。
「もう行っていいの?」
「襲ってから」
「そっか~」
タイミングを間違えるとマッチポンプを疑われかねない。
まあ、本当に盗賊か判断するために馬車を襲うまで手出しできなかったとでもいえば、どうとでもなるんだけど。
「……きた」
「行こう」
「りょうかい!」
シスねえにしょわれ、移動する。
「どこから出てきやがった!」
「ッ!? 誰だ!」
「冒険者です!」
「すまない、手伝ってくれ!」
「わかりました! シスねえ」
「りょうか~い!」
「すみません、助かりました」
「いえ、少し行ったところで、襲われた後の馬車を見つけまして。間に合ってよかったです」
「なんと……」
「もしかして、お知り合いでしたか?」
「いや……知り合いではありませんが、境遇は同じかと」
「境遇が?」
「はい」
「そういえば、護衛を連れていないのですか?」
「はい……お恥ずかしながら、そこまで蓄えがあったわけではないので……」
「そうでしたか。急いでいたのですか?」
「急いでいた……そう、ですね。慌てて出てきた、というところでしょうか?」
「慌てて、ですか?」
「はい。名前を伺っても?」
「僕はショタといいます。こちらは姉です」
「お姉ちゃんです」
「ご姉弟でしたか。私はモクーツ・ダノフルと申します。商人をさせていただいています。お二人は、タブケヤ国に行かれたことはありますか?」
「この先の、ですよね?」
この町には来たばかりだけれど、次の候補の一つだった。
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