第8話 盗賊と殺人

 盗賊討伐依頼が嫌われている理由は簡単だ。

 誰も、人を殺したくないのだ。

 僕も、シスねえも、別に殺人に快楽を見出しているわけじゃない。むしろ、殺すのは好きじゃない。

 でも、それで金を稼いで、生活するために、盗賊を殺す。


 盗賊討伐依頼自体は当然昔から存在し続けているものだけれど、最近は昔と比べれば全体的に治安が良くなってきているのか、盗賊も少なくなったらしい。

 そのせいで、変な宗教団体が湧いてきて湧いてきて、『盗賊にも神から与えられた命がある』とかなんとか。

 まあ、盗賊討伐依頼を廃止しろと主張している人間がいるらしい。

 そういう人間は、盗賊を生かして、僕たちを殺そうとしているのと変わらない。

 盗賊を殺して生計を立てている人間のことなんて考えていない。

 個人的な考えを言えば、盗賊を誘導して、その宗教団体を根絶やしにしてもらい、金銭を奪ってもらった後で、その盗賊を討伐したい。

 そうすれば合法的にその宗教団体の貯えていた金銭を手にできるし、二度と盗賊討伐が悪だなんて言い出すことはなくなるだろう。そんなうまいこと出来っこないけれど。


「ショタちゃーん?」

「にゃに」


 シスねえが頬をいじっているせいで変な返事になってしまった。


「なにむずかしいことかんがえてるのー?」

「別に、大したことじゃない」

「そっかー。まあ、何かあったらお姉ちゃんがなんとかするからね」


 力こぶを作って見せてくる。

 そこまで力こぶはないように見えるけど、実際は僕の何倍もの力がある。

 それでも、魔物には及ばない。

 人間は、純粋な生身の力だけでは、どうやっても魔物に届かない。

 だから、僕たちは盗賊を殺す依頼を受ける。

 そっちの方が簡単で、誰も受けようとはしないから。

 競争相手が少ないおかげで、報酬も高くなっているから。

 そのことに、気づいているなら、みんな魔物討伐依頼何て受けなくなると思うんだけど、世の中そんなに簡単じゃないらしい。

 まあ、適材適所。





 門を抜けて、林を抜けて。

 盗賊を探していく。

 でも、被害のあった場所から、南の森へと逃げていったとのことだったので、見つけるのは一筋縄ではいきそうにない。

 誰かが襲われててくれたりすると、本当に幸運だったりする。

 特に、護衛をつけている商人が標的だったりすると、盗賊はある程度、金品を奪うと逃走する。当然、護衛は手傷を負わせているはずだけど、追いかけはしない。護衛の仕事は、盗賊を倒すことではなくて、依頼主を守ることだから。少しでも金品を奪われている時点で守れていない気もするけど、それは僕達には関係ない。

 盗賊の持っている金品が増えたうえ、弱っているのだから、僕達からすればそれを逃す手はない。

 だから、誰かの悲鳴を求めて耳を澄ませながら歩く。

 どうか、誰か襲われていますように。

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