第2話 お金と馬車
「ねえ、しょたちゃん?」
「なに?」
「どこまで乗るの?」
「うーん……」
今は馬車に揺られて次の町を目指している。もう代金は払っているので勝手に下りるのは問題ないのだけど、盗賊を見つけた時くらいしか下りたことはない。
「飽きちゃった……」
「移動に飽きるも何もないでしょ」
馬車に乗るたびに似たようなことを言うけど、シスねえはただ会話のきっかけにしたいだけなのだ。
「も~、いじわるしないでよ」
僕はシスねえの膝にのせられている。席がかたいというのもあるけど、非力な僕がシスねえにつかまって逃げられるわけがない。
「盗賊でも居てくれればいいんだけどね」
「でも、ここってまえもきたよね?」
「うん。依頼で来た。だから、盗賊を探すなら次の町の反対側の方かな」
「そっかぁ……」
足を揺らすせいで僕も揺れてしまう。
「盗賊だぁ!!」
「っ」
声に僕を抱えたままシスねえが馬車の外に出た。林道を通っていたせいか完全に囲まれている。人数は、8。
「おい! 馬車に隠れてろ!」
護衛の依頼を受けた冒険者がこちらを見て叫んだ。
「加勢します!」
「私たちも冒険者なので!」
「そうだったのか……?」
「後ろの4人は任せてください!」
「お、おい!」
馬車の後ろに回り、相対する。
「おぉ、いい女じゃねえか!」
「こりゃぁ、言い値がつくぞ!」
「あのガキも売れそうだ! 俺が使ってから売りさばいてやる!」
「しょたちゃん?」
「んー……」
この近くには岩場だったりはなかったはず。隠れ家は、遠そうか。
「殺しちゃっていいや。お願い」
「りょーかい!」
「おい、なめるのも……」
「それ!」
シスねえの拳が盗賊の腹を貫いた。腕を引き抜けば、穴を埋めるかのように血があふれ出す。
「あ」
毎回、シスねえが盗賊の目を引き付けてくれるので、僕は楽だ。後ろに回り込んで、喉を掻き切ればいい。
「ぐぅっ」
「あぶないあぶない」
慣性に従って腕が振られたので後ろに避ける。僕は非力で体重も軽いので、死にぞこないの振った鈍らの刃でも死んでしまう。
「シスねえ、おわった?」
「おわったよー」
吹き飛んだ頭が近くの木にぶつかり、体は崩れ落ちるのを前に、シスねえは笑顔でこちらを振り返って手を振っていた。
「たぶんお金だけとって終わりでいいよ」
「はーい!」
中に誰が乗っているか確認もせずに襲ってくる盗賊はろくに金を持っていないことが多い。多いだけでたまに貯めこんだりもしているけど、見つけるのが結構面倒だったりする。犬みたいに地面に穴を掘って隠したりとか。
「おぉ……」
さっきの冒険者がこちらに回ってきた。
「加勢は必要なかったか」
「加勢に入ってそれを加勢されたら意味ないでしょう」
「そうだな。助かった」
「しょたちゃん、はい!」
シスねえが取ってきたお金を預かる。
「こっちは貰いますね」
「ああ。それにしても、本当にお前たちがやったんだよな?」
「はい」
「そうか。ま、詳しくは聞かない。馬車の中に戻ってくれ」
「はい」
シスねえと馬車の中に戻る。冒険者は御者と外で座っている。
「しょたちゃん、褒めて褒めて!」
「はいはい。あとで。もう少しで着くから」
さっき話しているときに、すこし先に壁があるのが見えた。そこが今回の僕たちの目的地の町だ。
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