タイトル『蟲人魔術師の流浪譚』
━━━とある蟲人の自由な生き様を記した流浪譚━━━
日本のいくつもの家庭、もしくは独身者が正体不明の心臓麻痺による不審死が確認された。
彼らは別に何らかの病に犯されていた訳でもなく、至って健康に暮らしていた。
それは三ヶ月経った今現在においても、解明されていない‥‥‥‥。
※※※
鬱屈とした森の中、倦怠感と共に俺は目覚めた。
驚くことに、倦怠感とは裏腹に身体はすこぶる好調、むしろ今までよりも漲るようなエネルギーを感じる。
だが、ふとした違和感から、俺は自分の手を無意識に見た。
そして、静かに呻くようにため息を吐く。
幾度も使ってきた身体だ。しかし、俺はそれにこそ疑問を抱く。
俺は、VRギアを装着していないのだから。
VRMMORPG『ワールドコネクト』
レベル制とステータスシステムを廃し、逆に多様な種族と豊富なスキル、そして広大な世界によって一躍VRゲームの頂点に君臨した‥‥‥ゲームだ。
戦闘系か非戦闘系によって分けられる技能は万を越え、組み合わせに関しては星の数ほど存在する。
単なるVRMMORPGなら、他ジャンルを差し置いて頂点に君臨するほどではない。だが、このゲームには他とは違う決定的なシステムがあった。
『ワールドコネクト』には突飛した点が二つある。
一つはNPCの知能。人間に匹敵する思考能力と確立した自我を持っている彼らは、もはや異世界の人間に変わらない。一説では、『ワールドコネクト』は世界シミュレーションを原点として生まれたのではないかと言われるほどだ。
もう一つはスキル。これは主に三つに分けられる。
一定の努力と修練を重ねる事で、プレイヤーであれば誰であれ必ず習得できる【
何らかの条件や、特殊なアイテム、またはクエストをクリアする事で得られる固有能力【
そして、最後が種族共通の能力にして特性、例外を抜きにすれば、その種族のみの固有能力【
『ワールドコネクト』ではスキルのみレベル制を採用しており、一律でLv.1~5を標準とし、それ以上のLv.10が上限とされている。指標としてはLv.1で初心者、Lv.5で一流、Lv.10で達人だろう。
『ワールドコネクト』がVRゲームの頂点に立てた理由は後者の中にある。
それは、プレイヤーはゲームシステムに無い、全く新しいスキルを開発する事ができる、というものだ。
無論、その為にはとあるアイテムが必要となるのだが。それは一先ず置いておこう。
そのアイテムを用いる事によって、プレイヤーは『ワールドコネクト』の世界でただ一つのスキルを得る事ができる。
公式では【ユニークスキル】と称されて、スキルを開発する為のアイテムの情報を名前のみ開示した。
『ワールドコネクト』に魅入られた人は多い。戦闘以外でも、ゲームの中でしか出来ない事が、夢が、『ワールドコネクト』にはあったからだ。
かくゆう俺も、その『ワールドコネクト』に魅入られた人の一人なのだがね。
さて、状況を確認しよう。
今の俺の姿は‥‥‥『ワールドコネクト』の世界でもポピュラーな、しかしマイナーとも言える種族【蟲人族】の青年だ。
皮膚の変わりに甲殻が───さながら昆虫の外骨格のように───身体を覆い、虫を人型にしたような姿形をしている。
しかし、俺は地球の虫をモデルにしていない。この世界特有の種族【蠅王】と呼ばれる怪物をモデルとした【蟲人族】だ。
黒い甲殻が身体を覆い、頭部は角のような突起があり、目の部分は赤黒いバイザーのようで、口は剥き出しの子供の拳ほどの歯が並んでいる。
‥‥‥ぶっちゃけ、悪の組織の怪人か、それともダークヒーローのような頭部だ。
身長はだいたい2メートル位はあるだろうか。少し覗いて見たら鎧を纏っているような身体をしている。
しかし、そんな凶悪な身体とは違い、服装はわりかし地味だ。
黒褐色を基調に金糸で縁取られたゆったりとしたローブに灰色の袴のようなズボン。
目に見える所は全て確認したが‥‥‥‥やはり『ワールドコネクト』での俺の姿、【バアル・ゼビュート】そのもののようだ。
何となくの感覚で分かるが‥‥‥何か大きな力が自身の胸の奥にあるのが分かる。意識すれば、まるで溶鉱炉をイメージするような熱いエネルギーだ。
ゲーム内では漠然としたイメージしか無かったが‥‥‥これがMP、『ワールドコネクト』における全てに通ずるエネルギー源【魔力】なのだろう。
なるほど、まるで血液のようだな。非常に興味深い。
────そろそろ状況の確認は良いだろう。
どういう訳か。俺は【バアル・ゼビュート】の身体で、どこかの山奥にでも放り込まれたのだろう。
無論、これは仮説に過ぎないが‥‥‥‥しかし解せない。
俺はあの時、確実に死んだ筈なのだ。
原因不明の‥‥‥‥恐らく心臓麻痺によって。
一体どういうことなのか。なぜ死んだ筈の
‥‥‥‥これは、深く考えてもしょうがないな。分からないならどうしようもない。そういう事だと受け入れるとしよう。
なに、前向きに捉えればいい事だ。
死んだ筈の俺は生きていて、しかも【バアル・ゼビュート】という強靭な肉体を持っているのだ。
ならば戦士系や魔法系の技能が使えずとも、逃げるくらいなら出来るだろう。
‥‥‥‥‥今さらだが、普通に地球の人間と同じような【只人族】に設定しておけば良かった‥‥。
ま、まあしょうがない。むしろ好都合だ。
【蟲人族】は天然の鎧と状態異常に対する高い耐性を持っている。自己治癒能力や身体能力も高い。夜目も効く。これは‥‥‥最高と言えるんじゃないか?
‥‥‥‥‥願わくば、この世界が地球じゃなくて『ワールドコネクト』のような世界でありますように。もしくは【蟲人族】が普通に人類として存在する世界でありますように‥‥‥。
※※※
こうして、【バアル・ゼビュート】として生きていく事を決めた俺は、森を抜ける事を目標に行動するのだが‥‥‥‥。
とある【獣人族】の少女と出会いを果たし、この世界が『ワールドコネクト』の世界に似た、もしくはそれそのものの異世界なのだと知る。
それから何やかんやあって森を抜けて。何やかんやあって人里の街に行き、何やかんやあって冒険者となる。
そう、これは俺の物語。この世界で一人の研究者にして冒険者として、この世界の謎を解明したり、自分の好きなように世界を旅する、流浪の物語である。
「私も忘れないで下さいよ!」「分かってる。分かってるから、頼むから俺の頭から降りてくれ」
〈主人公〉
名前:バアル・ゼビュート
種族:蟲人族:蠅王
性別:男 年齢:22歳
特徴:皮膚の代わりに黒い甲殻に覆われた身体を持つ、蟲人族の青年。2メートル位の長身だが、すらりとした体つきをしている。
黒ローブと灰色の袴のようなズボンのゆったりとした服装をしている。
見た目は子供が泣きそうな悪役怪人かダークヒーローのようだが‥‥‥本人は割りと気に入っている。
(蛇足であるが、バイザー部分は【蠅王】が自身の目を守る為に独自に進化させた眼球防衛装甲であり、本当の目はバイザーの奥にある。
その目は赤黒く、虹彩は緑に近い虹色だが、円盤ではなく六角形。しかも瞳孔は縦に割れており、非常に凶悪な目の形をしている。予断だが、六角形の部分は空間認識能力を備えており、複眼を失った代わりに独自に進化した能力であるとされている)
蟲人族は多種族と交流を持つときに、人化薬という人の姿になれる能力を常用している。だが、主人公はそんなこと知らないので、浮世離れした生活をしていたという嘘で、知らない訳を話している。
人化した時の形態は、白髪に黒と緑のメッシュが入っていて、蟲人と同様の目を持った高身長の青年。長髪で、しかも童顔なので年齢よりも幼く見られる事が多い。(容姿は前世とさほど変わらない)
概要:普段は穏やかな性格で、研究者肌の至って普通の蟲人族の青年(蟲人族の中では希少な存在だが)。
【蠅王】と呼ばれる蟲系の魔獣をモデルとしており、凶悪な見た目をしている。
前世もまた至って普通の男性であり、大学生だった。若くして研究室に入っていたようだが‥‥‥どんな大学でどんな研究室に入っていたのか、前世に情報は本人が話さない為、一切不明。聞かれてもはぐらかすだけで話したがらない。
【技能】は、【
唯一、一流と言えるのは基礎スキルから上位二種のスキルを複合させて、更に上位へと進化させた【格闘家系】の一種【
基礎的な打・投・極を追求していて、概ね地球での認識と変わりない。
一応、基礎スキル【気闘法Lv.3】を習得しているが‥‥‥あまり鍛えていない為、一流とは言えない。
本職は魔術師であり、様々な魔術に精通している。
自然の火・水・土・風を初めとしたものや、信仰系とも呼ばれる神官の会得する【治癒術】など、軒並み習得している。何れも上位スキルに進化させており、平均でLv.5以上で習得している。
【異能】は習得しているが‥‥‥‥使う機会が無い為、また今度。ヒントとしては‥‥‥‥七つの大罪に則したもの。
【種能】は自身のモデルとなった蟲の力を覚醒させて、爆発的な身体能力の強化や、モデルとなった蟲の能力の一部を使えるようになる【本能覚醒・
また【ユニークスキル】も開発しており、かなり使い勝手の良いスキルを持っている。
名称は【
蟲限定ではあるものの、その生物を触媒や魔力を消費する事で創造し、再現して使役するスキルである。
【錬金術】によって創れる【
あくまでも再現である為、魔力が尽きるか効果が終われば創造した蟲は消滅する。
しかし、再現であるが故に、その場その場で自分の思い通りに、極めれば手足のように操れる。また、蟲の特性の一部を強化したり、色々とカスタマイズもできる。
欠点として、魔力のみで魔法を行使した場合、再現された蟲はモデルよりも多少劣化した能力を持って再現される。この欠点はカスタマイズにより帳消しにできるが、触媒を用いる時よりも多く魔力を消費する。
逆に触媒を用いて魔法を行使した場合、モデルの通りにそのまま再現されるが、カスタマイズはモデルの持つ能力の延長線上しかカスタマイズできない。
例として翅から炎をバーナーのように噴射する蝶の魔獣を再現する【
モデルの【爆火蝶】は謂わば炎に寄生する魔獣で、炎が無ければ生きていけない生物。その為、魔力にやって炎を維持するか、他の生物を食らい燃料とする事で炎を維持する。同種族同士で融合し、より大きく成長する性質も持っており、その鱗粉には爆発作用がある。
速度は無いが炎を消費すれば解決できる、使いやすい魔法だ。
【ユニークスキル】の関係上、【錬金術】は習得しており初期の基礎スキル【錬成】から上位の【錬成術】、その上位【錬金術】をLv.6で習得している。
得意なのは鉱物の鑑定、蟲限定だが生物の解明と改造。
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