タイトル『re:vision』
━━それは並行世界の物語、外伝ならぬ異伝━━
━━彼という特異点の未来を選択する物語━━
〝始まりは、一冊の本だった〟
単なる都市伝説と語られた【神の本】の話。
夢の中で、十字の影のある時計塔の下に一冊の本が落ちている。
その本を拾い、中の内容を読むと異能の力が手に入るという、それが本当なら、まるで夢のような都市伝説だ。
しかし、それは夢でも幻想でもなく、現実だった。
【神の本】を手にした者は異能を得て、更なる幻想を求めて【栞】を渇望する。
さながら、願えば望みを叶えてくれる流れ星のような。しかして、それは本当に願望を叶える天上の代物。
異能者となった人々は、異能を得て尚も夢と望みを求めて互いに争い会う。
誰もが一度は夢見たこと、それを現実にできるのが【栞】なのだから。
※※※
この物語の主人公となる彼の名は王咬蓮花(オウガミ・レンゲ)。最愛の人を蘇らせる為だけに、無謀な挑戦を続ける愚者だ。
戦いを忌避しながら戦いを求め、人を殺す事を嫌いながら殺し合いを望み、最強とも言える異能(ちから)を持っているが故に、彼は不敗伝説を築き上げる。
たった一人で孤独に戦い、【栞】を求めて戦い続ける。叶えられるかどうかも分からない事を求めて、複数の【栞】を得るという無謀で残酷な事だと理解していながらも、彼は戦い続けている。
彼に救いはあるのだろうか。彼に安らぎはあるのだろうか。自らを慰める事もせず、自らを痛み続けて、最も楽になれる方法も取ることが出来ない。
彼にとってこの世は地獄も同然だった。
壊れかけの身体とひび割れた心の穴を埋めるように願望と殺意が塗り固めて、彼は怪物となる事を選んだ。
戦い続ける彼に残されたものは、最愛の人を守れなかった忌々しい異能(ちから)だけだった。
いや、彼は最愛の人を失ったが、頼れる仲間がいた。
それさえも彼は捨てたのだ。独りで孤独に戦い続ける事を、殺戮し続ける事を選んだのだ。
〝異能〟という力は、【栞】という存在は、彼を苦しめる荊にして鎖だ。
最愛の人と、もう一度会えるのなら、その可能性があり自分には可能性を掴む力があるのなら。
せめて、彼女がいない世界で生きる理由となれるのならば──────「僕は他者を喰らう狼となろう」
彼に救いは、安らぎはあるのか。
その未来には、彼にとって幸福な人生があるのか。
全ては、彼の〝選択〟によって決まる。
※※※
【神の欠片】を得る為に異能者と殺し合う人生を歩む少年、王咬蓮花。
普段は高校生として学校に通い、学生として生活している。
しかし、彼の本性は己の願望を叶える為に〝異能者狩り〟の戦いを続ける異能者だった。
己の願望の為に、異能者を殺し続ける少年は、殺戮を───否、異能者との殺し合いを楽しむ。
その戦い方は、まるで死に場所を追い求めているかのようだった‥‥‥‥。
これは、たった一人の愛していた存在を失い、その人を取り戻す為に戦い続ける孤独な愚者の物語。
一人の少年の、未来を選択する物語。
※『re:start』と同じく異能者が存在する並行世界。こちらの世界では【栞】を持った異能者はおらず、しかし強力な異能を持った人々がそれぞれで組織を組んで、【栞】を巡って日々、争っている。
※『re:start』との相違点は戦争時のルールが無い事。一目の無い場所を選んで殺し合い、一方が降参か全滅するまで、戦争を続ける。ルールと言えるものは、非戦闘者は襲わないという、暗黙のルールのみ。
〈主人公〉
名前:王咬蓮花
性別:男性 年齢:18歳
特徴:癖っ毛の目立つ茶髪に若干青に近い黒目の少年。穏やかな、まるで猫のような愛嬌のある顔立ち。しかし戦闘となると獲物を見定める鋭い瞳の狼のような獰猛な顔付きになる。
概要:本作の主人公にして、異能者の中でも特殊な【特異点】と呼ばれる存在。
高校三年の少年として普段は生活している。しかし、日常の裏側では異能者と日々殺し合っている。
穏やかで優しい性格だが、敵対する存在には容赦ない。
【栞】を求めて異能者を殺すが、殺人を忌避する心を持っている。だが、同時に嫌っている戦い、殺し合いを快楽として楽しむ異常な精神を持っている。
【神の本】により手に入れた異能は【独裁者】。
自らを起点にした一定の空間を把握し、更に空間に干渉する事で空中に足場をつくれる。
空間そのものを支配する異能。
蓮花は〝空間掌握〟と呼び、明確なイメージを持たせる為に技名などを決めて戦う。
そして、彼には|もう一つの(・・・・・)異能がある。
本来なら有り得ない方法により手に入れた異能は【恐乖狼】。
全長三メートル(尻尾を含めた)程の巨大な人型の灰色の狼に変身する異能。
容姿は顔全体を覆う銀色の仮面と、全身に傷痕のように刻まれた赤黒い線状の模様があり、枷にも見える籠手と脚甲を身に付けた姿をしている。
音速に匹敵する程の速さで移動する身体能力、鉄をバターのように切り裂く強靭な爪、易々と岩を砕く膂力。
そして、自らの血液を操作する能力を持っている。
異能を二つ持っている、それこそが彼が【特異点】と呼ばれる所以であり、彼が異能者狩りをする理由の一端を担うものでもある。
天涯孤独の身であり、赤ん坊の頃に親に捨てられて孤児となり、施設に引き取られた。
女の子のような容姿だった為、女の子と間違えられて〝蓮花〟という名前が付けられた経緯を持つ。
幼い頃から警戒心が高く、赤ん坊の頃から世話をしていた若い女性職員以外には全く心を開かなかった。
しかし、とある女の子‥‥‥七瀬葵(ナナセ・アオイ)と出会った事で、他人とも接するようになり、徐々に冷たい心を溶かしていった。
小学五年の時に異能を得て、同時期に異能を得た葵と共に中学入学と共に施設を飛び出し、子供達を保護する事も目的とした異能者の組織【天柳院】に入った。
中学三年の夏休みのある時、他異能者の組織との抗争状態に陥り、戦力不足から蓮花は前線に参加する。
しかし、敵対組織の目的は治癒などの回復系の異能を持つ非戦闘民を標的とした本陣の奇襲だった。
自らの空間を操る異能【独裁者】を駆使して前線から駆け付けた時には、既に本陣は敵組織の刺客に襲撃されていた。護衛として残してきた戦闘系の異能者は、複数名の敵組織の異能者を相手にしている為、身動きは取れずにいた。
その為、残りの異能者を倒していった蓮花だが、既に葵は敵組織の異能者の手にかけられていた。
傷付き、大量の血の海に倒れ伏す葵の姿を見た蓮花は暴走し、敵組織の異能者を空間ごと圧縮して瞬殺。その後も敵組織の異能者を、普段の蓮花では考えられない程に狂暴な戦い方で殺していった。
全てを終えた後には、葵は満身創痍の状態で、一目で異能によっても助からないと理解できる程だった。
ただ一人の家族であり、ただ一人の愛する女の子を、葵が死ぬなら自分もと、蓮花は葵の後を追うつもりだった。しかし、それは葵の異能‥‥‥【灯火ノ鍵】による〝心理掌握〟によって防がれた。
葵は、同じく愛しく想う蓮花の為に、二つの封印を施した。一つ目は自殺の封印。もし自殺しようとした場合、蓮花にとっての幸福の想い出を忘却していくように、呪いをかけた。二つ目は自傷行為の禁止。この場合も、蓮花にとって幸福な想い出を自傷するごとに忘却していくように呪いをかけた。
最後は‥‥‥葵からの〝お願い〟だった。
「生きて‥‥‥どうか私を、忘れないで‥‥‥‥愛してるわ、蓮花‥‥‥私の愛しい人‥‥‥」
それが、葵の最後の言葉だった。
葵が死した後、不思議な、いっそ不気味な現象が起こった。死した葵の身体から、光輝く女が出て来て、それは本に形を変えて蓮花の中に入っていったのだ。
──────その瞬間‥‥‥【特異点】は生まれた。
最愛の存在が、葵が死んで魂が壊れかけていた蓮花の穴を埋めるように、蓮花の感情を具現化するように、蓮花の中で新たな異能が発現した。
蓮花の肉体は音を立てて変異していき、やがて頭が仮面に覆われた、巨大な人型の狼──〝人狼〟へと変わった。
その時、〝人狼〟は静かに葵の遺体をじっと見つめて、敵対組織との最前線へと駆けていった。
それからの出来事は‥‥‥悲惨であった。
純粋な身体能力で敵組織の異能者を蹂躙し、その肉体が原型を留めるギリギリまで破壊し、人狼となった蓮花は敵組織の異能者を殺戮した。
戦場となった場所には死体の腐臭が漂い、醜悪な程に破壊された死体の数々が戦場を埋めつくし、この世に地獄が顕現したかのようなおぞましい光景が広がっていた。
地の醜悪な光景に関係なく、夜空では月が銀色に輝き、星々が瞬いている。
赤黒い地獄の中、ただ一人の返り血と肉片に覆われた人狼を月光が照らしている。
真っ赤に染まった仮面の一部が、月光を反射して銀色に輝いた。夜空を見上げて咆哮するような仕草で佇む人狼は‥‥‥‥ただ静かに、その場に立っていた。
敵組織との抗争から暫くして────蓮花は【天柳院】を抜けた。葵の埋葬を済ませてから、遺骨の一部を片身として持ち、彼は呼び止める仲間の声を無視して目を背け、三年間、苦楽を共にした仲間を捨てて去っていった。
【天柳院】のリーダーを務める、天道嘉(テンドウ・ヨシミ)は去って行く蓮花の背中をじっと見ながら、その身体を震わせていた。
悲しむように、あるいは恐怖するように。
蓮花の暗い闇のその瞳の奥に垣間見た、ひび割れて壊れかけた身体の隙間に埋まるようにある、黒い人狼の影。
それがどういう意味かも分からずとも、その本能に刻まれた生存本能に従うように、天道嘉は震える身体を抱き締めて、しかし去り行く蓮花の背中が消えるまで見つめ続けた‥‥‥。
※※※
彼には家族同然の存在がいた。彼が唯一気を許し、心を開いた女の子。
彼に人の温もりを、愛情を教えた女の子。
彼が人生で初めて恋をした、たった一人の女の子。
しかし、その女の子はもういない。
彼が‥‥‥‥僕が守れなかったから。彼女は死んでしまった。
────ナラバ、蘇ラセレバイイ。
心の内から聞こえる声に、僕は頷いた。
そうだ。死んでしまったなら蘇らせればいい。
その為に、僕は【栞】を手に入れる。
────殺セ、殺セ、殺セ。己ノ願望ヲ叶エル為ニ。
ああ、分かっている。【栞】を手に入れるには、異能者を殺すしかない。
だから、僕は決めたんだ。
「葵の為なら、僕は他者を喰らう」
────奪エ
その命を、
────奪エ
その魂を 、
────奪エ
その未来を、
────奪エ。
ああ‥‥‥‥そうだ‥‥‥‥奪え。
例え、彼女に望まれぬ事だとしても。
「‥‥‥‥‥‥‥僕は、他者を喰らってでも葵を蘇らせる。」
そして取り戻すんだ。幸せだったあの日々を。
─────こうして、彼の愚者の、哀れな殺戮の人生が始まった。
彼に救いはあるのか、彼に安らぎはあるのか。
その未来には、彼にとって幸福な人生があるのか。
全ては、彼の〝選択〟によって決まる。
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