タイトル『終わらない地獄で死にたい僕は生き続ける』

世界中で密かに囁かれている異能者の存在。

僕の家族は、僕の友達は、僕の通う学校は、その異能者によって滅茶苦茶に壊された。

生きる理由を見失い、生きたいと思う気力も失った。

もう、僕だけが生きているという現実に耐えられない。

山奥の湖畔、そこは家族や友達との思い出の場所。

自殺するなら、そこが良かった。

僕は湖の中に入った。服が水を吸って重りとなり、僕の体はゆっくりと湖の底へと落ちていく。

不思議と苦しみは無かった。

水面の光が遠退いて、闇が近づいて行く度に、僕の心は安らぐように凪いで沈んでいく。

なぜだか、悲しげな顔をした家族や友達の影が、僕の視界にちらついた。

しかし、僕にはそれが気にならなかった。

それどころか僕は喜びさえあった。

だって、死んでいった皆に会えるのだから。


だが、僕は死ねなかった。なぜか、死ぬ事が出来なかった。

僕は自分の体が別の何かになっている事に気がついた。

既視感が僕の頭を過る。

現実にはあり得ない事の筈なのに、僕の心はすんなりとそれを受け入れていた。


僕の体は────〝水〟になっていた。


異能者になった事を理解して、僕は発狂して山奥の湖畔で暴れまわった。

正気に戻った頃、湖の湖畔は小さな崖が連なる穴のようになっていて、周辺の植物を巻き込んで、杯のような岩盤と崖から木々が生えた崖になっていた。

かつての湖と湖畔の姿は影もなく、幻想的な光景が広がる。

僕はその光景を見て、穴の底でただただ涙を流した。

僕は、僕自身の手で思い出を壊した。

あの異能者と同じように、僕の手で・・・・。


僕はせめてこの環境に誰も近付けないように、異能で水により木々を操作し、この環境を覆うように植物のドームを作った。

そして、異能で周辺の動物を取り込み、新たな異能の生命として作り直した。


僕は異能の獣達と植物にこの環境を守護させて、一人で穴の底で水にまみれて眠り続けた。


※※※


二年の月日が経った頃、この環境に誰かが入ってきた。

異能の獣と植物をものともせず、その異能者達はやってきた。

男と女の二人組だった。

彼らは無遠慮に僕の寝床にやってきた。

煩わしい、腹立たしい、憎々しい。

僕の安らぎを邪魔する愚か者共を潰そうと、僕は眠りから目覚めた。

この環境を壊したくないから、男女の二人組を水で包み込み、植物ドームの外に放り出した。

そして二人を僕の水で呑み込もうと戦った。

思いの外苦戦したが、それももう終わり。

僕は安らぎを邪魔した彼らを呑み込もうとして・・・雷撃に貫かれて気絶した。


※※※


それから紆余曲折あって、今の僕は異能者を取り締まる特務機関『黄昏』の一員となった。

そして僕は知る。僕から日常を奪い去った異能者が生きている事を。

僕は復讐する事を心に決めた。

しかし、奴を潰すには僕は実績が足りないらしい。

ならば任務をクリアして実績を積もう。

そして、奴を殺す。

それだけが生きる目的とは言わないが、死ねない身体になった僕にとって、奴を殺す事で安らぎの眠りにつく事だけが、僕の生きる理由となった。


これが、やがて『水篝の蛟』と呼ばれる異能者の始まりの物語。



〈主人公〉

名前:日芽森 祈李ひがもり・いのり

性別:男 年齢:16歳

所属:秘匿異能者対策特務機関『黄昏』日本支部


特徴:腰より長い水晶のような水色の髪、紺碧の瞳の少女のような顔立ちをした少年。

普段は人間態として活動しているが、本来の異能者としての姿は半透明の身体で、髪も水のように流体になる。


概要:二年前、とある異能者によって学校を襲撃され、大切な友達を全員殺され、自分だけが生き残った。

しかも、同一人物によって家族も殺されていた。

異能者の目的は不明だが、少なくとも世界で最も危険な異能者としてブラックリストに載っている人物。

生きる目的を見失い、自暴自棄になっていた彼は、家族と友人達との思い出の湖畔に訪れ、溺死による自殺、水死を謀った。

だが、その時に世界に対する絶望をトリガーに異能者に覚醒した。

目覚めた異能は水に関するもの。

自身の身体は流体とし、また周辺の水も操れる。

自らの身体の水を生物に流し込むと、その生物を支配下に置ける。しかし、人間は不可能に近い。

また凍ったとしても、その氷ごと流体のような氷として操れる。

蒸発して気体となっても質量が無くなったこと以外にデメリットもなく、そのまま気体も操れる。

また、自らの体内に大量の液体を収納でき、現状限界は無いとされている。

弱点として電撃に弱いが、その場合は純水を生成する事で防げる。

例え身体が爆発四散したとしても、液体さえあれば復活できるし、水さえあれば生きていける。

無敵とも言える身体であり、不老不死に近い異能者。

死ぬ事に固執しているが死ねないので、眠る事を唯一の安らぎとしている。

また、記憶力に優れており、眠っている間は家族が友人達が生きていたらという、妄想のような夢を見たり、幸せだった思い出を振り替えっている。

生きる事に対して執着していない。

コミュニケーション能力はある方だが、基本的に寡黙で喋り方は途切れ途切れ。たまに片言になったりする。

水だけで生きていけるので食欲は無いに等しいが、甘味だけはかなりの食欲を発揮する。

特にティラミスが大好物。

同じような理由で性欲も無い。しかし性別は男性であるので人間態も男性の身体。その気になれば女性の身体になれるが、女性陣に何をされるのか恐怖心しかないので理由がない限り絶対に女性の身体にならない。

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