タイトル『日は沈み、復讐の炎は静かに燃ゆる』


あらすじ:

「なぜだ………なぜアリシアを殺した!?」

自分が世界で一番愛している。自分の一族がどんな秘密を持っているのかを話した。それでも彼女は、俺と一生を共にすると言ってくれた。

「例え、この腕に子を抱く事ができなくても。同じ時を歩めなくても。私は、あなたと一生を添い遂げます。あなたを、世界で一番愛し続けます」

その言葉に、俺がどれだけ救われたか。その献身に、覚悟に、どれだけ俺は救われたか。

そのアリシアを、お前らは殺した。身勝手な理由で、己の欲望のままに、俺から愛する者を奪った。

―――――――復讐だ。

「例え、お前らを殺す事で世界が滅びようとも。俺は、お前らを決して許しはしない」

これは、ただ一人の優しい男の。されど、愛する者を奪われた悲しみと絶望の果てに、その身を焦がす程の憎悪を抱いた男の。

かつての仲間を殺していく、復讐の物語。



アリシアは聖剣士だった。そして、俺は癒術師だった。俺と彼女は二人で一人、最高のパートナーだった。

冒険者となってから出会い、パーティを組んでから、俺達は冒険者として高みへと昇り詰めていった。

そんな時、俺達を勧誘した四人組のパーティがいた。

剣聖のオリバー、天魔師のアベル、鬼拳士のユリ、そして―――――星錬術士レリア。

彼らは生ける災禍【邪獣ゴート】の討伐を任された、各国でも有数の実力者のパーティだった。

だが、彼の災禍を討伐するには、最低でも後二人は必要とされた。そこで、俺とアリシアに白羽の矢が立ったという訳だ。

俺達は最高のパーティだった。剣聖のオリバーは剣の腕前よりも盾の扱いに長けた騎士で、パーティの最高の壁役だった。

天魔師のアベルは、後衛にて火力の高い魔術を数多く習得していて、パーティでの主戦力だった。

鬼拳士のユリは、中衛を担って敵の攪乱を得意とし、更には並外れた索敵能力を生かして、パーティの斥候を担ってくれた。

最後に、星錬術師レリア―――彼女こそ、パーティでも最強の存在だった。特殊な術を使い、様々な鉱石にルーン文字という独自の術式を用いて、パーティの要を担っていた。

俺は癒術士としての能力を活かし、パーティの回復役だった。アリシアは、オリバー、ユリと並んでパーティの前衛を担った。

多くの苦難を越えて、苦楽を共にした俺達は、間違いなく最高のパーティだった。

旅の果て、遂に【邪獣ゴート】を討伐し、俺はアリシアと穏やかな日々を送ろうと、幸せな日々を夢見ていた。

長い旅を終えて、俺達は帰還する。その時だった。

レリアが、アリシアを殺した。星錬術の中でも、神をも呪うと謳われた、呪殺の術を使われて………。それは、俺の手を持ってしても、癒せないものだった。

歪んだ笑みを浮かべて、俺の方を恍惚とした目で見ていたレリアは、ただ一言呟いたのだ。「ああ、やっと、やっと………この手で殺す事ができた」

「何を………何を言ってるんだ?」

オリバーが、その大剣で俺の背中を貫き、地面に縫い留めた。アベルが、魔術を唱えて俺を黒鉄の茨で拘束した。ユリが、静かに首を覗いた俺の四肢の骨を砕いた。

痛みには慣れていた。だから、痛みに叫ぶ事は無かった。ただ、ただ、俺は信じられないという目でアリシアを見つめるばかりで。

俺を見る彼らの眼が、どこか冷ややかで無機質なものだったのを、俺は暫くしてから気が付いた。

「なぜだ………なぜアリシアを殺した!?」

地面に横たわり、大量の血を流しているアリシア。俺は、漸く頭が現実に追いついて………身の内から込み上げる様々な感情を吐き出すように、喉を震わせて叫んだ。

涙が流れたのを感じた。人を、睨むだけで殺せるならばと、どれだけ神に願っただろう。いや、それよりも―――――アリシアを癒す。ただ、ただ、全力をかけてアリシアを癒す。

彼女を腕に抱けない事が、心臓を握りつぶされるよりも苦しかった。生きたまま内臓を掻き混ぜられた時よりも、痛かった。

繰り返される自問自答。懸命にアリシアを癒そうと癒術を行使する。その様を、たった一人を覗いた全員が、黙って見ていた。

治らない。血が、止まらない。目が、忌々しい目が告げていた。アリシアの身体に、アリシアの魂は、もう無い事を。

アリシアは……この世でたった一人の、愛した彼女は………もう、死んだのだ。

「――――――――嘘だ」

その時、俺は初めて絶望というものを知った。

アリシアが死んだ。その事実を理解した事で、俺は絶望に打ちひしがれるよりも真っ先に――――――

「レリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

愛する者を奪った者への、憤怒と憎悪と殺意を燃やし、我が身を縛る拘束を破ろうと、癒術を働かせて身体を引きちぎった。

オリバーとアベルとユリが動く。しかし、彼らが俺に近づけよう筈がなかった。

何故か、レリアが彼らの行動を邪魔したのだ。訝しげにレリアを見る彼らは、レリアが浮かべた表情を見て、動きを止めた。

レリアが静かに俺に歩み寄る。俺は、獣の如く唸り声を上げて、怨嗟の声を上げながらレリアに向けて拳を振るった。

そして―――――――俺の身体は空中で静止した。

直ぐに理解できた。これは、レリアの星錬術なのだと。

レリアが俺に近づいてくる。動けない身体を、動かそうと俺は身体を震わせる。血が沸騰する、筋線維が千切れる、骨が砕ける、内臓が潰れる。

知った事か、俺は我が身を癒しながらレリアを殺そうと藻掻く。

そんな俺を、レリアは優しく抱きしめた。

「―――――?」

意味が分からなかった。なぜ、レリアは俺を抱きしめたのか。混乱から、俺は藻掻く身体を静止させてしまう。

そこで理解しておけばよかった。これが、レリアに罠なのだと。

身体が、無数の透明な鎖で拘束される。鎖の一つ一つに、夥しい数の見た事もない術式が刻まれていて、それらは黄金の輝きを放っていた。

その鎖は、俺という存在の全てを拘束した。指一本も動かせず、連続で行使した癒術により全開の状態で、俺は拘束されていた。

「ノア……私はずっとこの日を待ちわびていた。あなたを―――――我が物にできる、この時を」

こいつは、この女は、一体なにを言っている?

「ずっと、ずっと、私はあなたが欲しかった。でも、あなたの近くには必ずアリシアがいた」

上気した頬、潤んだ瞳、恍惚とした笑み。気持ち悪いくらいの何かを、レリアは俺に向けていた。

「アリシアが邪魔だった。彼女が邪魔だった。だから、私はアリシアを殺したの。単純な理由でしょう?」

再び、レリアは俺の身体を抱きしめた。

「ああ、ノア、ノア、ノア………!こうして、あなたを抱きしめる事ができるこの時を、私はいつも夢見ていたのよ……?」

――――――気持ち悪い。

「ああ、ノア、私は――」

やめろ。

「あなたを――――」

その先を口にするな。

「―――――〝愛しています〟」

それから、何が起こったのか。俺は覚えていない。ただ、天変地異でも起こったのか。抉れ、罅割れ、陥没した大地に、薙ぎ倒された木々と、自らを縛っていた砕けた鎖が落ちているだけで。

そこに、アリシアを殺した女と、俺達を裏切った者達の姿はなく。なぜか、アリシアの遺体まで、姿を消していた。

酷い頭痛と、耳鳴りがする。しかし、この手には何かを裂いたかのような不思議な感触があって―――――。

分からない。あの瞬間から記憶が途切れている。あまりの衝撃に、精神が耐えられなかったのだろう。俺は、そう自分を無理やり納得させた。

そんな事はどうでもいい。そうだ。あいつらは、俺達を裏切った。あの女は―――――レリアは俺から愛する者を奪った。

レリアは――――アリシアを、殺した。

その事実があればいい。あの光景が記憶に刻まれているなら、それだけでいい。

それだけで、負の感情を燃え上がらせる事には、十分だ。

復讐の炎を燃え上がらせるには、十分だ。

「必ず、俺はお前らを殺してやる」

例え、それが間違いだとしても。愛する者が望まない事だとしても。

……………世界が滅びる要因となろうとも。

「俺は、お前たちに復讐してやる」

復讐という名の狂気が、燃え上がる俺の身体を、静かに抱きしめているような気がした。




〈主人公〉

名前:ノア・オルクス

種族:人間

性別:男 年齢:24歳

特徴:漆黒の髪、黄昏色の瞳の青年。赤黒く染まった癒術士のローブに身を包み、その腰に異様な刀剣を佩いている。

概要:愛する者をかつての仲間に奪われて、復讐を決意した癒術士の青年。優しく穏やかな気質は変わっていないが、復讐の事となると豹変し、無慈悲で冷徹な復讐の鬼と化す。

復讐心に取りつかれており、その身に狂気を宿している。復讐のためなら、周りの人間がどうなろうが構わないとは思っていないが、たった一人の女を殺すためなら、それも構わないとも考えている。

癒術士という、あらゆる全てを〝癒す〟事に特化した能力を持っている特殊な術士。己の肉体を癒しながら鍛える事で、強靭な肉体と、過去の経験から様々な毒に耐性を獲得している。

近接戦闘もこなせて、剣術をアリシア、オリバーから。格闘術はユリから教わっていて、それなりに前衛として戦える技術を持っている。

【邪獣ゴート】を討伐した後、帰還する時にアリシアを殺され、レリアに〝愛している〟と言われてからの記憶がなく、なぜ天変地異が起きたような惨状になっていたのか、アリシアの遺体はどこへ消えたのか、それらは一切が謎である。しかし、彼の中にあるのは復讐を終わらせてアリシアを埋葬し、自らも死ぬ事。それ以外への興味は殆ど失っている。

【邪獣ゴート】の残滓を浴びて、凶悪な魔獣と化した魔物を狩り、その血を全身に浴びてしまい、純白のローブが赤黒く染まってしまっている。防具としての性能は向上しているが、ローブの色が赤黒く染まった事を少しばかり後悔している。

腰の異様な刀剣は、導かれるように辿り着いた遺跡の奥にて入手したもの(絶望と復讐心に取りつかれたノアは、忌避していた癒術の禁呪を行使して、遺跡の奥に生息していた怪物を爆発四散させる。異様な刀剣は、その怪物の体内から入手したものである。)

その刀剣は、かつて神をも超える武具を生み出さんという野望を抱いた一人の鍛冶師によって創られた、人造の神器に等しい武具。

【七色の至極】が一振り、【紅蓮】の銘を冠する刀剣だった。

【紅蓮】は、神代の時代に使われていた【魔法】を再現する事ができる魔道具でもある。そして、その能力は【魔法】の〝過程を重視する〟という一点に特化している。

簡単に言ってしまえば、【紅蓮】は魔力をそのまま【魔法】として扱う事ができる魔道具であり武具、魔器なのである。

担い手の想像イメージによって、様々な現象を【魔法】として再現できるのだ。

ノアは、【紅蓮】由来の赤黒い魔力を、極大の斬撃にしたり、単なる棘や魔力の波濤として扱っている。

【七色の至極】には、それぞれ意思が宿っているののだが、【紅蓮】は無口で、あまり自己主張せず、主の望むままに振るわれる事を是としている。ノアは感じ取った意思から、【紅蓮】を面倒くさがりな性格だと把握した。


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