EP97.開始直前姫との文化祭

「…なんで俺がやるんだ?」

「仕方がないだろう。お前と鬼辻おにつじしかとどかないんだから」


 さてさて、のんびりと過ごしいたら何も変化が起きることも無く、早くも文化祭前日になったわけだが。

 俺、江波戸蓮えばとれんは最後の大作業をしている。


 …いや、別に看板固定するだけだけどさ。

 最後の最後である仕事を、クラスで1番背が高いからという理由で黒神零くろかみれいにやらされた。


「…私が一番のハズだ、なぜ貴様が我より背が高い…甚だ図々しいヤツめ…」


 一応二人でつけるため、見えるように叫んだんだが…鬼辻ってやつが身長のことで睨んですげえ独特な恨み言を行ってくる。

 …お前も充分高いだろと殴られても知らんぞ。


 まあ、無視だ無視。


「よし、完成…!」


 看板をつけた俺は、改めて教室全体を見渡した。


 家庭科室をなんとか確保し、ファミレスとかじゃなくて普通のレストランのようなオシャレさを重点的に再現した俺たちのクラス。


 淡い黄緑のカーテンを切り取って敷いたテーブルに、偽物の花で作った花束。

 さすがにアレンジほぼ不可能で、カーテンを敷いただけの椅子で作った席。

 あ、ちゃんとカーテンはちゃんと捨てる予定のやつだぞ…たまたま捕まえることが出来たんだが、運が良かった。


 そして許可をとり、冬用カーテンを全閉…わざわざ天井にランタンをつけて、薄暗い雰囲気にした。

 …てか、これ全部生徒の持参したものなんだけどよ、すげえよな…金持ち羨ましい。


 あとは適当に予約表を設置、壁に落ち着いた雰囲気の出そうな飾りをつけて完成…って感じだ。


「…無駄にクオリティたけえな。それもこれで予算使ったのが飾りくらいっていう」

「そうだな。しかしまあ、ここは結構大きめの私立だし金持ちもいるんだろう」


 そうだなあ…白河小夜しらかわさよもEP57の時とか、父親の雰囲気とか金持ちっぽかったしなあ…

 え?母親はって?大黒柱ではあるらしいけど性格が台無しすぎるんだよなあ…まあ失礼か。


「…これに合う料理ができるか、今から心配だな」

「お前の料理の腕は知らないが、期待しとくよ」


 自信ないのに追い討ちすんなよ。






 次の日、とうとう文化祭当日だ。

 この学校の文化祭は出店が二日間行われ、三日目の午前中に片付け兼、売上や舞台評価の結果発表、最後の挨拶っていう流れだ。

 正直三日間って言っていいのか悩むが、後夜祭の関係で三日間とされている。


 俺と小夜は午前にシフト、午後に一緒に回るというスケジュールだ。

 学校で小夜としばらく隣にいるのは、席を例外だとすると初めてなので今から緊張している。


「頑張りましょうね!蓮さん!」

「おう」


 調理のために二つほど机を隔離して準備しているんだが、小夜は意気揚々…いや、おそらく照れ隠しといった感じか?

 何故かもう顔が真っ赤だ…早すぎね?逆に落ち着いてきたよ。


 準備の時間が来て、俺らはブレザーを脱いで代わりに制服の上から黒無地のエプロンと三角巾をつけた。


 今回はレストランという雰囲気に則り、校則の裏をかいて女子もスラックスだ。

 …逆に、なんで全員スラックスを一着必ず持っておくという校則があるのだろうか…


 小夜を見ると、髪を纏めているのはいつもの事ではあるが、いつもと違ってボーイッシュな格好に心臓が跳ねる。

 何故か他の仲間たちから賞賛されている…さすが姫様。


「似合ってるな」

「ひゃえ!?あ、ありがとうございます…」


 さらに赤みが増す顔…緊張しすぎじゃないか?


「蓮さんも、似合ってますよ?」


 ぐはあっ!!

 公衆の前で何をっ…くっ、人のことをいえた口ではなかったらしい…


「…さんきゅ」

「──準備はできたみたいだな。それなら先に料理しておこう」


 メニューは精々3種類だ、それも生物禁止の値段安めだからクオリティは雰囲気に比べて劣る。

 しかし、いっては置けないので代表の鬼辻の言う通り、俺たちは作業に取り掛かった。







「すげえ!白河さんはええ!」

「料理も完璧とかさすが姫様!」


 俺と小夜は一緒に野菜を刻んでいたんだが、小夜の速さに男子たちは釘付けだ…いや自分らも作業しろよ。

 ちなみに、一応俺も小夜と同じくらいの速さで切ってはいるが全く気づかれていない!トホホ。


「先生がいるので…私はそこまでですよ」

「先生いるんだ!どんな人?」


 女性だと思われているのか男子たちに興味津々に聞かれて、小夜がこちらを見てきた。

 別にどっちでもいいので、口パクで「名前は言うな」とだけ言った。

 小夜は頷き、作業しながら口を開く。


「とても優しい人です。いつも私を気にかけてくれて、料理もプロレベルです」

 

 さすがに盛りすぎじゃね?…まあ別にいいか。


「そうなんだ!白河さんと同じで素敵な人そうだね!」

「ええ、は私の尊敬する人です」


 ………しばらく、沈黙が続く。

 …いやそりゃそうだろう、''彼''なんて言ったんだから…はあ。


「「「……彼?」」」

「え?はい。男の人ですよ?」


 小夜のそのセリフでわなわなと震え出す男共…おい鬼辻、今気づいたけどお前も働けよ!?


「…どういう関係?」

「どういう関係って言っても…今はまだ・・友達?親友?といった関係ですね。」

「…同年代?」

「同い年ですよ?」


 確かに名前は言うなと口パクしたが、さすがに言い過ぎだぞ小夜!?


「…まだ・・付き合ってませんよ?」


 まだってなんだよまだって…いや男共、それで安心しきってんじゃねえよ…

 いや、仕事に戻るんだしいいのか。


 その時、放送で文化祭開始が宣言された。

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