EP98.開始される姫との文化祭

「''只今から、〇〇学園文化祭を、開始致します''」

「らしいぞ。白河のこともいいが、仕事しろ」


 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。

 さてさて、待ちに待った文化祭が始まったわけだが…なんで俺、男共に睨まれてんだろうな。

 あ、作業を共にするため今は予め叫んでいた。


「…江波戸。姫様に興味無さすぎないか?」

「そうだそうだー!」

「身の程も知らぬやつが…甚だ図々しい…」


 とりあえず鬼辻おにつじ、それ口癖になってるみたいだが治した方がいいぞ。

 で、興味だって…?この世の全てよりもあるね!はっ!


 まあ、んなこたあ言えるわけないので、俺はため息を吐いただけだった。

 それでも男共は睨んでくるが、直に作業に戻っていった。


「………」


 …なんか白河小夜しらかわさよがチラチラとこちらをみて、不安そうにしてるんだけど…


「(…はあ。後夜祭誘ったろ…)」

「っ!?はっはい!そうですね…」


 全く…男共に堂々と言えるわけが無いだろう。

 だから顔が真っ赤になるのは自業自得だぞ、小夜。






「やべえ、わりと忙しいぞ!?」

「はっはい!!」


 何故か知らんが…いや多分小夜が作ったという噂が広がってるからだが、客の数が尋常じゃない。

 開始早々客が押し寄せてきたので、現在急いで作っている途中だ…えーっと?オムライスセット3つにスパゲティセット2つに…忙しい!


 鬼辻や他の男共、ついでに女共も急いで切って湯掻いてを繰り返している。

 小夜の力すごすぎねえか…?これ、多分午後になると過疎るやつだろ?


 ただ幸いなのが、人の滞在が無駄に長い。

 そのお陰でクレームは凄いが、死にそうな程ではない。

 が…


「白河さん!湯掻くのってこれくらい!?」

「えーっと…」

「白河さん!にんじ切ったけどこんな感じ?」

「え?あの…」

「湯掻くのはあと1、2分!!あともうちょっと混ぜた方がいい!にんじんはそれでいいからそのザルに入れてくれ!」

「わっわかった!」

「お、おう!」


 数人だけ、料理スキルが足りない奴がいるのが難点だ…できない訳では無いが、少し遅れてる感じ。


 その場合全部小夜に回ってくるから、小夜が追いついていない…そのため、余裕がある俺が指示を出すようになっていた。


「よし、あとは玉ねぎだ。できたか?」

「おう!よいしょ!」

「じゃあ鍋に入れるぞ!」


 幸い、代表の鬼辻もかなり腕はあるようで指示を出していた…しかも仕事が速い。


「…ありがとうございます…」

「大丈夫だ。とりあえず自分の作業をしててくれ」

「はい…」


 ふぅ…え?追加の注文?…はあ。

 俺たちは忙しい中、作業を一生懸命進めた。








「疲れた…」

「お疲れ様でした…」


 昼過ぎ、一日目の仕事が終わったので俺たちは家庭科室から出た。


 あの後、クレームが多すぎたのでお1人30分までの制限がかけられ、注文スピードがさらに上がった。

 さすがにしんどい…見れば、鬼辻らもヘトヘトであった。


「はぁ…はぁ…白河さん…私と…文化祭回ってくれませんか…」

「「…ふぅ、いやいや俺と!頼む!」」

「いえ、遠慮しておきます」


 疲れながらアプローチする男共を、小夜はバッサリ切ってしまう。

 俺と行くんだぞ!という優越感があり、そしてあまりにもバッサリなので苦笑してしまう。


「「なぜだぁ…」」

「まあ、落ち着いて回りたいんだろ。しつこい男は嫌われるぜ?」

「「「「黙れ!!」」」」


 …これって茶化したからか、バレてるからかどっちでキレられてるんだ?

 茶化したからであって欲しいな…それに、もしバレてても更にアプローチしそうだから怖い…


「白河さん…私でもダメだと言うのか…」


 そういえば鬼辻がアプローチする回数って割と少なかったな…少しナルシストな部分があるし、自分なら行けると思ったんだろうか?

 …まあ、顔は渋さがあってかっこいいとは思うけど…何もしてないのにその自信は傲慢だな。


「待っててくれよ白河さん…私は諦めないからな…」

「くっそー!またダメだったー!」


 そう言って泣きながら立ち去っていく鬼辻と男共…何ともまあ、女々しい奴らなんだろうか。


「…はあ、諦めてもらいたいものですね…」

「お疲れ様だな。じゃあ、行くか?」

「はいっ」


 満面の笑顔になる小夜を見て、俺は優越感に浸る。

 

 そして小夜が自然と俺の手を取って走り出し…いや待て待て、待ってくれ!

 もう誰も俺の事を見えてないだろうけどな!?さすがに手は、手は!?

 …ダメだ、ゴリラ握力が離してくれねえ!?


 …冷静になろう、とりあえず…

 駆け足で急ぐ小夜、どこか目的があるんだろうか?手を離して欲しい。

 通り過ぎていく男共は、全員が振り向いた…手を、離して欲しい…


 こちらを振り向いて、笑顔を向けてくる小夜。

 よし!このままでいっか!

 ちょろい俺であった。






「…いきなりここ来る?」

「なんとなく…来たかったので…」


 そういって足をガクブルと震わせている小夜…目の前にあるのは、先輩たちの出し物…「お化け屋敷」だ。

 おいおい、EP79の再来か?


「入ります…」

「100円です」


 思ったより安いな…それを聞いて、小夜はまさかの折半用の財布・・・・・・を取りだした。

 …え?それで払うの?


 手を繋いだままの俺が見えてないだろうと、小夜は財布から200円を取りだし無理やり女和の先輩に渡す。


 先輩は首を傾げて100円を摘んだが、阻止するべくに小夜は耳打ちをして先に進んだ。

 …その時の先輩の顔は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。








「…なんで入ったんだ?」

「うう…申し訳ありません…」


 初っ端から腰を抜かした小夜を、俺はジト目で見る。

 幸い遊園地の時より怖くはなかったので、ギリギリ立てるみたいだが…それでもキツイらしい。


 …はあ…俺はため息を吐いて、小夜の手を引っ張った。

 階段を降りて、4つの校舎の内側の中庭に来る。


 そこに設置されているベンチに小夜を座らせる。


「何か買ってくるから、待ってろ」


 そう言って、俺は走った。

 …なんか、懐かしい感じがするな、コレ。

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