EP95.誘いの後の姫との距離

 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。


 突然だがまず、白河小夜しらかわさよをジンクスがある禁断の後夜祭に誘う理由というのを説明しようと思う。

 その理由は、2つある。


 1つ目、小夜の反応を見て、ワンチャン行けるんじゃないか?と図々しくも思ってしまったから。


 最近、小夜に心を読まれてばっかりだったので、俺も小夜の顔を見てどう思っているか察する日々が続いた。

 そこで分かったのは、小夜は基本的に俺の事を優先してくれていること。

 そして、俺が礼を言うと、それが無愛想だったとしても頬を染めることがあるということ。


 …小夜のこと見なさすぎじゃないか?俺…と思ったが、小夜は他の男と俺とで確実に接し方が違ったんだ。

 もしかしたら、行けるんじゃないか…そう、本当に図々しくも思った。


 それで、小夜のことをさらに好きになってしまった。

 しかしだが、これが自意識過剰で告白したとして、失敗したら俺は立ち直れないかもしれない。


 しかし、ここで2つ目の理由、若林勇翔わかばやしゆうとに取られるかもしれない。

 これを想像してしまったこと。


 勇翔は小夜に片思いしているのは見てわかる。

 勇翔は本当に良い奴で、ハイスペックで…俺は勇翔の足元にも及ばない。


 だから、もし小夜が勇翔の事を好きになってイチャついていたら…俺は頭を掻きむしるほどに嫌だ。

 だけど告白する勇気が出ない…しかしどうすれば…


 1週間ほど悩んでいたんだが、ふと俺はこんなことを思い出した。

 EP71の時、魔女様が言った『自信持ちなさい?』という言葉。


 それを思い出した瞬間、力が湧いてきた。

 ''自信が無い''という言葉一つで、これまで…いや、今でも動けないでいるではないか、と。

 そう思った。


 だから、俺は奥歯を噛み締めて明日に小夜を後夜祭に誘おうと決意した。






 そして放課後。

 いつものように小夜と一緒に帰っているんだが、心臓がうるさすぎてたまらない。

 当然だ…後夜祭の誘いを承諾してくれたのだから!!


 …正直、去年小夜と会った頃にはこんなにも異性を好きになることは無いと思っていた。

 俺自身ひねくれていて、何もやる気が起きず、いつもの変わらない日常を望んでいたからだ。


 しかし、今はこれだ…去年の俺に「来年のお前はこんなにも女性を愛している!」と自慢したい。

 まだ付き合ってないけどな!!!


 小夜も俺からの誘いがあったからか、顔を赤くしたまま黙ってしまっている。

 しかし、距離は遠くなく…いや、それどころか下校なのにいつもしない手繋ぎまでしちゃっていたりする。

 ちなみ、心臓がうるさいのはもちろんこれも相まっている…


 話を戻すが、もし俺らが家で手繋ぎなんてしようものなら、互い顔を逸らしてしまったりする。

 しかし、今回は自然だ、自然…正直、かなり嬉しい。


 愛しい人と久しぶりに繋ぐ手は以前より暖かくて、柔らかくて…ずっと守りたくて、続いて欲しい心地良さがあった。


 あっという間にスーパーにつき、俺らはスーパーに入った。


「…今日のメニューはこれだ…」

「は、はいっ…」


 メモを取り出して小夜に見せると、小夜は声を裏返しながら覗き込んできた。

 近え…いや近えよ…

 しかし、小夜の顔がさらに真っ赤になっているのに気づくと、笑みが生まれた。


 少しだけ自信がついた気がする…今すぐにでも告白したい気分だ。

 しかし、もう後夜祭にするって決めたし、小夜も意味がわかってるだろうし心の準備が必要だろう。

 …ムードも大事だと思うし…


 だから、俺は我慢する。

 買い物かごを持って、小夜と一緒にスーパー内を歩き出した。

 もちろん、手は握られたままで。






 俺らはほとんど手を離すことなく、買い物を済ませてスーパーをでた。


「…蓮さん」

「ん?」


 ずっと顔を赤らめている小夜が、俺を呼んで更に顔を赤らめた後、俺が持っている買い物袋に視線を落とす。

 …買い物袋?買い物袋…なんだ?


 そう思っていたら、小夜は繋いでない手で無理やり買い物袋を繋ぎ、手の繋ぎ目に移動させた。

 そして可愛らしく握られた俺の手にぶつける。


「…一緒に持て…ってこと?」


 小夜の顔が輝いてコクコクと頷いた。

 思いつきで言ってみたんだが当たっていたらしい…


「わかった…」


 握られた手を離すと、望んでいたくせに俺の手を物惜しそうにしている…可愛すぎない?

 代わりにその手に袋の持ち手の片方を押し付ける。


「…これでいいんだろ?」


 もう片方の持ち手を持ってそっぽを向きながらそう言うと、「…ありがとう、ございます

…」と聞こえてきた。

 …何度、心臓をうるさくさせられるんだろうな。





 小夜の部屋に帰り、料理をした後。

 向かい合わせに座って、手を合わせ俺たちは晩飯を食べ始めた。


「…蓮さん?」

「ん?」

「何でじっとみてくるんですか…?」


 少し引いてきた赤みを再発させて視線を逸らす小夜…やば、可愛い…

 実際言うと、じっとみてるつもりは無かった。


 強いて言うとするなら…


「…飯を食ってるお前が可愛かったから?」

「ッ!?」


 ……まてまてまてまて!?一瞬意識失ってたけど俺今なんて言った!?


「すまん!?」

「うぅ〜…………」


 小夜は頭から湯気を出しながら、律儀に皿を横に退けて突っ伏した。

 すげえ、湯気って本当に出るんだな…


 …なんかやらかしたなあ…と、そんな小夜をまたじっと見つめながら俺はそう思った。

 少し思ったんだが、この日常ってここ1ヶ月ずっと続くのだろうか?


 …それはそれで幸せだし、困るな…

 ま、続いてほしいっちゃ続いて欲しいけど。




【後書き】

 これでなろうに追いつきました!

 これからは12月7日以降毎日0時、なろうと同時投稿しようと考えています。よろしくお願いします!

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