EP94.やっぱり姫は人気

 一週間後。

 俺たちのクラスの出し物である模擬レストランが生徒会に認められたので、早速作業開始だ。


 まずは役割決め…いや、これ作業なのか?

 それはさておき、俺こと江波戸蓮えばとれんは接客など体質のせいで無理なため、勿論料理に回るつもりである。


「じゃあ午前の部から決める。まずは接客をしたい人」


 委員長のその宣言で、クラス…特に男共の視線が俺の後ろに集まった…いや、露骨すぎるだろ…

 白河小夜しらかわさよは学園の「姫」様、やっぱり同じところに回りたいに違いない。


「いないか…じゃあ、料理側をしたい人」

「はい!!」


 今の大声の主は俺だ…いやだって、さっさと決めて寝たいじゃねえか!?

 俺の勢いの良さに男子委員長は気圧されていたが、すぐに冷静になり女子委員長に「江波戸」と言った。


「やるんだね。料理」


 隣の席の若林勇翔わかばやしゆうとがそう言ってきたので俺は頷いた。

 EP56の時に一応自己紹介で趣味として答えたので、何も不自然はないだろう。


「他に誰かいないかー?」

「はい」


 後ろから声が聞こえて、俺と男共は後ろを振り向いた。

 小夜が綺麗に手を挙げたのだ、タイミング的に俺目的のような…いや、勘違いなら気まずすぎる。


「意外だな、白河。他に───」

「「「「「「「はい!」」」」」」」


 男子委員長が言い切る前に男共の9割以上が手を上げた…いや、すげえな。

 男子委員長は苦笑して、女は全員男共を睨んでいた。


「料理が出来ない奴は手を下げろ。本番に出来なくて制裁されたくないやつもな」


 男子委員長お前冷静だな…今度名前覚えとこ。

 で、その男子委員長の宣言で男共の7割が手を下げた…いや、どんだけ小夜目的だったのお前ら。


「少し多いな…」


 一応女子も上げていたので、少しオーバーしていた。


「俺はやるつもりが無いから、俺が王様でジャンケンで決める」

「委員長、それは俺と白河もか?」


 さすがにもう認識しているだろうから普通の声で質問する。

 ここで頷かれたら二つの意味で面倒くさい…また決めなくちゃいけないのと、小夜が居ないのと。


「いや、江波戸と白河は先に手を挙げていたからやらなくていい」


 …おい男共、視線がこええぞ。


「あいつ…羨ましい…」

「地味に白河さんの前の席だし…」

「自分の身の程を弁えていないようだな…甚だ図々しい…」


 …あ、鬼辻おにつじお前だったんだな…どっかの漫画のラスボスみたいなやつ。

 名前珍しすぎて覚えちまったよ、仲良くする気はなんとなくないけれど。


「じゃあ行くぞー。じゃーんけーんぽん」


 委員長、お前じゃんけん弱すぎだろ。

 全員勝ってんじゃねえか…いやもうこれ奇跡だろ。


「…黒板やるからやってくれないか?」


 あ、萎えて女子委員長の方に任せてる。

 苦笑しながら、女子委員長が前に出てきた。


「じゃーんけーんぽん」


 今度は強すぎるだろ!?男子委員長もう絶句してるぞ!?


 結局、一番前の席に座ってる挙手してない男がやったのだった…


「じゃあもう1回聞くよ〜。午前の接客やりたい人〜」


 おっとりした声で今度は女子委員長が指揮をする…ドンマイ、男子委員長。


 で、女子委員長のその声で一定量の男子と女子が挙手して、一瞬で決まった。

 その中には魔王様と勇翔もいた、仲良しだなお前ら。


 で、決まった直後五限目終了のチャイムがなった。

 号令をすると、後ろの方がすぐに騒がしくなった。


「白河さん文化祭の日一緒に回らない!?」

「いや、俺とどうよ!?」

「俺と俺と!!!!」


 主張が激しい男どもの誘いを受けて、小夜は苦笑している。


「いや、遠慮しておきます…」

「「「なんで!?」」」


 男子たちが仲良くハモった瞬間、小夜の視線が一瞬こちらに向いた気がした。


「遠慮せずに!」

「白河さん!?」

「いや、あの…」


 さっきのがなんのことが良くはわからなかったが、とりあえず男共うるさかったので俺は叫んだ。


「うるせえよ!?さっ…白河が困ってんだろうが!?」


 あっぶねえ!?キレすぎて名前で言うところだった…

 で、男共…だから俺に鋭い視線を向けるのはやめてくれよ。


「江波戸くんの言う通りだよ。少しは落ち着きな?」

「勇翔がいうなら…」

「わかったよ若林…」


 カーストって制度を改めて思い知らされた俺であった。


「ありがとうございます。れっ…江波戸さん、若林さん」


 小夜、やめろ…こちらを見て笑うな…


「いや、困ってたみたいだからね。大変だね、白河さんも」

「ええ…私は好きに文化祭を楽しみたいですのに…」


 ん?一瞬視線がこちらに向いた気がしたが…気のせいか?

 そう思っていたら、勇翔が魔王様の方に行くそうで立ち上がって去っていった。


「小夜、文化祭誰とも回らないつもりなのか?」


 誰かと回ると聞いていなかったので若干小声で訊くと、小夜は首を横に振った。

 なんだか顔が赤らみ、頬が膨れている気がする。


「…蓮さんと回りたいです」

「は?俺?」

「そうですっ。嫌…ですか…?」


 願ってもいない事だった…普通に嬉しかった。

 俺は快く頷くと、小夜が顔を輝かせた。


「ありがとうございます!」

「あとよ…」


 俺の呟きを聞いて小夜が首を傾げたが、俺は言い淀んだ。

 だってよ…これを訊くのは、結構勇気がいるからな?


 だが、俺は決心して口を開く。


「後夜祭も…一緒にどうだ?」


 後夜祭…文化祭最終日の夜、4つの校舎の内側で行われるイベント。




 そこで生徒会が用意するイルミネーションを男女で見ると、今後ずっと一緒になることができる言い伝えがあるものだった。





「…はい」


 小夜が強く頷いたのを見て、顔が赤くなるのを感じる。

 そして、俺はあることを決心して「ありがとう」と言った。

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