EP79.絶叫系を姫と攻略

 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。

 今、白河小夜しらかわさよとライド系アトラクションを楽しんできたところである。


 演出が激しく、少し心臓が悪いものがあったが、それくらいがちょうど良かったほど楽しめるいいアトラクションだった。


「蓮さん」

「ん?」


 そんな感じで余韻に浸っていると、小夜に少しだけ力強い声で呼ばれたので首を傾げながら振り向いた。

 振り向いて小夜を見ると、かなり真顔…いや、微かに何か熱を感じる…どうしたんだ?


「そろそろジェットコースターが乗りたくなってきました」


 …ん?''そろそろ''、って…小夜、お前ジェットコースター好きだったのか、初めて知ったわ。

 普段の性格、今の服装から全く想像できなくて軽くびっくりしたぞ。


「もう5周はしたいですね」

「え、なに?小夜って実はそういうキャラだったの?」

「はい?そういうキャラ…とは?」

「あー、いや…なんでもねえわ」

「?」


 馬鹿みたいにジェットコースターに乗って相手をリバースさせる、良い意味で天真爛漫なヒロインってラブコメに時々あるけどさあ…

 まさか小夜がそういうタイプとはガチで思うわけがないだろ!?

 悪い意味と小夜が分かりかねないから詳しくは言わなかったけどよ…うーむ。


 昼飯はまだ食ってないから別に反対する訳でもないが…小夜の勢いに飲み込まれると完全に酔って食欲が失せる気がする。

 いや、俺は万人向け工房とかで有名な後ろ向きジェットコースターじゃないとあまり酔わないタチではあるんだが…さすがに5周ってきつくね?


「あ、足りないんですか?それなら10周でも33周でもいいですよ?」

「いや逆だわ!?あとどこから33周が来たんだよ!?」

「この遊園地でジェットコースターを33周すると何やらいい事がある…というジンクスがあるようです。詳しくはわかりませんが」

「悪質だなそのジンクス!?」


 なんか小夜がこんなにもボケ側に回ると思わなかった…姉貴がいないと大体ツッコミ側だっただろ、コイツ。

 まあ、楽しいし多分天然ボケだから、個人的にはそういう一面もあって可愛いなあと思うだけだけどさ。


「とりあえず、私はジェットコースターに乗りたいです。いいですか?」

「あ、ああ。もちろんだ。お手柔らかに頼むぞ…」

「ありがとうございます!いっぱい乗りましょうね!」

「小夜〜?お〜い、聞こえてるか〜?」


 大喜びして突っ走っていった小夜は俺のことが見えていないらしい…めちゃくちゃ嫌な予感がするのは、俺の気の所為だよな…な?







「楽しかったですね!蓮さん!」

「そうだな」

「あと何回乗りますか?」

「いや、そろそろ飽きたから後にしてくれ…」

「まあ、たしかに7回乗りましたもんね」


 結局、俺も小夜も酔うことなく終えた。

 けど、7回って…さすがにちょっとだけ頭がふわふわしてくるし、飽きても来る。

 そう思いながら少しだけ荒くなった息を整えていると、ある施設が視界に入る。


「……小夜、昼飯前に一個だけいいか?」

「はい?どういうものです?」

「絶叫系のものだ。今、俺の視界の中にそれが入っている」

「あ、やっぱり8回目行くんですか?」


 いやちげえよ、もう一時間は乗りたくねえよ。

 俺が首を横に振ると、小夜は周りを見渡し、俺が行きたい施設を視界に納めたであろうタイミングと同時に肩が跳ね、固まってしまった。


「…あれ、いいか?そういえば最初小夜も提案していたよな?」

「………」


 小夜を覗き込むと、固まってはいるがその目は潤んでいた。

 EP77の時に小夜が提案してしまっていたもの…それは…


「お、お化け…屋敷…」


 お化け屋敷だった。

 ちなみにこの遊園地のあのお化け屋敷はそこそこ怖いと有名である。

 小夜が提案していたし、なんとなくラブコメにはあそこは定番だよな〜とか思っていたら行きたくなってしまったのだ。


「れ、蓮さん?あれは…その…」

「よし、じゃあいくか!」


 俺は小夜の腕を掴んでお化け屋敷に走る。

 小夜は「れ、蓮さんっ…」と泣きそうになっているが…まあ、あんなジェットコースター行かされたからな。

 それに…


「大丈夫だ。俺がいるからな」


 実を言うと、俺は昔ホラー系の本を読むことを趣味にしていたので、そっち系の耐性にはかなり自信があった。


 なので、小夜が怖がっても俺は介抱するつもりだし、そもそもとして怖がる小夜を見たいのだ。

 そう思ってこの言葉を口にしていたのだが、小夜がこの言葉で固まっているのを、俺は気づくことはなかった。






 お化け屋敷は、廃病院がテーマの建物を懐中電灯一つで進んでいくものだった。

 かなり怖いと評判らしく、非常用出口はいくつか設置されているらしい。


 俺はまた叫び、小夜を連れて廃病院の中を進む。

 手には懐中電灯を、裾には小夜の手とフル装備である。

 というか小夜が袖を手で摘む行為ってしたことあったっけか?可愛すぎてちょっと失神しそうである。


 そう思いながら小夜のペースに合わせて進んでいくと、血のり?でできた手垢やら、上からぶら下がっている骨やらがあちこちにあってだな。


「ひゃあ!?」

「ううっ…」

「きゃっ…いやっ…」


 ……あれ?なんか俺悪いことしたみたいになってるんだが…

 小夜の反応がなんか…ねえ?


「大丈夫か?」

「うう…なんとか…」


 おそらくまだ中盤なのだが、小夜の瞳は潤んでいるし、眉も下がっていて、とても大丈夫とは思えない。

 …いや、なんで最初提案したのよ…


 そんな小夜を心配していると、急に現れて驚かす仕掛けが動いた。

 ゾンビのような人形なんだがおぞましい…というかグロくて、俺も少し顔を顰めてしまった。


 しかし小夜はというと…


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「うおっ!?」


 耳鳴りがなるくらいに悲鳴をあげたと思えば、俺に力強く抱きついてきたのだ。


 腰に手を回して、太ももに額を当てられる。

 相当密着しているので膝あたりになにやら柔らかいものがあたり…っておい!?


「大丈夫か!?」

「うう…はい…でも、ですね…」

「ん?」

「腰抜かしちゃいました…」


 うん、見れば分かる。

 抱きついた時に膝が曲がっていたので、なんとなく腰を抜かしたんだろうな…ってなった。


「…どうする?」

「どうしましょう…」


 いや、そんなうるうるとした瞳で上目遣いに見られても困るんだが!?

 え〜…どうする?これ…んー…


「…小夜、とりあえず出口に出るってことでいいんだよな?」

「え…はい、すみません。お願いします…」

「じゃ、ちょっと我慢しろよっ…」

「え?ひゃっ!?」


 腰を抜かしている分方法がひとつしか思いつかなかったので、俺は小夜の拘束を解いてしゃがみ、膝裏と背中に腕を回して持ち上げる。


「れ、蓮さん!?」

「悪い!今からでるからまってろ!」

「はっはい…」


 さすがに大胆すぎたので、嫌がられるかと思ったが…小夜は状況が状況なのか、強くは抗ってこなかった。

 しかしさすがに付き合ってもないのにこれはダメなので、俺は全速ダッシュでお化け屋敷から脱出した。

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