EP78.クレープは姫からの甘い味

 俺こと江波戸蓮えばとれん白河小夜しらかわさよは、あの後無事に迷路をクリアした。

 何故か最後まで小夜が顔を真っ赤にしていたが…なんとなく気遣ってそこにはあまり深く触れないようにしておいた。


 施設から出て小夜の顔が元に戻ると、俺は口を開いた。


「次はどこにする?」

「そうですね…えっと、ここはどうですか?」


 小夜が地図が刷られているパンフレットを指すが、字が小さいから読めねえ…

 仕方なく地図を覗き込むと、耳元で「ふぇっ!?」という声が響く。


「どうした?」

「い、いえ。なんでも…」


 横目で声を出した本人である小夜を見て確認するが、なんでもないらしい。

 てか見て思ったけど顔近いな!?いや俺から来たんだけどな…?それと、小夜の顔が赤くなっていたのは気の所為だよな…?


 まあ、もう一回確認する覚悟はもう無いんだがな!!

 あ〜熱いわ〜、顔がすげえ熱いわ〜…


 気を取り直して小夜が指しているところを見ると、所謂ライド系のアトラクションだった。

 ジェットコースターではなく、乗り物に乗りながら様々な演出を楽しむもので、写真をみると先程の迷路よりかなり迫力がありそうである。


「わかった。いこうぜ」

「ありがとうございます。しかし、少し遠いので先程言っていたことをお願いしてもいいですか?」


 恐らくだが、迷路に行く前に俺が提案して保留したものだろう。

 その時の小夜の表情を思い出してまた顔が熱くなるのを感じるが…まあそれはいい。


「もちろんいいぞ。どれがいいんだ?」

「そうですね…あそこに売ってあるクレープをお願いします」


 小夜は近くでクレープ屋を営んでいる屋台を指さした。

 俺は頷き、二人でそのクレープ屋に向かう。








 クレープ屋でまたもや叫ぶことになった俺は、無事に小夜にクレープを奢ることが出来た。

 小夜が頼んだものはチョコバナナ、400円で少し高いように感じたが、小夜の笑顔が見れるなら容易い。


「ありがとうございます」

「おう。俺が提案したことだしな」

「ふふ。それでも、ありがとうございますと言わせてください」


 まあ、感謝されることは素直に嬉しいことなので受け取っておく。

 小夜は小さく口を開いて、クレープをハムハムと食べ始める。

 それがまた可愛くて…お嬢様のような格好をしているが、クレープを頬張る姿でそれもまた可愛さ倍増だ。


「おいしいです」

「そりゃよかった」

「蓮さんも食べます?」


 そう言って小夜はクレープを俺に差し出してきた…は?

 いや、ちょっと待ってくれ…食べるのはいいんだが、何処から食べるにしても…その…


「蓮さん?」

「あっいや、その…さ、小夜のために買ったものなんだし、俺はいいよ。」


 本当の理由は完全に別の事だけどな!

 だってアレだぞ?か、かん…ってやつだぞ?


 え?EP64のあとはどうしたんだって?

 あの後は普通にスプーン交換して食ったから大丈夫だったんだよ…って思い出させんなよ!?

 という訳でそういうのはやった事ない!気恥ずかしくてできないぞ!?


 心の中で大慌てな俺に比べ、小夜は頬を膨らませている。


「むう…仮にでも蓮さんが買ったものなのですから、食べてくださいよ…これもシェアってやつですよ。シェア」


 味のシェアってか?それならたしかに使い方は間違いないけど、そういう問題じゃないんだよなあ…

 というかシェアって映画館デートの時も使ってたけど、丁度その話題がでると思わなくて少しだけ頬が緩んでしまう。


「はい、あーん」

「ぐぬぬ…」


 俺が呻いて頑なに退けていると、急に小夜は少し俯いた。

 その表情はどこか拗ねていて、顔はものすごく赤い。


「…蓮さんの考えていることくらい、私にだってわかっています…」

「ッ!?おま──」


 小夜の言葉を聞いて、俺が口を開いた瞬間の出来事である。

 なんと、小夜が俺の口に無理やりクレープを突っ込んできたのだ!

 いや待って!恥しいしたないし小夜愛かったの3K(?)だし待って!?


「た〜べ〜て〜く〜だ〜さ〜い〜!!」


 小夜がグリグリとクレープを押し付けてくるけど落ち着けよ!?ホイップが口元にベタベタついて汚ねえんだよ!?

 俺は仕方なくクレープを人齧りしてから、小夜の両肩を掴んで引き剥がす。


「むぅ〜!」

「美味かったから!食ったから!な!?」

「それならよかったですっ」


 頬がはち切れんばかりに膨らます小夜だったが、俺がそう言った瞬間満面の笑みを浮かべる。

 表情豊かだな!?可愛いけど!


「あっ、顔にいっぱいホイップついてます…すみません」


 俺の顔を見て、小夜は途端に眉を下げた。

 それから胸ポケットからメガネと別に入っていたらしいハンカチを取り出し、俺の口元についたホイップを優しく拭う。


「さんきゅ」

「いえ、私がやった事なので…」

「別に、小夜の色んな表情見れたし、俺としては儲けものだったよ」

「………」


 本心を言うと、小夜が顔を赤くしてジト目で見てくる。

 俺が首を傾げると、小夜は何故かそっぽを向いてスタスタと先へ進んでしまった。

 俺は慌ててその後を追いかけたのだった。

 その時残っていた[間接キス]込のクレープの後味は、とても甘かった。



追記:この後のったライドのアトラクションは小夜がテンションを上げてとても可愛かった。

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