EP73.風邪な姫を看病する

 俺こと江波戸蓮えばとれんは、風邪になって倒れている白河小夜しらかわさよの看病をすると決め、必要なものを揃えていた。


 冷却シートに氷枕、タオル、スポーツドリンク、ゼリーとかプリンに、食べやすい料理の材料…と。


 それらをクーラーバッグに詰めて、俺は小夜の寝室に戻った。

 やはり甘い匂いが強く充満しており、少し頭がクラっときてしまうが…そんな場合ではない。


 俺はまず氷枕を柔らかい素材のタオルで包み、小夜の枕とすり替える。

 そして簡単に温度を測った時のように前髪をかきあげて、冷却シートを貼る。


 それから、ストロー型キャップのついた容器のスポーツドリンクに、汗を拭くためにぬるま湯を入れた浅型バケツとタオルをセット。

 ぬるま湯が冷めた時のために熱いお湯も忘れない。


 よし…これで緊急時は何とかなるか?


 少し小夜の様子を見ると…多少息は荒いが、熟睡しているようだ。

 その様子を見て俺は安堵し、一回部屋を出た。


 起きた時に食べさせるよう、キッチンを借りて料理を開始する。


 やはり料理過程は俺には説明できないが…ネギ入りの生姜粥、卵スープ、りんごのすりおろしを作る。

 ちなみに全部手作りな、栄養価高いし、情を込めた方が個人的にいいと思ってる。


 トレイに乗せて一回料理は置いておく、あとで温めるから持っていく必要は無い。

 再度寝室にお邪魔し、小夜の様子を見る。


 先程と変わらず、スヤスヤと寝息をたてながら熟睡していて、そんな姿に俺は苦笑する。

 粗方やる事は済ませたので、ベッドの横で腰を下ろして元々持ってきていた本を開いた。







 結構な時間がたった。

 あれから定期的に氷枕を入れ替え、小夜の顔に汗が滲んでいたら拭くようにしていた。

 そうしていたら、段々と小夜の息は落ち着いてきていたのだった。


「んん…ん…」


 布団が音をたて、モゾモゾと動き出す。

 小夜が身動ぎしているらしい…あかん、これも可愛いと思ってしまう。


 頭を振って俺は本を閉じ、小夜が起きるかどうか様子を伺う。

 直に小夜は、瞼を開いて潤んだ瞳の姿を現れさせた。


「ん…ん〜…」


 まだ寝ぼけているらしい…あぁ…ダメだ頑張れ理性…!

 小夜がゆっくりと体を起こし、周りを見渡す。

 そして小夜は、俺と目が合った。


「…あれ?蓮さん…?なぜここに…?」


 小夜がこてんと可愛らしく首を傾げる。

 …その蒼い瞳はまだとろんとしていて、まだ意識はハッキリしていなさそうだ…


「…お前が風邪を引いたから看病しているんだ」

「えっ…あの…すみません…」

「気にすんなよ、いつも世話になってるからな。ほれ、スポドリ」


 そういってスポーツドリンクを手渡す。

 小夜は弱々しくお礼を言って、控えめにストローを吸う。


「とりあえず、体温測ろうな」

「はい…」


 そばに置いてあった体温計を手渡し、顔を背けて本を開く。

 少ししたら音が鳴ったので、再び本を閉じ体温を確認する。


「7度8分…多分寝てる間に上がったんだな。まあ、すぐ下がったぽいしまだ良かったか…小夜、まだしんどいか?」

「はい…」

「ん。食欲はあるか?」

「えっ…はい、少しなら…」


 あるらしいので俺は立ち上がり、キッチンに向かう。

 粥とスープを軽く温めて、再度トレイに乗せて寝室に戻る。


「ほれ。さっき作った」

「えっと…何から何まですみません…」

「気にすんな。病人は甘えとけ」


 俺の言葉に、小夜は弱々しく頷いた。

 俺も頷き返し、ベッドサイドテーブルにトレイを置く。


「おいしそうです…」

「さんきゅ。自分で食べれるか?」

「え…あの、もしできなかったら、食べさせてくれるのですか?」

「……病人だからな」


 俺は顔を背ける。

 正直言うと、小夜がそんな事を聞いてくると思わなかったので心臓が跳ねた。

 勘弁してくれよ、本当に…


「じゃあ…少し難しそうなので、食べさせてもらってもいいですか…?」

「……ああ」


 上目遣いにそう言われたら断れるわけねえだろ…風邪のせいでとろんとした目も相まって破壊力高すぎなんだよ殺す気か…?


「何から食う?」

「では…お粥をお願いできますか?」

「わかった」


 ということなので、平静を装いつつネギ入りの生姜粥の入った土鍋を手に取る。

 レンゲで少し掬い、控えめに息をふきかけて冷ます。


 小夜はその様子をじっとみているが、そんなの気にする余裕は今の俺にはない。


「ほれ…あーん…」

「ッ!?…いただきます…」


 小夜が一瞬目を見開いたが、何かあったのか?

 疑問に思いながらレンゲを差し出すと、小夜は可愛らしくパクッと食いついた。


「どうだ… ?」

「いつも通り美味しいです…」

「それはよかった…」

「はい…それと…本当に食べさせてくれると思いませんでしたので、少し驚きました…破壊力高すぎです…」

「…?お、おう。それはよかった」


 最後何を言っているのか全くわからなかったが、少なくとも上機嫌らしいのでとりあえず食べさせ続ける。

 小夜はパクパクと美味しそうに食いつき、思ったよりも早く料理を平らげた。


「ご馳走様でした…美味しかったです」

「さんきゅ。それじゃさっさと寝な」

「わかりました…あの、でもひとつお願いがあるのですが…」

「どうした?」


 言うことは出来る限り叶えようとお待ってるので小夜を促すと、小夜は急にモジモジと言いにくそうにしている。

 元々赤い頬が更に赤くなったんだが…大丈夫なのか…?


 俺が首を傾げていると、直に小夜はキュッと唇を結び、その言葉を口にする。


「…私が寝るまで、そばに居てくれますか…?」

「ッ!?」


 今度もとろんとした目で上目遣いにお願いしてくるので、俺は言葉を失う。

 小夜は言い淀んでいる俺を見て、眉を下げる。


「…ダメ、ですか…?」

「……わかった…」


 俺が目を逸らして頷くと、小夜はぱあっと顔を輝かせる。

 本当に風邪…なんだよな?あ、風邪だわめっちゃ顔赤いわ。


 そんな訳で、後から部屋を出るつもりなので俺は寝室の電気を先に消して、再度ベッドの横に腰かける。


「おやすみなさい、蓮さん」

「ん。おやすみ、小夜」


 そういって小夜は枕に頭を預ける。

 俺は心臓が高なってうるさくなっていたが…暫くして意識が薄れて言ってそれは解決?したのだった…

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