EP65.映画を姫と観よう
…俺だ、
昼食を済ませた後、
かなり早めにショッピングモールに来てしまったが、楽しい?ウィンドウショッピングのおかげで空いた時間を有意義に使えたと思う。
ただ、その内容を許容できるかといえばやっぱり別なものだ。
タッチパネルを俺が操作しているんだが、スマホに映し出される画面を見て恐る恐る顔が
「…本当にこれでいいんだよな?」
「…もう行くしかないでしょう。今から購入しようにも席が空いていません」
「だよな…」
お互い目を合わすことが出来ない会話だ。
こんな状況でプレシアムシート…別名カップルシートのチケットを発行しようとしている。
さすがに気まずいにも程があるくないかね…
しかし、小夜の言う通り通常席を買おうにも、観ようとしている映画が人気なため席が空いていない。
逃げ道はもうないと、俺は震える指でチケット発行ボタンを押した。
「………」
「………」
あれから俺が塩、小夜がキャラメルの少なめのポップコーンとジュースを購入し、小夜がチケットを店員に見せて哀れな目を向けられた…ことはよかった。
双方共もう覚悟を決めたようで顔から赤みが消え、トレイを持ってポップコーンを二人でシェアしよう…と再びシェアの話をしていたことまではよかった。
…が、劇場に入り、プレミアムシートを見た瞬間、どっちも固まってしまった。
理由はというと…
「狭くね?」
「狭いですね」
思ったよりソファが狭かったことである!
いやシャレになんねえよ!?これもう密着しないと座れないだろ!?
さっきの気恥しさにプラスして、一周回って冷静になった俺たちは顔を引き攣らせ、目を合わせた。
「…どうする?」
「座るしかないでしょう…」
「だよな〜…」
俺はもう項垂れるしかない。
たしかに最近毎日一緒の部屋で過ごしているが、くっついている事はないのでかなり気恥しい。
小夜は真っ暗でも分かるほど顔を真っ赤にして、しかしもう諦めたようでソファに座り、トレイを肘掛けにセットした。
ではでは失礼して…と現実逃避を兼ねてふざけたノリで恐る恐る小夜の隣に腰掛ける。
「………」
「………」
なあ、長時間これとか拷問か?
座り心地良いし画面良く見えるしで文句言いにくい拷問ありがとう、ふざけんな。
はあ…理性おつかれ。
二人して固まって、気分を紛らわせるためにスクリーンの告知やコマーシャルを眺める。
少しすると劇場内が暗くなり、映画を観る時の注意事項を説明するムービーが流れた後に映画は始まった。
俺は隣の温かさのおかげで集中できるかわからず、不安になってがんばってスクリーンを眺めた。
結論から言おう。
めっちゃ集中できた。
理由としては映画が面白いからに尽きる、ふと隣を見ると小夜も映画を楽しんでいるようだ。
顔は近いが、落ち着きを取り戻した俺の理性は余裕で働いてくれた。
映画内容としては、病気で余命が少ないクラスメイトのヒロインがやり残したことを、主人公が代わりに叶えてあげる…
そういうベタでありながら分かりやすいストーリーのアニメーションだ。
アニメ特有の表現や話のテンポ、二人の距離が徐々に近づくというジレジレ感がとても面白い。
…しばらくして、ヒロインが食べているフルーツを食べている姿に見とれていた主人公。
その主人公をヒロインがフルーツがほしいと勘違いして所謂[あーん]の形になっているシーンになった。
あることを思い出して小夜を見ると、小夜と目が合った。
「(そういえばシェアしていませんでしたね…)」
「(そうだな)」
さすがに映画館なので小声で話す。
小夜はキャラメルのポップコーンを一つつまみ、俺に差し出してきた。
「(蓮さんも、あーん)」
「(へいへい)」
映画の雰囲気に乗せてなので対して緊張せずに、俺はポップコーンに食いついた。
先日(EP58)の事故と違ってちゃんと小夜の指は咥えていない。
「(どうですか?)」
「(悪くないな。美味い)」
「(ふふ、そうですか。では蓮さんのポップコーンも頂きたいのですが…)」
「(わかった)」
俺も塩のポップコーンを一つつまみ、小夜に差し出す。
小夜はそのポップコーンを小さく口を開いて、まるで小動物のように食いついた。
正直いうと、この時だけ心臓がうるさくなった。
「(おいしいです)」
「(そうか。それならよかったよ)」
「(はいっ)」
お互いのポップコーンをシェアした事だし、俺らは再び映画に視線を戻した。
キャラメルポップコーンの後味がとてつもなく甘いのは、気の所為ではないだろう。
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